9.影と暗略
登場人物
『ディヴァインリーパー』
ジェシカ グラフ アンディ アリス
ホーリーエンブレム
ティレ・レ・フィセル
鍛治師、錬成師
アルス
ギルマスの息子
クロード
あれは……何だ……」
胸に芽生えた不安を押し殺し、アンディは対岸を見据えた。
血で形作った足場を蹴り、一直線に駆ける。
視界に飛び込んできた光景──
それは、言葉を失うほどの惨状だった。
小さな集落は焼け落ち、
生き残った人々は“何者か”に捕らえられている。
祈りも、叫びも、もう届かない。
「くっ……」
「何が、どうして……こうなった……」
答えを求めるように、アンディはさらに奥へ踏み込んだ。
「……何だ、これは!」
海の中から、這い上がってくる異形の群れ。
その背後では、見覚えのある死者たちが、まるで導くように揺れている。
一瞬、意識を周囲へ拡げる。
「……気配は、ないか」
異常な存在は感じられない。
だが──次の瞬間。
「ブラッディローズ」
赤黒い槍が放たれる。
狙い違わず一体を貫き、アンディ自身もそれを追って踏み込んだ。
耳を裂くような叫び。
槍を引き抜き、流れる動作のまま横薙ぎに払う。
異形は崩れ落ち、静かに沈んだ。
アンディは止まらない。
迫る影を次々と斃しながら──
その足は、出雲の地を踏みしめていた。
────────
やがて対岸側へ回り込んだアンディは、
ジェシカとグラフのもとへの合流を急いでいた。
生存者を救い上げ、状況を確かめながら進む中、
視界の端に小さな集落が映る。
「……この心音……
まさか……!」
槍を握る右手に力がこもる。
「…………やはりな」
そこに立っていたのは、
赤黒い法衣を纏った一人の人物。フードは被っていない。
アンディは低く名を呼ぶ。
「ホーリーエンブレム……」
相手は、すでに気づいていた。
「へへっ、やっと来たか。
アイツの言った通り──“本物”が来るなんてね」
「本物……? それに、アイツとは誰だ」
「あはは、焦るなよ。すぐ分かるさ。
それに──目的は、もう果たしてるしね」
不気味な笑み。
だがどこか、幼さが残る。
「ああ、そうだ……」
囁くように名乗る。
「俺は聖人様の寵愛を受けし、
ホーリーエンブレムの一人──
ティレ・レ・フィセル」
「よろしくね。
本物のクロスリーパーさん」
その言葉と同時に、
フィセルは両腕を持ち上げ、指に力を込め、握りつぶした。
「──なっ!?」
アンディの周囲で蠢いていた異形たちが、
一斉に動きを止め、崩れ落ちる。
「……何をした」
「あは、あはは! 教えないよ?」
「あはははは……!」
狂った笑いを残し、
フィセルの姿は足元から静かに崩れ、消えていった。
あとに残ったのは──静寂。
燃え続ける集落。
吹き抜ける風。
かすかな呻き声。
そして、動かぬ亡骸。
アンディは拳を強く握り締める。
「ホーリーエンブレム……
ティレ・レ・フィセル……」
──────────
その後、アンディはジェシカたちと合流した。
アルスたちはすでに上陸し、負傷者の手当てを行っている。
沈んだ表情に気づき、グラフが低く問う。
「……どうした」
「ああ……
お前たちに、話さなきゃならないことがある」
「……そうか」
グラフは静かに船へ視線を向け、
アンディは無言で頷いた。
二人は歩き出す。
途中でジェシカにも声をかけ──
三人は、停泊する船内へと向かっていった。




