25.救いの代価
登場人物
<ディヴァインリーパー>ミネルバ代表
ジェシカ
グラフ
アンディ
アリス
アルス
<破壊の暴君>
リーン・ホーク・マリア
<ジェシカの眷属>
クロード
<出雲の国>
出雲の長 梟
梟の娘、巫女 凛
「どうしたんだい?」
甲板を渡る風は冷たく、海はどこまでも静かだった。
水平線を見つめる凛の横顔は、どこか遠い。
「あ、アルス様。この度は……」
「あー、もう。そういうのはいいって」
アルスは頭を掻き、空笑いを浮かべる。だがその指先は、わずかに強く髪を握っていた。
「頑張ったのは俺じゃない」
凛は袖で口元を隠し、小さく微笑む。
だがその瞳は、笑っていなかった。
「それで、一人で何を?」
「……これからの出雲の事。それに……」
一瞬、言葉が波にさらわれる。
「クロードの事……かい」
凛の視線が、静かに落ちた。
肯定の代わりに、微かな頷き。
重たい沈黙。
アルスはゆっくりと息を吸い、そして凛の前に立つと──深く頭を下げた。
「すまない」
声は低い。震えている。
「だが……あいつを救うには、もう“あれ”しかなかった」
拳が白くなるほど握られている。
「俺は……君の想いを知らなかった。それでも勝手に契約を結んだ」
「どんなに恨まれても仕方がない」
風が、二人の間を抜ける。
凛はしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。
「頭を上げて下さい。アルス様」
アルスは顔を上げない。
「……あの時、ジェシカ様が手を差し伸べていなければ、今のクロは確実にここにはいません」
凛の瞳から、一筋の涙が落ちる。
「ですが……クロがあのような状態になったのは、私を庇ったからなのです」
声が掠れる。
「本来なら、命の灯を失うのは……私でした……」
アルスは顔を上げる。
一拍。
「違う」
その言葉は、はっきりしていた。
「あいつは、凛。君を助ける選択をしたんだ」
強くはない。だが、揺るがない声。
「その覚悟を……君は受け止めなければならない」
「そして出来るなら」
一瞬だけ視線を逸らし、そして戻す。
「これからはクロードの背を支えてやってほしい」
凛は、何も言えない。
代わりに、アルスの胸へと額を寄せた。
涙が、布を濡らす。
消せない想いを、押し殺すように。
アルスは、ただ静かに立っていた。
遠く、雲がゆっくりと形を変えていく。
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──ミネルバ王国。
花咲く庭園。
紅茶の香りと柔らかな日差し。
「それで? なぜ貴女はリーパー達と行動を共にしているのかしら」
ソフィアは微笑むが、その視線は鋭い。
「うふふ。それはね」
アリスは優雅にカップを置く。
「ジェシカの運命をこの眼で記憶するため。そして――アンディの子を産むため、かしら」
一瞬、風が止まったように感じた。
「……本当に、あなたとの話は飽きないわ」
「光栄ですわ、ソフィア様」
「ほら、また様付け」
二人が笑ったその時、足音が石畳を打つ。
「国王。失礼します」
空気が変わる。
「何事かしら」
「出雲へ向かわれた我が国の船が、予定より大幅に早く海域に到達。現在、誘導船と共に港へ向かっております」
沈黙。
アリスの瞳が細まる。
「……早すぎるわ」
ソフィアも立ち上がる。
「何もなければ、この速さはあり得ない」
アリスはゆっくりと兵士を見る。
その瞳は、先程までの柔らかさを失っていた。
「港へ」
ソフィアの声は凛として響く。
「警戒を最大まで。油断は許しません」
兵士達が駆け出す。
歩きながら、アリスは小さく呟いた。
(……アンディ)




