3.グラフからの試練
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
<ミネルバ王国>
国王 ミネルバ・ソフィア・マニフィック
<出雲の国>
出雲の長 梟
梟の娘、巫女 凛
クロードは、一体の死者へ向かって歩き出した。
あの時見た、クロードの一振り。
あれが一体何だったのか──グラフは自分の目で確かめたかった。
だからこそ、何も言わずクロードを死者の元へ送り出したのだ。
ジリ……ジリ……。
ゆっくりと距離を詰めていくクロード。
死者とクロードの間に、張り詰めた空気が流れる。
──ガッ!!
転がっていた岩に足が触れ、大きな音が響いた。
その瞬間。
死者がゆっくりと顔を向ける。
視界にクロードを捉えた。
赤い目が見開かれ、口元がニヤリと歪む。
まるで餌を見つけた獣のようだった。
死者は身体を引きずりながら、クロードへ向かってくる。
「う、うわっ!!」
死者の足は遅い。
今のクロードでも逃げようと思えば逃げられる。
だが──
遠くから鋭い視線を感じていた。
──グラフだ。
逃げれば、きっと失望される。
それだけは嫌だった。
「よ、よし……や、やってやるよ……」
腰に差した出雲刀に手を添える。
刃を抜き、構える。
大きく息を吸う。
視線は死者へ。
そして緊張をほぐすように、ゆっくりと息を吐いた。
赤い目の死者が間合いへ入る。
クロードは刀を両手で握りしめた。
そして──
袈裟斬り。
だが、緊張のせいか骨までは断てない。
肉だけが裂け、黒い血が地面に滴り落ちる。
「……く……」
死者の口が動く。
「……くわ……せ……ろ……」
その声に、クロードの腰が引けた。
一瞬の隙。
距離がゼロになる。
死者はクロードを押し倒し、その上に覆いかぶさった。
「う、うわああ!! 来るな!!」
死者は言葉など理解しない。
ただ──
クロードという名の餌を喰らうために。
両手を振り回し、肉を引き裂こうとしてくる。
クロードは必死に刀で距離を保つ。
だが、その力は人間の腕で抑えられるほど甘くはない。
次の瞬間。
死者の左手が、クロードの左腕を掴んだ。
──ブチッ。
肉が引き千切られる。
「──っ!!
ぐああっ!!
や、やめてくれ!!
グラフさん!!見てないで助けてください!!」
クロードの柔らかい肉を食らった死者は、さらに力を増す。
「いい加減にしろおおぉぉぉぉぉォォォーーー!!」
クロードの叫びが空を突く。
砂塵が舞い上がった。
──!!
その時。
グラフの耳が何かを捉えた。
ジェシカとは違う心音。
だが確かに聞こえる。
クロードの──心音だ。
視線の先。
舞い上がった砂塵が、ゆっくりと消えていく。
そこに立っていたのは──
先ほどまでのクロードとは別人の男だった。
右手には赤く染まった出雲刀。
光を受け、刀身が血のように輝いている。
その姿から漂う気配は、先ほどまでのクロードとはまるで違っていた。
「……クロードなのか」
「……グラフさん、酷いですよ」
「その姿……ふっ」
グラフが小さく笑う。
「まさか自らクロスリーパーとして芽吹くとはな」
「勘弁してくださいよ……」
そう言うとクロードは、力が抜けたようにグラフへ寄りかかった。
そのまま意識を失う。
同時に、右手に握られていた刀が変化した。
赤い刀──ブラッディローズ。
それが静かに、本来の出雲刀の姿へ戻る。
その変化を、グラフは見逃さなかった。
しっかりと目に焼き付ける。
─────────
しばらくして。
クロードの意識が戻った。
……ん…んん?
あ、あれ……俺……」
「起きたか」
グラフが腕を組んだまま言う。
「荒療治ではあったが、お前の中のクロスリーパーの血が芽吹いた」
「はい……何となく覚えてます」
「……そうか」
そう言うとグラフは、自分の首筋を露わにした。
「クロード。血を使い過ぎたようだ」
「渇きを覚える前に飲んでおけ」
「え……?」
「……飲め」
自分の意思で牙を立て、血を飲む。
それはクロードにとって初めてのことだった。
そんなクロードに、グラフは自ら首を差し出している。
「お前はまだ知らなくてはならないことが多い。
これもその一つだと覚えておけ」
「どういう意味なんですか……」
グラフは静かに言った。
「俺はお前を──いや。
クロードを同族として認めた。
戦士としてもな。
同族に血を与えるのは当然だろう」
「は、はい!」
クロードはゆっくりと牙を立てる。
そして血を飲んだ。
──甘い。
こうしてクロードは──
一人の戦士として認められたのだった。




