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紅月のクロスリーパー 〈血を武器に変える少女と世界の真実〉  作者: ルーツ
第四章 争いの果てに何を想うのか

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1.選ばれし者の覚悟

登場人物

<ディヴァインリーパー>

ジェシカ 

グラフ

アンディ 

アリス

アルス

クロード


「見えてきたぞ」


雲の切れ間から、出雲の国が姿を現した。


かつて豊かな国だった大地は、今や無残な傷跡をさらしている。

つい先日までこの地では、ヘレティックの刺客──ティレ・レ・フィセルとジェシカの戦いが繰り広げられていた。


戦いは民をも巻き込み、国の存亡すら揺るがした。


上空から見下ろす大地には、崩れた街並みと焼け焦げた跡が広がっている。


「ひどい……」


クロードの声は、わずかに震えていた。


「……そうだな」


グラフは短く答える。


だがその視線は、すでに次の目的地を見据えていた。


刀山。


空を突き刺すようにそびえるその山へ、二人は降下していく。


──────────────


──刀山麓、鳥居前。


「ここでいいのか、クロード」


「はい。ここから山頂付近まで歩いて、玉鋼の素材になる出雲の砂鉄を集めます」


「分かった。行くぞ」


二人は鳥居をくぐり、山へ足を踏み入れた。


しばらく無言のまま歩く。

風が木々を揺らす音だけが響いていた。


やがてクロードが口を開く。


「あの……聞きたいことがあるんですけど」


「………」


グラフは答えない。


「ダメですか……」


「……はぁ」


重いため息が落ちた。


「何だ」


「あ、はい。えっと……改めて確認なんですけど。この牙って……」


その瞬間。


グラフの足が止まった。


ゆっくりと振り返る。


鋭い視線がクロードを射抜いた。


「……お前にとっては大した問題ではない」


低い声。


「だが、ジェシカにとっては違う」


空気が張り詰める。


「そして俺たちクロスリーパーにとってもだ。

お前をどう扱うべきか──まだ誰にも分からん」


「え……それって……」


「そこに座れ」


岩を指さす。


クロードは黙って腰を下ろした。


グラフはしばらく黙ったまま、言葉を選ぶように空を見上げる。


やがて口を開いた。


「いい機会だ。よく聞け」


一拍の沈黙。


「お前は、この世代でマリアの名を継ぐことになるジェシカの──寵愛を受けた唯一の存在だ」


クロードの喉が鳴る。


「まず、それを受け入れろ」


重い視線が落ちる。


「そしてお前は、すでに俺たちと同じクロスリーパーだ」


クロードは言葉を失った。


胸の奥がざわつく。


だが、グラフの表情はそれ以上に険しい。


「いいか……ジェシカに見そめられたお前は……」


「はい……」


「ジェシカに子を宿らせる唯一の者とされている」


「──!!」


頭の中が真っ白になった。


ジェシカの顔が、脳裏に浮かぶ。


「え……なんですか、それ……」


「我らクロスリーパーの掟だ」


淡々とグラフは言う。


「だが、眷属契約が先に結ばれるなど前代未聞だ」


一歩、近づく。


「そしてお前は──」


グラフの視線が鋭くなる。


「ジェシカと同等の力を得たはずだ」


「そ、そんな……俺が……」


グラフはゆっくり立ち上がった。


そしてクロードを見下ろす。


「どうする」


その手には、いつの間にか赤黒い両手斧が握られていた。


刃が、クロードの首元に触れる。


冷たい鉄の感触。


「受け入れるか……否か」


声に感情はない。


「安心しろ。まだお前は芽吹いてすらいない」


「今なら俺でも葬れる」


クロードは地面を見つめたまま動かない。


心臓の鼓動だけが大きく響く。


逃げるか。


それとも──


やがて、クロードはゆっくりと顔を上げた。


「俺、強くなります」


震える声だった。


それでも、目だけは逸らさなかった。


グラフの眉がわずかに動く。


クロードは立ち上がった。


震える拳を握る。


「ジェシカだけじゃない」


「グラフさん、アンディさん、アリスさんにも認めてもらえるように……」


「必ず、強くなります」


沈黙。


やがて。


「……くっ」


グラフが小さく笑った。


斧は、いつの間にか消えていた。


「まぁいいだろう」


そしてクロードを見る。


「だが、ジェシカに認められたとしても……今のお前にジェシカを求める度胸などあるまい」


「……どういう事ですか?」


グラフは歩き出す。


「俺たち男のクロスリーパーは、より強い子孫を残すため強者との戦いに身を投じる」


「アルスのように、武力ではなく権力を誇示する者もいる」


「そして女たちは──そうした力に惹かれる」


「な、なんですかそれ……」


「そのままの意味だ」


グラフは肩をすくめた。


「詳しくはアンディに聞け」


「は、はい」


「話は終わりだ。行くぞ」


「はい!」


─────────────


山頂付近。


二人は砂鉄を集めていた。


グラフは磁石を転がし砂鉄を集める。

クロードはそれを篩にかけ、純度の高いものを選別していく。


その時だった。


グラフの足が、何かを踏んだ。


「……?」


靴を退ける。


そこにあったのは──


赤い結晶。


血を固めたような、禍々しい輝き。


グラフの瞳がわずかに細まる。


──スカーレット・レイ


あの赤い閃光が、脳裏を過ぎる。


「……フィセルなのか……」


指先に、かすかな熱が伝わった。


「……とりあえず持ち帰るか」


グラフは胸ポケットに結晶をしまう。


そして何事もなかったかのように、砂鉄集めを再開した。

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