4.それぞれの思惑
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
<ミネルバ王国>
国王 ミネルバ・ソフィア・マニフィック
<出雲の国>
出雲の長 梟
梟の娘、巫女 凛
グラフ達は鳥居をくぐり、かつて激しい戦いが繰り広げられた場所へと戻ってきていた。
木々の向こうには、静まり返った屋敷が佇んでいる。
あれほどの戦いがあったとは思えないほど、辺りは不気味なほど静かだった。
その屋敷へ近づいた時──
数人の人影が視界に入った。
それを見たグラフは、口元をわずかに歪める。
「ふっ……先を越されたか」
向こうもこちらに気づいたらしく、一人が大きく手を振った。
「やっぱりグラフ達だったんだね!」
「ああ……お前たちか」
声の主はジェシカだった。
「うん! 先に屋敷から、凛が舞をするための巫女装束を取りに来たんだよ」
「そうか……話はついた。そういうことだな」
「そうだね。それに……クロードの件もかな」
ジェシカはふと、クロードへ視線を向ける。
「……あれ? なんかクロード、雰囲気変わった?」
その言葉に、クロードは少し戸惑いながらも一歩前へ出た。
「おれ……クロスリーパーとして、力が芽吹いたんだ」
ジェシカは一瞬驚いた表情を浮かべたが、やがて柔らかく微笑んだ。
「そうだったんだ……」
そして、少し楽しそうに続ける。
「グラフの指導はどうだった?」
「え……う、うん。おかげで……こうして今があるから……」
クロードは照れくさそうに頭をかいた。
それを見てジェシカは思わず笑う。
「あはは! 確かにそうだね!」
そのやり取りを横で聞いていたグラフは、小さくため息をつき、帽子をかぶり直した。
「あーそうだ。そろそろ船も着くだろうし、舞の準備に二日くらいかかるみたいだから……それまでは好きにしていいと思うよ」
ジェシカの言葉に、グラフは静かに頷く。
「事情は分かった。だが、その前にこちらも済ませておきたい用がある」
「そうなの?」
「ああ。二日後にはまた戻る。
俺たちは一度ミネルバへ戻り、アンディ達のところへ行く」
その言葉を聞き、ジェシカはほんのわずかに視線を落とした。
「そっか……仕方ないよね」
「これからお前がやろうとしていることに、俺たちが足を引っ張るわけにはいかないからな」
「……うん。分かってる」
ジェシカは小さく頷いた。
グラフは踵を返す。
「そういうことだ。俺たちは行くぞ」
そう言うと、グラフはブラッディローズを作り出そうとした。
しかし──
足に、うまく力が入らない。
血の力がうまく形を結ばず、指先で霧のように崩れた。
「ちっ……さっきの影響か……」
グラフは小さく舌打ちする。
それを見たジェシカは、懐から小さな結晶を取り出した。
「……あまり多用しない方がいいって、アリスが言ってるから、安易には渡したくないんだけど」
そう言いながら、グラフへ差し出す。
グラフは一瞬だけ迷い、結晶を受け取った。
「……すまん。だが、この件は俺にとっても急ぎたいことだ」
そう言うと、血の結晶を口に入れ飲み込む。
数秒後──
グラフの手元に、赤黒い薔薇の紋様が浮かび上がる。
ブラッディローズ。
「行ってくる」
グラフはクロードを軽々と持ち上げた。
そしてクロードを連れ、ミネルバ王国へと向かった。
────────────
──ミネルバ王国
ディバインリーパー宅・工房。
工房のテーブルの上には、三つの品が並んでいた。
アリュールのダークマター。
ヴェインのダークマターから作られた双剣。
そしてジェシカの形見──トラペゾ。
アンディとアルスは、それらを黙って見つめていた。
さらなる高みへ進むために──
彼らは今、呪われた武器を作ろうとしている。
その事実が、胸に重くのしかかっていた。
やがてアルスが口を開く。
「はは……これはやはり恐ろしいことだな」
「だが、今さら後には戻れないだろ」
アンディは腕を組みながら答えた。
アルスは肩をすくめる。
「確かにな。しかし……“免罪符”を使うとは思わなかったぜ」
テーブルの武器を見つめた。
「あれがあれば確かに解呪はできるだろうが……」
その時、椅子に座っていたアリスがくすりと笑った。
「うふふ……これはもう、神のみぞ知る領域よ」
楽しそうに指を組む。
「そんな領域を遥かに超える偉業なの。
常識なんて、最初から存在しないのよ」
そしてゆっくり続けた。
「それに、この計画が成功すれば──
ジェシカの目的。ヘレティックの殲滅が現実に近づくのは間違いないわ」
誰も反論しなかった。
ただ、ジェシカを信じること。
それだけが今の希望だった。
重い空気が工房を包む。
その時──
扉が勢いよく開いた。
「待たせたな。これが玉鋼の素材──出雲砂鉄だ」
汚れた格好のグラフ達が工房へ入ってくる。
その姿を見た三人は思わず吹き出した。
「うふふ」
「あはは!」
「おいおい……大丈夫なのかグラフ」
アンディが苦笑する。
グラフは肩をすくめた。
「俺は平気だが……こいつは参ってるだろうな……」
後ろではクロードがぐったりしていた。
グラフに引きずられるようにして連れて来られ、椅子へ座らされる。
グラフは袋をアンディへ渡した。
「中には出雲砂鉄が入っている。
ここからは、お前たち鍛冶師の仕事だ」
アンディは袋を受け取り、力強く頷いた。
「分かっている。任せておけ」
そしてクロードを見る。
「クロード。お前がいないと玉鋼が作れない」
「は、はい……分かってますが……」
クロードはぐったりした声で言った。
「少し休ませてもらえませんか……」
それを見てアルスが笑う。
「そうだな! まだ時間はある」
肩を叩いた。
「今日はゆっくり休め。
明日は朝から工房だからな」
「は、はい……」
こうして出雲砂鉄も揃い、四つの素材がテーブルに並んだ。
工房の空気が、わずかに張り詰める。
そして──
〈真打〉建御雷神は、やがてジェシカ達へと託される。
物語は、確実に次の段階へ進み始めていた。




