2.クロード。初陣
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
クロード
<ミネルバ王国>
国王 ミネルバ・ソフィア・マニフィック
<出雲の国>
出雲の長 梟
梟の娘、巫女 凛
凛との話もまとまり、ジェシカはアンディ達のいる部屋へ向かった。
二人で出雲へ向かう件について話をするためだ。
しかし、話を切り出そうとしたその時だった。
部屋の扉が開き、梟と凛が姿を見せた。
「話はジェシカから聞いておると思うが、巫女の舞には色々と準備が必要でな。
──そこで、ワシらからお願いがあるのじゃ」
梟はゆっくりと視線をソフィアへ向ける。
「国交はもちろん受けよう。
だが、我が国の巫女の舞を無下にはできぬ」
「事情は理解しました」
ソフィアは静かに頷いた。
「それで、私達に何を求めておられるのか、お聞かせいただけますか?」
「うむ」
梟はゆっくりと言葉を続けた。
「<真打>建御雷神を祀る刀山。
そこに舞台を設け、巫女の舞によって──ジェシカと魂を繋がせねばならん。
そこで民にも、出雲への帰国を了承してほしいのじゃ」
そして一度言葉を区切る。
「なによりワシは出雲の長。
この儀式を見届ける責務がある」
「なるほど……国の長としての責務、ですか」
ソフィアは一拍置いてから答えた。
「分かりました。それでは今、船にいる民はこのまま出雲へ向かうよう手配いたします。
その際、我らミネルバの役人を数名同行させてもよろしいでしょうか?」
「勿論だとも。
我々のわがままを受け入れてくれて感謝致す」
こうしてジェシカ達は、グラフ達より遅れて出雲の国へ再び向かうこととなった。
─────────────
それから三日。
グラフとクロードは、ようやく納得のいく出雲の砂鉄を集め終えていた。
山道を歩き回り、砂を掬い、選び続けた三日間。
足も腕も、すでに限界だった。
「……つ、疲れた……」
砂鉄の入った袋を地面に置き、クロードはその場に尻もちをついた。
「……これでいいのか」
「は、はい。グラフさんのおかげで……これで玉鋼が作れます」
「そうか」
グラフは短く答えた。
──その時。
「……ん? 何だ、あれは……」
グラフの視線が遠くの水平線へ向けられていた。
クロードも立ち上がり、同じ方向を見る。
「……船……ですかね」
「ああ、そのようだな。
……だが、どこか見覚えのある船のように感じるが」
「いやいや、気のせいじゃなくて、あれはミネルバの船ですよ!」
グラフの視線がゆっくりとクロードへ向く。
「え!? あ、いや……だって……」
「ふっ、まぁいい」
グラフは小さく笑った。
「ってことは、あれはジェシカ達だな」
──<真打>建御雷神。
「ちょうど砂鉄集めも終わったところだ。
港まで向かうか」
「え……少し休んでから行きませんか」
再びグラフはクロードを睨んだ。
「は、はい……分かりました」
グラフはクロードに砂鉄袋を持たせ、あえて歩いて下山させていた。
「はぁ……はぁ……お、重い……」
「お前を鍛えるには丁度いいだろう」
「………」
グラフは黙って前を歩く。
やがて山道の先に、赤い鳥居が見えてきた。
「もうすぐだ。
そこまで運べば、あとは俺がやっ──」
その時だった。
グラフの耳に、微かな音が届く。
鼓動のような──不自然な心音。
ピタリと足を止め、音のする方へ顔を向ける。
目を細め、周囲を探る。
「うわ! 急に止まらないで下さいよ……」
「シッ。黙れ」
低い声だった。
「え……?」
グラフはクロードの頭を押さえ、体勢を低くさせる。
次の瞬間。
茂みの奥から、腐りかけた肉を揺らしながら一匹の死者が姿を現した。
濁った目が、ゆっくりとこちらを向く。
「いい機会だ」
グラフが低く呟く。
「クロード。お前、あの死者を殺れ」
「え……俺がですか?」
「そうだ。その腰につけている物は、ただの飾りなのか?」
クロードは腰に携えている出雲刀へ手を当てた。
──あの時、守人に託された刀。
この刀を握った瞬間の重みを、今でも覚えている。
胸の奥で鼓動が強くなる。
逃げるか。
それとも、戦うか。
クロードは刀の柄を強く握りしめた。
「……分かりました」
ゆっくりと立ち上がる。
「やります」
一匹の死者へ向かい、静かに歩き出す。
その背中を、グラフは腕を組みながら見ていた。
覚悟を決めた一人の男。
──クロードの戦いが、今始まる。




