30.舞姫の誓い。そして……
登場人物
<ディヴァインリーパー>
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
<破壊の暴君>
リーン・ホーク・マリア
<ジェシカの眷属>
クロード
<出雲の国>
出雲の長 梟
梟の娘、巫女 凛
<四代厄災>
神速のレーヴ
ジェシカは扉の前に立っていた。
一度、深く息を吸う。
胸の奥の迷いを押し込めるように、ゆっくりと吐き出す。
ノブに手をかけ──回した。
「入るよ」
扉の向こう。
少し離れたソファーに凛が座り、その隣で梟が静かに肩をなだめている。
重たい空気の中、梟が口を開いた。
「すまんかったな。話は済んだのか?」
「うん。これからの事は……大分進んだかな。はは……」
笑ってはいるが、どこか歯切れが悪い。
その違和感を覚えながらも、梟は凛を気遣ってここへ来たジェシカに、誠意を示すべきだと感じた。
「そうか。それで? おまえさんは何故ここに」
「うん……」
ジェシカは二人と向かい合うソファーへ腰を下ろす。
一瞬の沈黙。
「……あのね。私達、次の目標として“四代厄災”の一人を討つ事になったの」
凛の指先が、わずかに震える。
「その為に、皆の足並みを揃えたい。
だから……建御雷神が必要なんだ」
その名は、凛の胸に棘のように刺さる。
まだ立ち直れていない心へ、さらに続く言葉。
「私と一緒に、出雲へ来てほしい。……ダメかな?」
──沈黙。
答えるべき者は一人しかいない。
ジェシカも、梟も、そして凛自身も理解している。
「……はい。ですが、その前に。
私と、話をして下さいませんか」
凛は顔を上げる。
涙は止まっていない。
だが、その瞳には確かな光が宿っていた。
「──もちろん」
ジェシカは目を逸らさない。
「ジェシカ様は……“クロ”の事を、どうお考えですか?」
「え……どうって……」
言葉を探す。
「正直、分からない。
あの時、私が手を差し伸べなかったら、あの子は確実に死んでた。
でも……」
小さく息を吸う。
「私達には、やらなきゃいけない事がある」
凛の世界と、ジェシカの世界。
その違いが、はっきりと浮き彫りになる。
「それでは……クロは、目標の為の道具に過ぎないと……?」
「違うよ」
即座だった。
「大切な仲間。そして──子。
私が守らなきゃいけない存在」
迷いのない声。
強く、はっきりと。
凛は、その覚悟を真正面から受け止める。
「………ふふ」
それは自嘲でも嫉妬でもない。
胸の奥の霧が晴れたような、穏やかな笑みだった。
「先ほど、アリス様に言われた言葉……分かった気がします。
私では勝てない。
ええ、その通りでした」
瞳から迷いが消える。
「梟の娘として。
出雲の巫女として──」
凛は静かに立ち上がり一歩、前へ出る。
そして──
その場に両膝を着き、両手を揃え、深く頭を垂れた。
「ジェシカ様の為、舞い踊らせていただきます。
そして──“クロード”を、どうかよろしくお願い致します」
敬意。
誓い。
覚悟。
ジェシカもまた、ソファーから降り、同じように膝をつき、頭を下げる。
そして同時に顔を上げ──目が合う。
微笑みが零れた。
「うふふ……」
「あはは……よろしくね、凛」
「はい。建御雷神の魂は、私にお任せ下さい」
二人の間にあった蟠りは、静かに溶けていった。
出雲へ向かう準備は、整った。
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その頃。
ミネルバ城、高台。
空を貫く塔の縁で──
グラフはクロードの襟首を掴み、外へ突き出していた。
足元は遥か下。
落ちれば命は無い高さ。
「グラフさん! 離さないで下さいね!!」
「チッ……行くぞ。
──ブラッディローズ」
瞬間、血の花弁が爆ぜる。
「うわああああ!! こ、怖いですってぇぇぇぇ!!」
「黙れ。
貴様はこれからジェシカの眷属として生きる。
その覚悟が、まだ足りん」
凄まじい速度で空を裂きながら、グラフは言い放つ。
「これから教育してやる。
ジェシカの眷属として恥をかかぬようにな。
覚悟しておけよ」
「いやああああああ!!」
紅い軌跡を描きながら、二人は出雲の国へと消えていった。
出雲への道は開かれた。
だがそれは──
四代厄災へ続く、血の道でもあった。
──────────────────
四章へと続く。




