7.鎮魂歌<レクイエム>
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
<ミネルバ王国>
国王 ミネルバ・ソフィア・マニフィック
<出雲の国>
出雲の長 梟
梟の娘、巫女 凛
──出雲の国。
ミネルバ王国でダークマターを用いた玉鋼の鍛造が行われていた、まさにその頃。
ジェシカは梟に連れられ、凛が明日舞う舞台へと足を運んでいた。
そこでは、出雲の民の大工たちが舞台を組み上げていた。
彼らは皆、ディヴァインリーパーに命を救われた者たちだった。
傷がまだ癒えぬ者もいる。
それでも彼らは手を止める事なく、汗を流しながら木材を組み上げていく。
その光景を見つめながら、ジェシカはぽつりと呟いた。
「すごいね……こんなに大事な事だったなんて思ってなかったよ」
梟は低く笑う。
「呵っ呵っ呵……お前さんらに感謝しとるという事じゃよ」
舞台を作る民を見つめながら続けた。
「民の気持ちを汲んでやってくれ。それが、彼らにとって何よりの誉れなのじゃよ」
ジェシカは力強く頷いた。
「うん! 分かった。ありがとう」
その言葉に梟は舞台を見つめたまま、目尻を緩めた。
「よし……そろそろ凛の着替えも終わっとる頃じゃろう」
そう言うと、ジェシカを連れて屋敷へ向かった。
──────────
屋敷の部屋へ入ると、そこには巫女服をまとった凛の姿があった。
白と紅の装束。
長い袖が静かに揺れている。
「えー! 可愛い!」
ジェシカが声を上げる。
凛は振り向き、やわらかく微笑んだ。
「うふふ。こんな格好ですが、れっきとした正装なのですよ」
「そうなんだ。でもやっぱり可愛いよ!」
その言葉に凛は少し照れたように笑う。
だが──
梟の表情がふっと引き締まった。
「凛よ。明日の前に……二刻後、消えていった霊を祀ってくれ」
凛は静かに振り向く。
そして真剣な顔で頷いた。
「はい。分かっています」
「そうか……なら良い」
二人の会話を、ジェシカは黙って聞いていた。
これから何かが行われる。
それだけは分かる。
だが、それがどんな意味を持つのかまでは分からない。
そして──
軽々しく聞いてはいけない空気だった。
やがて時は流れ、約束の刻が近づく。
三人で他愛もない話をしていると、襖が静かに開いた。
守人の一人が頭を下げる。
「長。準備が整いました」
梟はゆっくり頷いた。
「……分かった。凛よ、参ろう」
「はい」
二人は部屋を出る。
ジェシカも後を追おうとしたが、守人に止められた。
「ジェシカ殿はこちらへ」
「あ、うん……」
守人に案内され、屋敷の外へ出る。
無造作に組まれた大きな井桁。
少し離れた場所で出雲の民が輪を作っていた。
やがて──
梟に導かれ、巫女服の凛が現れる。
その瞬間。
──空気が静まり返った。
梟は井桁へ火を入れる。
炎が勢いよく燃え上がる。
夜の空へ向かって、まるで魂のように揺れながら昇っていく。
凛はその炎へと歩み寄り、目を閉じる。
そして──ゆっくりと開く。
次の瞬間。
凛はゆっくりと舞い始めた。
静かに。
そして厳かに。
袖が炎の光を受けて揺れる。
その動きは、まるで炎と語り合うかのようだった。
その時──どこからか静かに歌が聴こえる。
周囲へ目を向けると、出雲の民が静かに歌を口ずさんでいた。
ジェシカは、凛と民の姿を少し離れた場所から見つめていた。
気づけば瞳から大粒の涙が零れていた。
なぜ涙が出るのか。
自分でも分からない。
だが止まらなかった。
(この舞は……誰かを……送っている)
周囲の出雲の民も同じだった。
すすり泣く者。
膝をつく者。
嗚咽をあげて泣く者。
歯を食いしばり、ただ見つめ続ける者。
様々な想いが、その場に溢れていた。
──────────
いつの間にか、ジェシカの隣に梟が立っていた。
「これは……あの戦いで亡くなった者への鎮魂歌じゃ」
炎を見つめながら語る。
「凛はそれを背負って舞っておる」
炎が高く昇る。
炎が導き、魂が迷う事なく天へ昇るように……
ジェシカは何も言えなかった。
ただ静かに──
舞い続ける凛を見つめる事しかできなかった。
その場に立ち尽くしながら、
時が過ぎていくのを待つしかなかった。




