17.表と裏
登場人物
『ディヴァインリーパー』ミネルバ代表
ジェシカ グラフ アンディ アリス アルス
古代マリア
リーン・ホーク・マリア
ホーリーエンブレム
ティレ・レ・フィセル
ギルマスの息子
クロード
出雲の国
長 長の娘
梟 凛
──ジェシカの内側で、何かが軋んだ。
ジェシカは、梟から出雲刀の剣技を受け継いでいた。
その技も、その在り方も──すべてがマリアへと継承されていることに、本人はまだ気づいていない。
【ハハっ……面白い。実に面白い】
【お前の成長は、我が力となる】
次の瞬間。
マリアはジェシカの意識を、強引に奪いにかかった。
「や、やめ……なんで……今……」
【ははっ! 今のお前に、この状況をどうにかできるのか】
以前よりも流暢になった声。
その違和感に抗い、ジェシカは必死に意識を繋ぎ止めようとする。
【無理をするな……ここは我に任せよ】
「で、でも……また灰燼に──ッ!!」
両膝から崩れ落ち、頭を抱え、痛みに耐える。
【……やらぬ。出雲刀を我にも扱わせよ】
【それだけのことだ】
「──!? な、なんで……そんな……」
【我はお前と共にある】
【この力、我も欲する】
歯を食いしばる。
口元から血が零れ、瞳は蒼から──真紅へ。
意識が途切れる寸前、
深く沈んだ声が響く。
【主導権が移ろうとも、ジェシカ。お前は消えぬ】
【ただ奥へ退くだけだ】
【さあ、渡せ。主導権を】
「う、うわあああぁぁ―――ッ!!」
叫びが天を裂いた。
──静寂。
風すら、止まった。
次の瞬間。
出雲の国が、狂気に満ちた。
砂塵が舞い、鋭い光が奔る。
やがて──低く笑う女の声。
「はは……はーっはは!
これが……出雲刀か」
マリアは刀を掲げ、
愛でるように刃を見つめていた。
────────────────
グラフはフィセルと対峙していた。
だが意識は、完全にジェシカの方へ向いている。
──それはフィセルも同じだった。
「あはは! 何だ? あそこに何があるのかなー?」
指先が動く。
大量の屍人がジェシカへ襲いかかる──はずだった。
──だが。
「は……?」
「な、なんだよ……なんで俺の言うことを聞かないんだよ」
マリアの溢れ出る狂気に屍人は微動だにせず、
風に触れた灰のように崩れ、消えた。
直後──閃光。
グラフの視界を横切った光の意味を理解するより早く、
フィセルの右肩が床へ落ち、鮮血が散る。
フィセルの背筋に、理解できない寒気が走った。
「ぐっ……何だ今の! あそこに何がいやがる!!」
怒号とともに、
すべての死者を屋敷へ向けるフィセル。
【ほぉ】
マリアは一瞬で夜空へと姿を現し、ただ一言だけ呟いた。
刀を鞘へ。
──抜刀。
──納刀。
──再び、抜刀。
時空そのものが裂け、
屋敷を覆う死者と屍人を一瞬で呑み込む。
その時──
「屋敷に、まだ人がいる!
ねえ、助けて!」
内側から届く、ジェシカの声。
マリアの動きが、わずかに止まる。
【……確かに、いるな】
視線の先。
梟が凛を守り、刀を振るっていた。
紅い瞳。紅い羽。
マリアは音もなく二人の目の前に降り立つ。
【伏せよ】
"スカーレットローズ"
出雲刀にマリアの血で染まり、
紅色の刃を横薙ぎの一閃。
──!!
次の瞬間。
屍人は消え、
その場には三人だけが立っていた。
だが出雲刀は、マリアの力に耐えきれず、静かに崩れ落ちる。
マリアは二人の襟首を掴み、瞬時に船内へ移した。
そして──
梟の持つ、もう一振りの出雲刀へ視線を落とす。
【我に……】
言葉にならぬ圧。
梟の額を、冷たい汗が伝う。
刀を奪い取り、
グラフの方へ向かおうとした──その時。
「ジェ……ジェシカか……」
アンディの声。
【フフ……この場は貴様に託す】
紅の残像だけを残し、マリアはグラフのもとへ飛び去った。
──そこにあったのは、
もはやジェシカの瞳ではなかった。




