9.出雲の朝風
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
<ミネルバ王国>
国王 ミネルバ・ソフィア・マニフィック
<出雲の国>
出雲の長 梟
梟の娘、巫女 凛
──次の日。出雲の国。
グラフはジェシカの元へ向かっていた。
その途中、梟と凛が守人たちと共に大広間へ歩いていく姿が視界に入る。
それに気づいた凛が足を止め、グラフへ声をかけた。
「おはようございます。グラフ様」
「ああ、おはよう。
こんな朝から、何かあるのか……?」
「はい。これから、出雲とミネルバの話し合いが行われます。
そして復興へ向けた今後の取り決めなども、そこで話し合われるのです」
凛の言葉を聞きながら、グラフは思う。
──出雲は、もう次の道を歩き始めているのだと。
「……そうか。
これからの出雲が、良い方向へ進むことを願っている」
グラフの言葉に、凛は優しく微笑んだ。
そして静かに一礼すると、大広間へ向かって歩いていく。
その背中には、もうあの時のような弱々しさは微塵も感じられなかった。
────────────
「ジェシカ。いつまで寝ている。
いい加減起きろ」
そう言いながら、グラフはジェシカの部屋の襖に手を掛け、開けた。
しかし──
部屋の中に、ジェシカの姿はなかった。
その時だった。
グラフの耳に、遠くから激しい心音が響く。
──!!
聞き覚えのある鼓動。
ジェシカだ。
グラフはすぐに走り出す。
向かう先は──道場だった。
道場の中。
グラフの視界に入ったジェシカは、昨日託された建御雷神を鞘から抜き、静かな空間の中で目を閉じていた。
「……ふっ、そういうことか」
グラフは小さく笑う。
安堵の息を吐き、声をかけた。
「もういいのか?」
その声に、ジェシカは目を開く。
そしてゆっくりと頷いた。
「グラフ。
みんなの所へ帰ろう」
「ああ、そうだな」
ジェシカは建御雷神を静かに鞘へ納め、腰へと携えた。
グラフはその刀を見ながら言う。
「その鞘と柄、鍔はどうしたんだ?」
「あ、これ?」
ジェシカは少し嬉しそうに笑う。
「納める前の、本来の姿なんだって。
これが建御雷神の形らしいよ」
「なるほどな」
二人は軽く言葉を交わしながら、ミネルバ王国で待つ仲間たちの元へ帰る準備を進めた。
────────────
梟たちは、まだミネルバの代表者たちと前向きな話し合いを続けている。
今はこちらから声をかけることも出来ない。
二人は屋敷の外へ出た。
するとそこには──
復興へ向け、動き始めている出雲の民の姿が広がっていた。
崩れた建物を直す者。
荷を運ぶ者。
互いに声を掛け合いながら、国を立て直そうとしている。
その光景を見て、ジェシカがぽつりと言った。
「みんな……頑張っているんだね」
「ああ」
グラフは静かに頷く。
「俺たちも、ここの奴らとは違うが──
やらなきゃならないことがある」
そして続けた。
「だから、ここで立ち止まるわけにはいかない」
ジェシカは力強く頷いた。
「うん! そうだね!」
そして大きく息を吸い込む。
「よーーし!!
帰ろう、グラフ!」
ジェシカは手を掲げる。
「──ブラッディローズ」
その瞬間。
ジェシカの手元から、真紅の血の花弁が舞い上がった。
風に乗り、花弁は空へと広がっていく。
次の瞬間。
二人の姿は──消えていた。
出雲の国を流れる優しい風が、舞い残ったブラッディローズの花弁を静かに運んでいく。
その花弁は、まるで新たな旅立ちを祝うかのように
ゆっくりと、空へと舞い上がっていった。




