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紅月のクロスリーパー 〈血を武器に変える少女と世界の真実〉  作者: ルーツ
第三章 未開の地、出雲の国

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15.火事場と狼煙

登場人物

『ディヴァインリーパー』ミネルバ代表

ジェシカ グラフ アンディ アリス アルス


ホーリーエンブレム

ティレ・レ・フィセル


ギルマスの息子

クロード


出雲の国

長  長の娘

梟  凛

ミネルバ王国から派遣された船医たちの尽力により、出雲の負傷者たちは次々と治療を受けていた。

血の生臭さと薬品の匂いが混じる空間で、凛もまた袖を汚しながら救護にあたっている。


──その時だった。


船内から現れた四人の姿が、凛の視界に入る。

彼女に気づいた一行の中で、アルスだけが一歩前へ出た。

迷いのない足取りで、凛の前に立つ。


「手伝えず、すまなかった。

 だが……今から言うことを聞いてほしい」


白を基調とした着物は血に染まり、足元には乾いた土がこびりついている。

凛は静かに足を止め、アルスと視線を重ねた。


「はい。どのようなお話でしょうか」


「これから出雲は、確実に戦火に沈む。

 その時、民に再び被害が及ぶ……それだけは阻止しなければならない」


言葉の重さを、凛は一瞬で理解した。


「……はい」


「そこで提案がある。

 しばらくの間、出雲の民を俺たちの国、ミネルバで保護しようと思う」


空気がわずかに張りつめる。


「凛。そして梟には、これからソフィア国王と今後について話してほしい。

 幸い船はある。判断は早い方がいい」


「承知しました。

 ですが……私一人の判断では決められません。

 必ず梟にも確認を取ります」


「ああ、そうしてくれ」


「では、早速行ってまいります」


凛は深く一礼し、踵を返した。

その背は人波に紛れ、やがて見えなくなる。


「……ふっ。そう来たか」


グラフが小さく笑う。


「これなら、お前たちも動きやすいだろ?」


「ああ。だが……本当に一人の判断でいいのか?」


「構わない。

 ミネルバと出雲が国交を結べば、双方にとって得になる。

 いずれ文化交流へと発展すれば……未来は悪くない」


「……そうか」


「なら、その覚悟。ありがたく使わせてもらう」


────────────


この日を境に、出雲の民はミネルバ王国へ渡る準備を始めた。

アルスを中心に計画は滞りなく進み、

移送完了まで、あとわずかとなった──五日後。


その夜。


ジェシカと梟が稽古場として使っていた屋敷の上空に、

“それ”は現れた。


異変を最初に察知したのはアンディだった。


「……来たぞ、グラフ!」


「ああ、分かっている」


赤黒いフードを纏い、宙に浮かぶ影。

歪んだ笑みを浮かべる男──ホーリーエンブレムの一人、フィセル。


「あはは!

 何か企んでるとは思ってたけどさぁ……

 まさか人をこの地から消すとはねぇ!!」


狂った笑い声が夜空に反響する。


「ありがとうよ。余計な手間が省けた。

 ──それじゃあさ……早速、死んでくれよ!」


次の瞬間。

屋敷を中心に、無数の屍人が音もなく現れた。


「気づくの遅すぎるでしょ!!」


「グラフ……」


「ああ……やるぞ!」


アンディの槍が唸り、

グラフの両手斧が夜を裂く。


だが、斬撃は虚空を切った。


「……ちっ」


「気を抜くな。

 奴は腐ってもホーリーエンブレムだ」


屍人の群れが二人を包囲する。

貫き、砕き、倒しても──減らない。


持久戦は不利。

だが、打開策が見えない。


その時。

フィセルの視線が別の場所へ向いた。


避難する民。

そして、その前に立つクロードとアルス。


フィセルの指が少し動く。

すると屍人達がアルス達へ一斉に襲いかかってきた。


だが、出雲の民にして負傷した守人がアルス達の前に立つ。


「我が命。クロに託す」


どこか聞いた事のある声。

懐かしい響きだった。

伸ばした手は──届かない。


言葉を残し、振り返る事なく、負傷した守人は屍人の群れへと向かって行った。


クロードの手には出雲刀。


──だが、群れの勢いは止まる事を知らずアルス、クロード、出雲の民へと襲いかかる。


「うわぁぁぁぁ!た……助けて……!!」


絶望の声。

間に合わない、誰もがそう思った瞬間。


──!!


──静寂。


クロードを囲んでいた屍人の動きが、ぴたりと止まる。

次いで、音もなく風が吹き屍人は灰へと崩れ落ちた。


灰の中心に立つ影。

紅く染まった瞳。

黒く長い髪。

その手には、真紅に輝く出雲刀。


「クロード!!

 そのまま奴を斬れ!!」


アンディの叫びに反射的に反応し、振るわれた一閃。


フィセルへ風が、抜ける。


次の瞬間。

浮かんでいたフィセルの両足が切断され、足だけが地へ叩きつけられた。


「……は?」


歪む笑み。だが目だけが震える。


「あは……ははっ。いいねぇ。

 命が必死に未来へ逃げる瞬間ってさぁ──

 いちばん綺麗なんだよねぇ!!」


狂気が、夜を満たした。


怒りに歪む顔。

血走る瞳。


「くっ…クソ共がっ!!

 もう計画なんてどうでもいい!!

 お前たちを……殺す!!」


屍人すべてが解き放たれる。

四人は民を庇い迎撃するが──数が多すぎる。


「くっ……厳しいな」


「何かないのか、グラフ!!」


沈黙。

限界が迫る。


その時──。


澄んだ音が、夜に響いた。


チーン……。


鐘のような澄音が、夜を断ち切った。


動きを止めた屍人が、次々と灰になり屋敷の方から、一閃。


青白いオーラ。

紅の瞳。

抜刀の余韻を残す姿。


ジェシカだった。


「遅くなってごめん、大丈夫だった!?」


その声に、アンディとグラフは笑う。


「……くくっ、アンディ。やるぞ」


「ああ。今度は俺たちの番だ」


二人は武器を構え、反撃の狼煙を上げた。


その夜は──まだ始まったばかりだった。


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