10.帰還、そして進化の兆し
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
──ミネルバ王国。商店街。
ジェシカとグラフは、出雲の国から託された
国宝──<真打>建御雷神を携え、ミネルバ王国へと帰還していた。
そして今、アンディたちの待つ拠点へと足を運んでいる。
ジェシカが初めてこの国を訪れた時と比べ、街の雰囲気は大きく変わっていた。
何より──活気に満ちている。
人々の声。
店の呼び込み。
行き交う笑顔。
その全てが、この国の再生を物語っていた。
「なんか凄いことになってるね!」
ジェシカは目を輝かせながら周囲を見渡す。
「……そうだな」
グラフは静かに答える。
「これもお前がアリュールを倒し、そしてソフィアが掲げる政治の結果なんだろう」
「うん!でもさ、こんなにも変わるものなんだね!」
「ああ。何事も同じだ」
グラフは街を見渡しながら続けた。
「上に立つ者にカリスマがあるかどうかで、その国はここまで変わる」
一瞬言葉が止まる。
「それに……」
ジェシカが首を傾げる。
「今、俺がこうしてジェシカ……お前の隣を歩いているのも、その一つだ」
ジェシカがグラフを見る。
グラフは静かに言った。
「俺はジェシカ。お前に忠誠を誓っている」
「グラフ……」
ジェシカは優しく微笑む。
「うん。分かってるよ」
「……ああ」
グラフは静かに頷いた。
「俺の命は、お前の為にある」
二人は活気に満ちたミネルバの街並みを眺めながら、拠点へと向かって歩いていった。
──────────
──ディヴァインリーパー拠点。
「帰ってきたね、グラフ!行こう!」
子供のようにはしゃぐジェシカを見て、グラフは帽子に触れ、被り直した。
ジェシカは玄関の扉のノブに手を掛ける。
そして──勢いよく開けた。
「ただいまーー!!」
声が拠点に響く。
少し遅れて、廊下を歩く足音が二人の耳に届いた。
やがて姿を見せたのは──アリスだった。
「うふふ、お帰りなさい」
「えへへ、ただいま。アリス」
アリスの視線が、ジェシカの腰へと落ちる。
そこには建御雷神。
「それが……そうなのかしら?」
「あ、うん。そうだよ」
アリスは微笑んだ。
「そうなのね。
あ、ごめんなさい。立ち話もなんかしちゃって」
そう言うと、三人はリビングへ向かう。
──────────
アリスがリビングの扉を開けると──
そこにはアンディ、アルス、クロードの三人が紅茶を飲んでいた。
三人の視線がジェシカへ向く。
「『おかえり』」
三人の声が重なる。
「うん、ただいま」
だが、ジェシカはすぐに気づいた。
部屋の空気が、どこか重い。
「ほら、立ち話はよくないわ。座って」
アリスが優しく言う。
「今、紅茶を用意するわね」
「あ、うん。ありがとう」
「グラフもどうぞ」
「……ああ」
二人は空いているソファへ腰を下ろした。
その時、ジェシカは建御雷神を膝の上に置く。
それを見たアンディが口を開いた。
「ジェシカ、それが建御雷神か?」
「うん。
それよりさ……なんで朝からこんな空気が重いの?」
ジェシカの問いに、アルスが口を開いた。
「……原因は俺だ」
静かな声だった。
「グラフから聞いているとは思うが、玉鋼の錬成は成功した」
「うん」
「だが次の問題だ。
アリュールのダークマターを使って刀に合成錬金をする時──」
アルスは少し言葉を詰まらせる。
「……俺自身がアリュールに飲み込まれるような気がしてな」
その言葉に、部屋の空気が重くなる。
皆がどうするべきか考えていた。
その時だった。
「ねえ、アルス」
ジェシカが口を開く。
「前みたいにさ、私が抑え込むことは出来ないの?」
アルスが眉を動かす。
「……どういう意味だ?」
「えっと……うまく言えないけど」
ジェシカは少し考えながら続ける。
「前みたいにスカーレットローズで抑え込めば、アルスに影響が出ない……とか」
アルスは思わずはっ!とし、腕を組み、考える。
「……確かに理論上は可能だな」
そして問い返した。
「だが仮に抑え込めたとして……その後はどうなる?」
その時だった。
アリスが紅茶をテーブルへ置き、ソファへ座る。
「うふふ」
不敵な笑みを浮かべていた。
「別に、それでもいいんじゃないかしら?」
皆がアリスを見る。
「だって、どちらにしても、現段階では呪われた武器になるのでしょう?」
一瞬の沈黙。
そして──
「くっくっく……」
「あはは!」
「ふっ……」
部屋に笑いが広がった。
張り詰めていた空気が、一気にほどける。
「ふっ……そういうことらしいぞ、アルス」
グラフが言う。
「ああ、そうだな」
アルスは頷いた。
「ジェシカ。悪いが俺が錬成している間、暴走したらスカーレットローズで抑え込んでくれ」
「うん。分かった」
こうしてアンディ、アルス、クロード、そしてジェシカの四人は紅茶を飲み干し、工房へ向かっていった。
──────────
少し遅れてグラフも立ち上がる。
工房の外から見守るつもりだった。
だが、その時だった。
「待って」
アリスの声。
グラフが振り返る。
「あなたはこのまま座って話を聞いて」
「……分かったのか?」
アリスは紅茶に口を付ける。
一口。
そしてゆっくりとカップを置いた。
「……そうね」
表情が変わる。
先ほどまでの柔らかな笑みは消えていた。
「先にあなたには話しておくわ」
アリスは真剣な目でグラフを見た。
「──”クロスリーパーの進化”についてね」




