19.出雲刀は狂気を斬る
登場人物
『ディヴァインリーパー』ミネルバ代表
ジェシカ グラフ アンディ アリス アルス
古代マリア
リーン・ホーク・マリア
ホーリーエンブレム
ティレ・レ・フィセル
ギルマスの息子
クロード
出雲の国
長 長の娘
梟 凛
「あははは! 俺様の最高傑作を──存分に味わえ!!」
嘲笑に呼応するように、血の守人が疾駆した。
一直線に、ジェシカの命へ届く軌道。
刃が触れ合う、その寸前。
頬を撫でた風が、死の気配を告げる。
──危ない!
思考より早く、身体が動き紙一重の回避。
だが体勢は崩れてしまった。
その一瞬をフィセルも逃す事なく、
落とした切先からの逆袈裟、続く横一文字。
淀みのない連撃。
出雲民──正に守人の太刀筋その者だった。
致命傷は避けるが無傷ではなかった。
(……このままじゃ、やはり無理)
ジェシカは右手の出雲刀へ視線を落とす。
マリアの力を受けてもなお、刃こぼれ一つない静かな直刃。
(一気に行く!!)
──身体解放。
青白い光が、ジェシカを包む。
同時に、刀が微かに震え出す。主人を拒絶……。
力が溢れて一気に決めたい!そんな気持ちに共鳴してくれない出雲刀……
一拍。
「……お願い」
震える息で、告げる。
「力を貸して」
わずかな沈黙。
するとジェシカの言葉を理解したかのように
震えは、すっと止んだ。
「うん……ありがとう」
改めて出雲刀の奥深さを感じ、フィセルを睨むジェシカ。
一歩退き、納刀。
目を閉じ、世界を切り離す……。
次の瞬間──フィセルに向け踏み込んだ。
間合いを消し去る速度。
抜刀。
横一文字。
目に見えない速さに血の守人は反応が一瞬遅れた。
だが、ほんの一瞬の隙が致命傷となる。
それだけで十分だった。
刃が左脇腹を断つ。
さらに踏み込み、両手で振り下ろす──真向斬り。
少しの静寂。
音が消える。
時さえ息を潜めた、わずかな空白。
やがて守人の身体が崩れ、血となって地へ広がった。
ジェシカは視線を上げる。
そして宙に浮くフィセルを、鋭く射抜く。
「な、なんだよ……その力……。頭おかしいだろ! ふざけんな!」
叫びは、もう届かない。
終わらせる──ただ、それだけを決めてフィセルに向け踏み込む。
フィセルは短剣を二本構え迎撃、しかし防御に徹している………違和感を覚えるジェシカ。
「……まだ、何か企んでるよね」
沈黙ののち、口元が歪むフィセル。
「ははっ。何だよバレてるか──なら、もういいや」
血の守人が消えた場所へ足をゆっくりと置く。
静かな狂気をフィセルに感じる。
そして、残滓を吸い上げ、己と混ぜ合わせた。
するとフィセルの皮膚が赤黒くなり、
瞳は更に赤く光、
右手には血の刀を携えている。
──あの時の、覚醒死者に似ている。
「あははは! これで思うままだ!
これこそが完成体!!死ねよ!!」
拳を握り、突進。
目で捉える事のできる速さ、ジェシカは避けない。
左腕で突進を受け止め、そのまま勢いよく上空へ投げ上げる。
更にフィセルを追う。
腹部へ刃を突き立て、そのまま急降下。
激しく衝突し、砂塵が爆ぜた。
「……はぁ……はぁ……」
喉が焼ける。
渇きが、奥から這い上がってくる……
「あー!いやだ!
ああもう! お前……本当、うざすぎ!!」
地中からフィセルの怒号。
更に巻き上がる砂煙──その奥で、光が閃いた。
一閃。
──!!
避けた、はずだった。
しかしジェシカの左腕が宙を舞う。
遅れて、激痛と血飛沫。
「くっ………」
歯を食い縛るが、身体解放が解け、力が抜ける。
(……まずい……)
その時、小さく脳裏に響く。
【限界か……】
マリアの声。
【我はまだ足らぬ……】
【はは……こんなに心踊るのは久しいぞ……】
意識が沈むほど、
マリアの声だけが鮮明に聞こえてくる……。
───……。
──…。
……。
意識が途絶える………。
力なく立つジェシカを見て、フィセルが嗤った。
「あははは! これで終わりだ!!」
血の刀を構え、喉元へ──突き。
その瞬間。
「ジェシカぁぁぁぁーーー!!」
遠くから届く、グラフの絶叫。
───!!?
刃はジェシカに届かなかった。
【くっくく……楽しいところ、すまぬ……】
【雑魚が】
銀髪の奥で光る紅色の瞳……
──再度、狂気で世界が揺れる。




