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紅月のクロスリーパー 〈血を武器に変える少女と世界の真実〉  作者: ルーツ
第三章 未開の地、出雲の国

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25.救いの代価

登場人物

<ディヴァインリーパー>ミネルバ代表

ジェシカ 

グラフ

アンディ 

アリス

アルス


<破壊の暴君>

リーン・ホーク・マリア


<ジェシカの眷属>

クロード


<出雲の国>

出雲の長 梟

梟の娘、巫女 凛

「どうしたんだい?」


甲板を渡る風は冷たく、海はどこまでも静かだった。

水平線を見つめる凛の横顔は、どこか遠い。


「あ、アルス様。この度は……」


「あー、もう。そういうのはいいって」


アルスは頭を掻き、空笑いを浮かべる。だがその指先は、わずかに強く髪を握っていた。


「頑張ったのは俺じゃない」


凛は袖で口元を隠し、小さく微笑む。

だがその瞳は、笑っていなかった。


「それで、一人で何を?」


「……これからの出雲の事。それに……」


一瞬、言葉が波にさらわれる。


「クロードの事……かい」


凛の視線が、静かに落ちた。

肯定の代わりに、微かな頷き。


重たい沈黙。


アルスはゆっくりと息を吸い、そして凛の前に立つと──深く頭を下げた。


「すまない」


声は低い。震えている。


「だが……あいつを救うには、もう“あれ”しかなかった」


拳が白くなるほど握られている。


「俺は……君の想いを知らなかった。それでも勝手に契約を結んだ」


「どんなに恨まれても仕方がない」


風が、二人の間を抜ける。


凛はしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。


「頭を上げて下さい。アルス様」


アルスは顔を上げない。


「……あの時、ジェシカ様が手を差し伸べていなければ、今のクロは確実にここにはいません」


凛の瞳から、一筋の涙が落ちる。


「ですが……クロがあのような状態になったのは、私を庇ったからなのです」


声が掠れる。


「本来なら、命の灯を失うのは……私でした……」


アルスは顔を上げる。


一拍。


「違う」


その言葉は、はっきりしていた。


「あいつは、凛。君を助ける選択をしたんだ」


強くはない。だが、揺るがない声。


「その覚悟を……君は受け止めなければならない」


「そして出来るなら」


一瞬だけ視線を逸らし、そして戻す。


「これからはクロードの背を支えてやってほしい」


凛は、何も言えない。


代わりに、アルスの胸へと額を寄せた。


涙が、布を濡らす。


消せない想いを、押し殺すように。


アルスは、ただ静かに立っていた。


遠く、雲がゆっくりと形を変えていく。


────────────


──ミネルバ王国。


花咲く庭園。

紅茶の香りと柔らかな日差し。


「それで? なぜ貴女はリーパー達と行動を共にしているのかしら」


ソフィアは微笑むが、その視線は鋭い。


「うふふ。それはね」


アリスは優雅にカップを置く。


「ジェシカの運命をこの眼で記憶するため。そして――アンディの子を産むため、かしら」


一瞬、風が止まったように感じた。


「……本当に、あなたとの話は飽きないわ」


「光栄ですわ、ソフィア様」


「ほら、また様付け」


二人が笑ったその時、足音が石畳を打つ。


「国王。失礼します」


空気が変わる。


「何事かしら」


「出雲へ向かわれた我が国の船が、予定より大幅に早く海域に到達。現在、誘導船と共に港へ向かっております」


沈黙。


アリスの瞳が細まる。


「……早すぎるわ」


ソフィアも立ち上がる。


「何もなければ、この速さはあり得ない」


アリスはゆっくりと兵士を見る。


その瞳は、先程までの柔らかさを失っていた。


「港へ」


ソフィアの声は凛として響く。


「警戒を最大まで。油断は許しません」


兵士達が駆け出す。


歩きながら、アリスは小さく呟いた。


(……アンディ)



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