11. クロスリーパー進化論
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
アリスの言葉に、グラフは一瞬驚いた。
だがすぐに落ち着きを取り戻し、再びソファーへ腰を下ろす。
「……聞かせてくれ。俺たちの進化を」
「うふふ」
アリスは小さく笑った。
「その前に、紅茶を入れ直すわね」
そう言うとポットを手に取り、部屋を出ていく。
先ほどまで様々な会話が交わされていたリビングには、今はグラフ一人だけが残された。
「クロスリーパーの進化……」
グラフは天井を見上げる。
「……もしそれが可能なら、俺は……」
眉間の皺がさらに深くなる。
やがて扉が開き、アリスが戻ってきた。
手にはポット。
テーブルに置かれたティーカップへ、紅茶をゆっくりと注いでいく。
湯気がふわりと立ち上る。
紅茶を注ぎ終えると、アリスもグラフの向かいのソファーへ腰を下ろし、静かに足を組んだ。
カップを持ち、口元へ運ぶ。
ゆっくりと一口。
「うふふ……」
そして視線をグラフへ向けた。
「ねえ、グラフ。クロードの血を先に調べたのだけれど……そこで一つ、思いもよらないことを見つけたの」
「……思いもよらないこと?」
「ええ。ジェシカの時とは、まったく違う結果だったわ」
「……聞こう」
アリスは一拍置き、話し始める。
「クロードの血をね、ジェシカの血が膜のように覆って守っていたの」
グラフの眉がわずかに動いた。
「これが何を意味しているのか、まだ完全には分からないわ」
アリスはカップをテーブルへ戻す。
「だけど……あなたから聞いた話と照らし合わせてみたのよ」
「……それで?」
「本来、クロスリーパーが使うブラッディローズは、血そのものを物質化して死者狩りを行う能力よ」
グラフは黙って耳を傾けていた。
「でも、この能力には大きなデメリットがある」
アリスの声がわずかに低くなる。
「大量の血を消費すること。そして身体解放を行うから、長期戦が出来ない」
グラフは静かに頷いた。
それは彼自身がよく理解している弱点だった。
「でもね」
アリスは微笑む。
「私の推測が間違っていなければ……グラフの言う“進化”は可能だと思うわ」
グラフの目が細くなる。
「……どうやればいい?」
「ここからの話は、あくまで仮説として聞いてほしいのだけれど」
アリスはゆっくりと言葉を選ぶ。
「ジェシカが武器を手に入れたように、あなたたちクロスリーパーも武器を持つ」
「……武器」
「ええ。そしてその武器に、アルスの錬金術で“マナ”を錬成する」
グラフはわずかに身を乗り出した。
「そして──」
アリスは指先を軽く立てる。
「その武器に、クロスリーパーの血を吸わせるの」
「……血を、吸わせる?」
「ええ」
アリスは頷く。
「マナって、言い換えればジェシカの分離アルカナによる“血の結晶”よね」
「ああ……そうだ」
「ならば、ダークマターほどではなくてもいい」
アリスは静かに続けた。
「覚醒者のマナを武器に埋め込み、そのマナにクロスリーパーの血を吸わせたら……どうなると思う?」
グラフの脳裏に、ある光景が浮かんだ。
ジェシカが二振りの武器を手にし、スカーレットローズで暴走を抑え込んだあの瞬間。
「……そんなことが、本当に可能なのか……」
「まだ分からないわ」
アリスは肩をすくめる。
「それに、覚醒者である必要すらないかもしれない」
そう言うと、アリスは掌を開いた。
そこには、グラフが渡した赤い結晶が乗っていた。
それを見て、グラフが口を開く。
「その結晶……やはり……」
「ええ」
アリスは静かに頷く。
「あなたの推測は間違っていない。この結晶はホーリーエンブレムよ」
「……そいつを使うのか」
「ええ。でもこれはあくまで試作に使うわ」
アリスは結晶を指で転がした。
「まずはこれで試してみる」
グラフはゆっくりと息を吐いた。
「……そうか」
そして小さく頷く。
「だが、これで俺たちは進化できる道筋が見えた」
「ええ、そうね」
アリスは微笑む。
「この進化は、クロスリーパーにとって大きな意味を持つわ」
そして、次の言葉を落とした。
「だからグラフ。あなたとアンディ、クロードの三人は……次のリベリオン、アルカナンには行けないわ」
その言葉に、グラフは勢いよく立ち上がる。
「何故だ!?
ジェシカを一人で行かせる気か!」
アリスは小さくため息をついた。
「……ねえ、グラフ」
静かな声だった。
「あなたはジェシカの力になりたいのよね」
「ああ、そうだ」
迷いのない返答だった。
「なら、私の提案を素直に受けなさい」
アリスはまっすぐグラフを見つめる。
「理由が知りたいなら……四日後、このリビングでもう一度話してあげるわ」
グラフはしばらく黙っていた。
やがて──
「……分かった」
短く答える。
沈黙が落ちた。
アリスはふと視線を窓の外へ向ける。
「ジェシカ達は……上手くやれているのかしらね」
遠くから、かすかに音が響いていた。
工房から聞こえる──
鉄を打つ音だった。




