12.神域を超えし一振り
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
──拠点。工房内。
工房にはアンディ、アルス、クロード、そしてジェシカがいる。
先にジェシカが手に持つ建御雷神を、鞘ごとテーブルに置いた。
それを見たクロードは無言で一礼し、鞘から刀を抜く。
その刃の美しさに三人は目を奪われる。
「『すごいな……』」
そんな三人の中で、アルスが口を開く。
「先にアリュールのダークマターを錬成させてくれ。
その先はジェシカは必要ないからな」
二人はアルスの言葉に頷く。
「分かりました。ジェシカ、この刀は俺が預かります」
クロードの言葉にジェシカは応えた。
「うん。お願い、クロード」
「はい」
柄から刀身を抜き出し、“やっとこ”で刀身を挟み、炉へ入れる。
するとすぐに抜き出し、軽く叩く。
「……すごい。
この刀身はもう最高な状態です」
クロードはアルスの方へ振り向く。
「アルスさん、お願いします」
「分かった。ジェシカ、頼む」
「うん」
ジェシカはアルスに近づき、成り行きを見守る。
クロードはもう一度、炉へ入れ、刀の状態を見極めて取り出す。
「アルスさん!お願いします!」
アルスの目の前に<真打>建御雷神が置かれる。
「……行くぞ」
アルスは四代厄災──魅惑のアリュールのダークマターを手に取り、錬成を始める。
ダークマターはアルスの手のひらから浮かび、黒い結晶の奥から小さな光が溢れようとする。
しかし、光がある一定に達すると、それ以上は何かに抑えられているかのように徐々に小さくなっていく。
その時、アルスの表情が強張り、両手がテーブルの端を強く握られる。
何かに抗っているようだった。
すると近くで様子を見ていたアンディが声を上げる。
「ジェシカ!!」
はっとして、ジェシカはアルスの肩に手を置く。
「──スカーレットローズ」
工房内に紅い血の花びらが舞う。
その瞬間、ジェシカとアルスの意識が繋がる。
そしてどこか遠くから、ジェシカの意識に直接声が響く。
──────────
「……なめるな……!!
我を……抑え込めるとでも思うか!」
──魅惑のアリュールの意識。
意識の中でアルスが苦しむ姿がジェシカの視界に入る。
「アルス!!」
ジェシカの叫びにアルスは応えることなく、ただもがき苦しんでいる。
ジェシカの手には金色に輝く片手剣が握られていた。
「やめろー!!」
アリュールの意識に向けてジェシカは距離を詰めようとする。
だが、詰めているはずなのに一向に距離は縮まらない。
「くっ!アルス!アルス!!」
ジェシカとアルスの距離が絶望的に思えたその時。
【……お前という奴は、なぜそこまで不器用なのだ】
「マリア!!
お願い!アルスを助けて!」
ジェシカの声にマリアは少し考えた。
【……ジェシカよ。スカーレットローズを上手く使いこなせ】
「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!
アルスが!!」
【……落ち着け、ジェシカ。これはお前の空間支配】
【今のお前は、奴の魔術によって惑わされているだけだ】
「そんなはずないよ!だってアルスが……」
視線をアルスに向けるジェシカ。
しかし、そこにいるアルスはさっきと何一つ変わることなくそこにいた。
「え……どういうこと……」
【アリュールは昔からそういう奴よ】
【ただそれだけの話だ】
そう言うとマリアはジェシカへ近づき、重なる。
その時、ジェシカの中で何かが繋がる。
意識。
過去。
マリアの全て。
その全てがジェシカの中に流れ込んでくる。
一拍。
「……ごめん、マリア。そしてありがとう」
ジェシカは冷静を取り戻し、浅く息を吐く。
「──スカーレットローズ」
ジェシカの言葉に呼応するように、真紅の血の薔薇が周囲を覆う。
花びらの中から、真っ直ぐに伸びる刀身が姿を現した。
ジェシカは両手で柄を握り、切先を天に向ける。
そしてそのまま──空間を割くように一刀両断。
すると遅れて、空間から光が差し込む。
「く、クソがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
光に飲み込まれていく魅惑のアリュール。
その姿がジェシカ、そしてアルスの目に映る。
そして同時に──二人も光に包まれた。
──────────
「お、おい!ジェシカ!!」
アンディの声がジェシカを現実へと引き戻す。
ジェシカは目を閉じたまま応える。
「……もう大丈夫だよ、アンディ」
その言葉に続くようにアルスも口を開く。
「……すまない。そしてありがとう、ジェシカ」
「ううん。私こそ……」
三人の会話に割り込むようにクロードが言った。
「み、見てください」
クロードの声に三人はテーブルの上の建御雷神へ視線を落とす。
「……すごい……」
ジェシカは思わず声を漏らした。
そこには、本来相容れない光と闇のオーラが混ざり合い、刀身の周囲で揺らめいていた。
それはまるで踊っているかのようだった。
その異様な光景に、クロードも震える声で呟く。
「神の領域を……超えた……」




