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紅月のクロスリーパー 〈血を武器に変える少女と世界の真実〉  作者: ルーツ
第四章 争いの果てに何を想うのか

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8.魂を継ぐ舞

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 

グラフ

アンディ 

アリス

アルス

クロード


<ミネルバ王国>

国王 ミネルバ・ソフィア・マニフィック


<出雲の国>

出雲の長 梟

梟の娘、巫女 凛

──昨日の出来事から日を跨ぎ、翌朝。


ジェシカは屋敷の道場に立っていた。


手には木刀。


静まり返った空間の中で、目を閉じている。


遠くで鳥が囀り、夏の朝の風が汗ばむ肌を静かに撫でていく。


やがてゆっくりと目を開き、木刀を正面に構えた。


静かに息を吸う。


そして──


そこにいるはずのない相手を思い描く。


ホーリーエンブレムの一人、フィセル。


ジェシカは架空の敵を前に、静かに構え型を取る。


その様子を、道場の入り口で梟が黙って見ていた。


───────


「はぁ……はぁ……」


木刀を握ったまま、ジェシカは激しく息を切らしていた。


額から汗が流れ落ちる。


腰を曲げ、両手を膝に置いて身体を支える。


架空のフィセルとの戦い。


それはマリアの導きではなく、ジェシカ自身の意思だった。


「もうよいのか、ジェシカよ」


静かな声が道場に響く。


梟が足音をほとんど立てずに近づいてきた。


その手には一枚のタオルをジェシカへ差し出す。


「あ……ありがとう」


受け取り、汗を拭う。


差し込む朝日がジェシカの汗をきらりと光らせた。


梟はその姿を優しく見つめていた。


「呵っ呵っ呵……よいよい」


梟は満足そうに笑う。


「それでよいのじゃよ、ジェシカ」


そう言い残すと、背を向けて道場を後にした。


ジェシカはその背が見えなくなるまで立っていた。


やがて木刀を置き、静かに道場を後にする。


──────────


屋敷の外へ出ようとしたその時。


背後から声が届いた。


「……ジェシカ」


聞き覚えのある声だった。


振り返ると、ジェシカの顔に笑顔が浮かぶ。


「約束通り戻ってきたんだね、グラフ」


「ああ」


グラフは軽く頷いた。


「だがクロードは俺が連れ回してしまってな……今回は俺だけだ」


「えへへ、グラフが来てくれただけで嬉しいよ」


「……そうか」


少し視線を逸らしながら続ける。


「それで、今日儀式が行われるんだろう」


「うん。たぶん日が落ちる頃だと思う」


ジェシカは思い出すように言った。


「神様は夜にしか降りて来ないみたいで、明るいうちは姿を見せないんだって」


グラフは静かに耳を傾ける。


「……そうか。それなら待つしかないな」


「だよね!」


少し間を置き、続けた。


「それならその前に、向こうで何があったかジェシカにも話しておく」


「あ、うん。大丈夫だよ」


二人は梟に声をかけ、別室へと移動した。


──────────


部屋に入ると畳に腰を落とし、グラフが口を開いた。


「先に結果を言う」


低い声だった。


「ヴェインのダークマターと玉鋼の錬成は成功した」


ジェシカの目が見開かれる。


「今はアンディの手元に、新しい金属として完成している」


「……流石だね!」


グラフは続けた。


「次は<真打>建御雷神へアリュールのダークマターを錬成しなければならない」


そしてグラフは、事前にクロードから聞いた武器の構造を説明する。


「柄には、ヴェインのダークマターを練り込んだ玉鋼。


刃には、建御雷神とアリュールのダークマター。


そしてその接合箇所には、トラペゾを使い。


三つの力を一つに束ねるそうだ」


ジェシカはしばらく言葉を失っていた。


「……なんか、話が大きすぎるね」


グラフは小さく笑った。


「……前代未聞の偉業だからな」


そして静かに言う。


「……その第二歩目が、今から始まる」


ジェシカは頷いた。


「うん……そうだね」


グラフは更に続ける。


「……そしてジェシカ」


視線を向ける。


「お前は免罪符の依頼も果たさなければならない」


「うん、分かってるよ」


ジェシカは迷いなく答えた。


二人の会話はそこで終わり、日が暮れるまで静かに時間を過ごした。


──────────


──刀山麓。舞台。


日が山へ沈み、空は夜に染まる。


無数の星が瞬いていた。


二日かけて作られた舞台。


四隅の火籠には炎が灯り、ゆらゆらと揺れている。


ジェシカとグラフは舞台の前に立っていた。


やがて──


凛が姿を現す。


巫女服の上に、透明な羽衣。


腰には出雲刀。


どこか儚げな表情を浮かべ、ゆっくりと舞台へ上がる。


中心へと歩き。


ジェシカへ向かって深く一礼。


そして祠へ向き直る。


国宝──

<真打>建御雷神。


再び深く礼をする。


目を閉じ、一呼吸。


そして口上を述べた。


「出雲の国。そして我ら出雲の民」


静かな声が夜に響く……


「命を救いし恩人への敬愛を此処に」


凛は腰の出雲刀へ手をかける。


「いざ──我ら国宝、建御雷神」


静かに刀を抜く。


「我と踊りて、魂の継承を行う」


──舞が始まる。


最初は静かだった。


身体をゆらりと揺らす。


だが次の瞬間、動きが変わる。


──鋭く。

──激しく。


まるで何者かが宿ったかのようだった。


凛は舞台を大きく使い舞う。


──荒く。

──狂い。

──そして儚い。


四隅の火籠の炎が、青白く揺れ始める。


音楽はない。


聞こえるのは……


刀の風切り音。

巫女服の擦れる音。

そして凛の荒い呼吸。


それらが重なり、まるで一つの旋律のようになっていく。


そして──ピタリと動きが止まった。


静寂。


凛の激しい呼吸だけが夜に響く……


誰も動かない。


ジェシカも。

グラフも。

そして、出雲の民も。


呼吸する事すら忘れたように、その舞に魅了されていた。


────────


やがて凛はジェシカの前まで歩み寄る。


両膝をつき、刀を献上する。


月明かりと炎が刀身を照らす。


「国宝──」


凛の声が夜に響く。


「<真打>建御雷神」


そして静かに告げる。


「ジェシカ様へ……」


その瞬間。


出雲の民すべての視線がジェシカへ向けられた。


ジェシカは一歩前へ出る。


そしてしっかりと両手で受け取る。


「……有り難く受け取らせてもらいます」


その言葉に。


梟は静かに頷いた。


出雲の民は一斉に両手を膝に添え、深く頭を下げる。


炎が静かに揺れる。


刀身は炎を映し、まるで生きているかのように赤く揺らめいていた。


こうして──


国宝

<真打>建御雷神はジェシカへと託されたのだった。


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