13.魂は鋼に宿る
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
クロードの一言で、ジェシカとアルスは顔を見合わせ、笑った。
「あはは!」
「良かったぜ!」
無事、アルスのアルカナにより〈真打〉建御雷神と、アリュールのダークマターが相入れることに成功したのだった。
アルスとクロードはひと息つき、安堵の表情を浮かべる。だが、アンディが口を開く。
「よくやったよ、二人。そしてジェシカ。
だが──これで終わったわけじゃない」
アンディは赤と緑が混じり合った鉱物──玉鋼を取り出し、テーブルの上に置いた。
「いいか。あの時アルスが言っていたことが本当なら、これから三日三晩、寝ることは許されない」
その言葉に、クロードが静かに割って入る。
「……何一つ間違っていません。
これは、まだ密度が足りない状態です」
玉鋼を見つめたまま、続ける。
「ジェシカのスカーレットローズの力を刀身に伝えるためには、密度──つまり鋼を薄く延ばし、折り重ねていく。
それを、何度も何度も繰り返す必要があります」
クロードの説明に、アンディとアルスが頷く。
やがてクロードは、ジェシカの方へと顔を向けた。
「ジェシカ、お疲れ様です。
ここからは僕たち鍛治師が、魂を宿らせます。大丈夫です」
「……わかった! あとは任せるね」
どこか寂しさをにじませながらも、ジェシカは工房を後にした。
その姿が完全に見えなくなったとき、アンディが低く言う。
「それがお前の覚悟か」
一瞬の沈黙。
「……はい。今の俺には、ジェシカを守ることなんてできません。
だけど……武器なら!」
クロードの真剣な表情と言葉に、二人は何も言わず頷いた。
「それで、こいつをどうする?」
アルスの問いに、クロードはすぐに答える。
「まず、この玉鋼を薄く延ばします。アンディさんは炉へ。
そしてアルスさんと自分で、大槌を打ちます」
そう言って、クロードはアルスに大槌を手渡した。
「どうぞ」
「ああ。なあ、クロード」
「はい?」
「俺はもう、お前を信頼できる仲間だと思ってる。
だから次からは、アルスって呼んでくれ」
「……はい! 分かりました!」
「ふっ。俺にも“さん”は必要ない。
俺はもう、クロードのことを認めている」
アンディの言葉に、クロードの目から涙がこぼれた。
「……はい。ありがとうございます」
涙を拭い、再び真剣な表情に戻る。
「それでは──これより、魂の系譜を執り行います」
クロードの低い宣言が、静まり返った工房に落ちた。
アンディが無言で頷き、玉鋼を炉へと放り込む。
次の瞬間──
ゴォォォッ……!!
炉の炎が唸りを上げ、紅蓮の光が三人の顔を照らし出した。
揺らめく熱気が空間を歪め、息をするだけで肺が焼けるように熱い。
やがて。
赤く──いや、白に近い輝きを帯びた玉鋼が取り出される。
「行くぞ」
アンディの一声。
その瞬間、三人の呼吸が重なった。
カン――ッ!!
轟く一撃。
大槌が振り下ろされた瞬間、火花が爆ぜる。
まるで星が散るように、無数の光が宙を舞った。
カン! カン! カン!!
リズムは次第に加速していく。
アルスの一撃は重く、地を揺らすように。
クロードの一撃は鋭く、芯を射抜くように。
「まだだ……もっと密度を上げる!」
クロードの声が熱にかき消されそうになりながらも響く。
玉鋼は叩かれるたびに形を変え、伸び、折られ、再び重ねられていく。
ジジジ……ッ!!
焼けた金属の軋む音。
鼻を突く鉄の匂い。
飛び散る火花が肌をかすめ、焼けるような痛みを残す。
それでも、誰一人として手を止めない。
「はぁっ……!」
クロードの額から汗が滴り落ち、蒸気となって消える。
握る槌は重く、腕は軋みを上げている。
だが──
(止めるな……ここで止めたら、魂は宿らない!)
歯を食いしばり、振り下ろす。
カンッ!!
音が、変わる。
わずかに。だが確かに。
「……今、音が……」
アンディが低く呟く。
「……はい。芯が、締まり始めてる」
クロードの目が、鋼の奥を射抜く。
まるで──そこに“何か”が宿り始めているかのように。
「続けるぞ、アルス!クロード!」
応えるアルス。
「ああ、任せろ!!」
再び振り下ろされる大槌。
カン!! カン!! カン!!
音はもはや“打撃”ではない。
鼓動だ。
三人の呼吸と、心臓と、意志が一つのリズムとなって工房に響き渡る。
炎が吠える。
鉄が唸る。
魂が、叩き込まれていく。
やがて──
クロードが、静かに呟いた。
「……応えてる」
その言葉に、二人の動きがわずかに止まる。
赤熱する鋼の奥。
確かに“何か”が脈打っていた。
「もうすぐだ……!」
その瞬間、再び槌が振り上げられる。
魂を刻む、最後の工程へと──。
───────────────
一方その頃。
ジェシカは三人の鍛治師に見送られ、工房を後にして廊下を歩いていた。
ふと、視界に誰かの足元が入る。
立ち止まり、顔を上げる。
そこに立っていたのは、グラフだった。
「……グラフ。どうしたの?」
「……ああ。なあジェシカ、少し離れた場所で話せないか」
どこか硬い表情に、ジェシカはわずかに違和感を覚える。
「あ、うん。いいけど……」
二人はそのまま拠点の外へ出た。
「ついて来い、ジェシカ。──ブラッディローズ」
次の瞬間、グラフは地を蹴り、遠くへと飛び出す。
「えっ……ちょっと待って!」
慌ててジェシカも後を追う。
辿り着いたのは、ミネルバ王国から少し離れた場所。
かつて〈魅惑のアリュール〉がいた廃城跡だった。
グラフは何も言わず、帽子と黒いコートを脱ぎ捨てるように置く。
「え……いきなりどうしたの、グラフ……」
「何も聞くな。今は──全力の俺を相手してくれ」
あまりに唐突な言葉に、ジェシカは戸惑う。
だが、目の前のグラフの表情は、冗談ではなかった。
「……分かった」
その返事に、グラフはわずかに笑みを浮かべる。
「……行くぞ!!」




