29.呪いを越える選択
登場人物
<ディヴァインリーパー>ミネルバ代表
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
<破壊の暴君>
リーン・ホーク・マリア
<ジェシカの眷属>
クロード
<出雲の国>
出雲の長 梟
梟の娘、巫女 凛
<四代厄災>
神速のレーヴ
ソフィアとアリスの間に、確かな“何か”が通っている。
アルスは意表を突かれたように、二人を少し離れた位置から見ていた。
「な、なあ……何がどうなってる。
ちゃんと説明してくれ」
驚きを隠せぬ声に、アリスが柔らかく微笑む。
「ええ、もちろん話すわ」
ソフィアも静かにアルスへ向き直った。
そのまま近衛兵へ視線を送る。
「別室を用意なさい。すぐに」
「はっ!」
兵が駆けていく。
ソフィアはアリスを見る。
「紅茶でも飲みながら、腰を据えて話しましょう」
「うふふ、ええ。そうしましょう」
──────────
──ミネルバ城・別室。
上座にジェシカ。
向かいにソフィアとアルス。
その隣にアンディとアリス。
静かに紅茶がテーブルに置かれる。
重い沈黙の中、アルスが口火を切った。
「で……さっきの続きだ。俺が何を問題にしてるかって話だったな」
アリスは紅茶を一口含み、ゆっくりとソーサーへ戻す。
「ええ。話をまとめると大きく二つになるわ」
指を一本立てる。
「一つ。ジェシカが常に力を抑えながら戦うのは現実的ではない事」
もう一本。
「二つ。呪われた武器を生み出すことの影響」
静かに言い切った。
「この二つよ」
「ああ。だから、それをどうにかしないと前に進めねぇ」
「そうね。ここまでは占いで見えていた未来よ」
一拍。
「けれど──ここから先は覚悟が必要」
アリスの視線がジェシカを射抜く。
「クロスリーパーであるあなた達の覚悟が」
「……私達?」
「ええ」
微笑みは消えていた。
「私から提案があるわ。聞く覚悟はあるかしら?」
部屋の空気が張り詰める。
ジェシカは頷いた。
「うん、聞くよ」
アリスは告げる。
「<聖王国>リベリオンへ向かい──
“免罪符”を持ち帰りなさい」
──その場が凍結した。
アルスが椅子を弾き飛ばす勢いで立ち上がった。
「ふざけるな!!」
拳が震えている。
「それが何を意味するか分かって言ってるのか!
聖王国はクロスリーパーを敵視してる国だぞ!」
「もちろん分かっているわ」
アリスは揺れない。
「免罪符があれば、呪いは解ける。力は残る。そして味方になる」
「理屈はそうだ! だがな……!」
アルスは歯を食いしばる。
「リベリオンは……“マリアをこの世から消す為に作られた国”と言っても過言じゃないだろ!」
空気が変わる。
ソフィアがそっとアルスの肩に触れ落ち着かせる。
「そして免罪符の依頼内容──」
アンディが続ける。
「神速のレーヴの討伐だ」
ジェシカが息を呑む。
「たしか四代厄災の……?」
「ああ」
アンディの目が細まる。
「死者でありながら、なお“生きている”存在だ。
リベリオンはレーヴを守護神として祀っている。
奴が剣を抜く前に、命は刈り取られる」
「そしてその討伐依頼を流してるのが──」
ソフィアが告げる。
「<魔法国家>アルカナン」
国同士の思惑が交差する。
戦争の匂い。
「つまりアリスは……」
アルスが睨む。
「ジェシカを戦争の中心に投げ込もうとしている」
「……違うわ」
アリスは静かに微笑んだ。
「未来を切り開かせるのよ」
沈黙。
視線がジェシカへ集まる。
重い……。
逃げ場はない……。
──覚悟。
その二文字が、胸に落ち、ジェシカは目を閉じた。
深く……。
深い闇へと……。
──────
【くっくっく……】
【自ら来るか】
「聞いてたよね、マリア」
闇の奥で気配が笑う。
【我は貴様と共に在る】
【だが忘れるな】
闇が波打つ。
【エルドレッドを殺すその日まで──
貴様は死ぬことすら許されぬ】
沈黙。
ジェシカは静かに答えた。
「分かってるよ……」
ジェシカはゆっくりと目を開く。
そして深く息を吸う。
揺れない瞳。
「分かった。行くよ」
一拍。
「免罪符も、レーヴも……全部越える」
空気が変わる。
アルスは目を見開く。
アンディは静かに頷く。
アリスは微笑む。
「うふふ。それでこそ……」
アンディが立ち上がる。
「なら準備だ。ジェシカは出雲へ向かい建御雷神を受け取れ」
アルスも拳を握る。
「そうだな!工房は任せろ。最高の状態で待っててやる。
ジェシカ!お前の覚悟、ちゃんと受け止めるぜ!」
「うん!ありがとう」
ジェシカは立ち上がる。
「でもその前に、凛のところへ行くね」
アリスが頷いた。
「ええ。行ってきなさい」
ジェシカは扉へ向かう。だがその背に、もう迷いはなかった。
──戦争か。
──救済か。
その答えを掴むために。
ジェシカは歩き出すのだった。




