26.帰還、そして新たな均衡
登場人物
<ディヴァインリーパー>ミネルバ代表
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
<破壊の暴君>
リーン・ホーク・マリア
<ジェシカの眷属>
クロード
<出雲の国>
出雲の長 梟
梟の娘、巫女 凛
誘導船に導かれ、ジェシカたちの船はゆっくりとミネルバ王国の港へと接岸した。
朝靄の残る港。
潮の匂いと、張り詰めた空気。
桟橋には、盾を構えたミネルバ兵がずらりと並び、船から降りる者たちへ鋭い視線を向けている。
その異様な光景に、最初に声を上げたのはアルスだった。
「な、なんだよこりゃ……!
どうすりゃこんな臨戦体勢になるんだよ!」
次の瞬間。
「アルス!!」
兵の列をかき分けるようにしてソフィアが前へ出る。
「ソフィア!」
周囲の視線など構わず、二人は駆け寄った。
緊張で固まっていた兵たちの空気が、目に見えて緩む。
アルスは早口で出雲での出来事を伝える。
ソフィアは一言も遮らず、その瞳で全てを受け止めていた。
やがて──
船から、ジェシカが先頭に立って姿を現す。
その後ろにはグラフ、アンディ、そして静かに歩くクロード。
「……ジェシカ!」
思わず声を上げたのはアリスだった。
三人は足を止め、ゆっくりと顔を向ける。
その目に宿る無事の証を確認し、アリスは小さく息を吐いた。
「……そう。よかったわ」
出港から二週間足らず。
あまりにも早い帰還に、王国は最悪の事態すら想定していたのだ。
「ただいま、アリス」
「うふふ。予定よりずいぶん早い帰りだから、心配したのよ?」
「えー、そうだったの?」
軽く笑うジェシカの横顔には、しかし以前より確かな強さがあった。
「何もなかった顔ではないわね」
「うん。色々あった。
ここでは話せないから……アルス経由になると思う」
アリスは一瞬だけ目を細め、そして微笑む。
「ふふ。少しは政治が分かるようになったのね」
「もう、まだ子ども扱いするし」
二人の空気は柔らかい。
だが、その背後でクロードは静かに肩をすぼめ、周囲を観察していた。
「とりあえず今日は帰りましょう。
明日、城で改めて話を」
「うん」
アリスはクロードを一瞥する。
ほんの僅かに眉を寄せながらも、何も言わず歩き出した。
─────────
一方、アルス。
「ソフィア。連絡もなしに悪い。
一刻を争う状況だった」
「承知しております。
あなたが軽率な判断をする方ではないと、知っていますから」
その言葉に、アルスは安堵の笑みを浮かべる。
そして──
ソフィアの視線が、一人の人物に止まる。
梟。
堂々たる佇まいのまま、彼は一歩前へ出て深く頭を下げた。
「アルス殿のお力により、我ら出雲の国と民は救われた。
この恩、生涯忘れぬ」
その後ろで、凛もまた静かに頭を垂れる。
「こちらが出雲の長、梟。
そして娘の凛だ」
一瞬、ソフィアは息を呑んだ。
「……一国の王を、このような形で迎えていたとは。
無礼をお許しください」
即座に兵へ指示が飛ぶ。
「国賓としてお迎えします。
本日は長旅の疲れを癒やしてください。
詳しいお話は、明日、城にて」
その声音は柔らかく、だが揺るがない威厳があった。
凛は胸の内で静かに驚く。
(これが……今のミネルバ王国)
かつて舞をしてた時の国家像とは、まるで印象が違う。
「お気遣い、感謝いたします」
「こちらこそ」
そこへアルスが割って入る。
「問題は出雲の民だ。受け入れ先を考えないと」
「明日の協議次第ですが、
本日は船内で自由に。住居は急ぎ手配します」
梟は深く頷く。
「我らはミネルバと良き関係を築きたい。
それだけは、先に伝えておきたい」
ソフィアは真っ直ぐに応えた。
「そのお言葉、ありがたく」
こうして──
ジェシカたちは帰路へ。
アルスとソフィアは城へ。
梟と凛は国賓として迎えられる。
明日、謁見の間にて。
新たな関係が、形を持つ事となる。




