12.始動と指導
登場人物
『ディヴァインリーパー』ミネルバ代表
ジェシカ グラフ アンディ アリス アルス
ホーリーエンブレム
ティレ・レ・フィセル
ギルマスの息子
クロード
出雲の国
長 長の娘
梟 凛
凛に案内されたアンディは、ジェシカを抱き上げ、そっと布団へ寝かせた。
「ジェシカ、今日はもう無理をするな」
「うん……ごめん、アンディ」
「……気にすることはない」
アンディは、横たわるジェシカの頭に静かに手を置き、やさしく撫でる。
「話は俺たちで進める。だから──お前はゆっくり休め」
そう告げると、アンディは立ち上がり、ジェシカに背を向けたまま凛と共に来た道を戻っていった。
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廊下を進む途中、凛がおずおずと声をかける。
「あの……アンディ様」
「何だ……」
「先ほどのクロの行動……あれを見て思ったのですが……
あの時、人を攫ったのは……彼女のため、だったのですか?」
「攫ったわけではない。いずれ消える命だ。
……俺はただ、有効的に使っただけだ」
「……そうですか」
「ああ」
短い会話だけが、静かな廊下に落ちていった。
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布団に横たわるジェシカは、アンディに助けられた時と、自分の選んだ行動を重ね合わせるように思い返していた。
──崩れ落ちそうだった自分を、黙って支えてくれた背中。
あの温もりを、今もはっきりと覚えている。
(次は、私が……)
胸の奥で、消えかけていた火が、かすかに息を吹き返す。
痛みも不安も消えたわけじゃない。
それでも前を向ける理由が、ここにある。
布団を頭まで引き上げ、静かに目を閉じ、ひとつ深く息を整える。
すると奥から声が聞こえてきた──マリアだ。
【くっくく……眷属とはな……】
【その覚悟、このマリアだけが受け止めようぞ……】
どこか含みのある言い方……
──ゆっくりと、瞼を開くジェシカ。
だがその瞳に、もはや迷いはなかった。
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アンディと凛は居間へ戻り、グラフの隣に腰を下ろした。
「それで、どこまで話は進んだ」
凛もまた、言葉を待つように耳を傾ける。
アンディは低く呟いた。
「……そうか。屍人、そして守人か」
「ああ。この問題を片づけなければ、先には進めない」
グラフは鋭い視線を梟へ向けた。
「お前たちは、屍人達へどうすべきだと思っている」
その問いに、梟も凛も答えを出せず、ただ視線を落とす事しか出来ない。
長い沈黙。
やがてグラフは一瞬だけアンディを見やり、再び梟へ向き直った。
「……もし俺たちが、この問題を解決すると言ったら。
お前たちは、どうする」
重い言葉だった。
だが今の出雲の国に、守人の数が圧倒的には足りない。
グラフの提案を断る理由はなかった。
梟はゆっくりと顔を上げ、まっすぐグラフを見据える。
「この国を救えとは言わなぬ。
……ただ、終わらせてくれ──頼む」
畳に触れた両手が、わずかに震えて頭を下げ、
連れるように凛もまた、頭を下げた。
部屋の誰も、すぐには息をしなかった。
やがて──
「……引き受けた」
──────。
こうしてグラフとアンディは、出雲を襲う屍人、そしてヘレティックの問題に動き出す。
その第一歩として、グラフは梟に告げた。
「出雲刀を扱う守人を一人、俺たちに紹介してほしい」
「何か理由でも?」
グラフはアンディへ顎を向け、わずかに間を置く。
「……出雲刀の秘密をジェシカは知る必要がある」
「依頼を果たすために──不可欠な力だ」
腕を組み、黙り込む梟。
その沈黙を破ったのはアルスだった。
「なあ凛。あんた、ミネルバで出雲刀の舞を見せてただろ。
……あれが忘れられない、あの剣技は俺たちにない!」
凛は袖をそっと握り、わずかに微笑む。
「そうですか。でしたら──」
梟へ向き直り、静かに告げた。
「出雲の長にして守人、梟が。
ジェシカさんの師となりましょう」
「そしてアルス様の出雲刀──
クロが初めて打った太刀を、ジェシカさんへ」
「……分かった」
梟は無言で頷いた。
アルスは正座し、刀を静かに梟へと差し出す。
「ジェシカを頼む」
「了承した」
やがてグラフは立ち上がる。
「お前たちは先に船へ向かえ。
俺はジェシカに話を伝えてくる」
「分かった。アルス、行くぞ」
「……待ってくれ!」
アルスはクロードへ振り返る。
「お前も来い。これからの自分と向き合え」
その言葉に、クロードは小さく頷いた。
「……分かった。
俺、もう……戻れないんだよな……」
立ち上がり、アンディたちの後を追う。
彼らの行き先を知る者は、まだ誰もいない。
──ただ一つ、
その先に待つのが「戦い」であることを除いては。




