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紅月のクロスリーパー 〈血を武器に変える少女と世界の真実〉  作者: ルーツ
第三章 未開の地、出雲の国

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18.救いは血に沈む

登場人物

『ディヴァインリーパー』ミネルバ代表

ジェシカ グラフ アンディ アリス アルス


古代マリア

リーン・ホーク・マリア


ホーリーエンブレム

ティレ・レ・フィセル


ギルマスの息子

クロード


出雲の国

長  長の娘

梟  凛

先ほどまで、グラフの視界には死者と屍人の群れが渦巻いていた。

だが今──


そこに立っているのは、フィセルただ一人。


あまりに急激な静寂。

思考も、呼吸も、指先の感覚さえ途切れていた。


世界から、音が消える。


その沈黙を、怒号が裂いた。


「“アレ”は何だよ!!

 俺様の仕掛けが……!」


「クソッタレが!!」


叩き起こされるように、意識が戻る。

グラフは両手斧を握りフィセルへ向き直した。


──その瞬間。


背後に、理解を拒む“気配”が立つ。


振り向いた視界の、すぐそこ。

目を見開き、歪んだ笑みを浮かべる女がいた。

近すぎる距離で、ただこちらを見つめている。


【キサマ……我のオモチャに、何をする……】


意味は分からない。

それでも、本能だけが理解していた。


──触れてはならない存在。


喉の奥から、かすれた声が零れる。


「……ジェシカ、なのか……」


【ほう】


マリアは静かに瞼を閉じた。

遠い記憶を探るような、わずかな沈黙。

そして口をゆっくりと開く。


【……大人しくしておけ】

【……我の楽しみを奪うことは……誰だと許さぬ】


それだけで、空気が沈む。


マリアはゆっくりと、フィセルへ歩み寄った。


「ふざけんな!!

 俺様の計画を──」


言葉は、最後まで届かない。


一閃。


音さえ、生まれなかった。


ただ静かに、世界だけが止まる。


やがて──遅れて現実が追いついた。


フィセルの身体が、力を失い崩れ落ちる。


「……な……」


グラフの喉が震える。


自分とアンディ、二人がかりで追い詰めるのが限界だった相手。

それを、たった一太刀で終わらせた。


【……つまらぬ】

【もっと、我を楽しませよ……】


月光が銀髪を照らす。

紅い瞳の奥には──


触れれば壊れてしまいそうな、

言葉にならない孤独だけが宿っていた。


やがてマリアは刀を収める。


【……もうよい】


一拍。


【グラフよ】


「…………。」


【ジェシカに伝えよ】

【さらなる血を求めよ。

 それだけが──救いなのだと……】


声が途切れ、意識が沈む。


次の瞬間。


そこにいたのは──


「……ジェシカなのか……?」


「……うん。私だよ……グラフ」


張り詰めていた何かが、ほどけかける。


──その時。


「あははははは!!」


哄笑が夜を切り裂いた。


倒れたはずのフィセルが、立っている。


「危なかったぜ……

 さすがの俺様も焦ったよ……

 でもな――!!」


掲げられた十指。

足元から、屍人が溢れ出す。


それらは引き寄せられ、絡み合い、

ひとつの巨大な塊へと圧縮されて宙に浮いた。


「なぁ知ってるか!?」

「命ってのはな──潰して初めて、美しく咲くんだよ!!」


「見てろよ……!」


フィセルは片膝をつき、塊に両手を当て叫ぶ。


「──ファントッシュ・ネトル!!」


空気が、軋む。


次の瞬間。

鋭い風が、グラフをかすめた。


視界が揺れる。


膝をつき、崩れるグラフ。力が、腕に入らない。


「グラフ!!」


ジェシカの声が遠い。


「くっ……

 まだ、あんな力を……」


震える手で、ジェシカは結晶をグラフ口元へ押し当てた。


「お願い。離脱して」


ジェシカの手が、わずかに震えていた。

それを見た瞬間──グラフは、すべてを悟る。


「ああ……分かっている……

 俺には、分不相応だ……」


グラフはブラッディローズを使い、その場から姿を消した。


──────────


夜は、さらに深くなる。


残されたのは、ジェシカとフィセル。


そして──


血の底から、影が立ち上がる。


守人に似た姿。

手には、血の刀。


フィセルの顔が歓喜に歪む。


「あははは!!

 受けてみろよ。

 俺様の──最高傑作をな!!」


影が、ゆっくりと顔を上げる。


その瞳には、怒りも、憎しみも、救いもない。


ただ──何も残っていなかった。


──静かに。

本当の戦いが、今始まる。

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