8.未知と未知
登場人物
『ディヴァインリーパー』
ジェシカ グラフ アンディ アリス
ミネルバ王国
ミネルバ・ソフィア・ボア国王
鍛治師、錬成師
アルス
ギルマスの息子
クロード
甲板の上で、潮風に吹かれながらジェシカは一人、遠い海を見つめていた。
その背中を見つけ、アルスが静かに歩み寄る。
「よお。さっき気づいたんだけどさ……剣、置いてきたのか?」
「あ、うん。アンディにね、これ以上使うと修復が難しくなるって言われて」
「そうか……それじゃあ──」
言いかけて、アルスは言葉を切った。
「ん? どうしたの?」
「いや。出雲の国で、俺も聞きたいことがあるんだ。
それが分かったら……話すよ」
含みを残したまま、アルスは背を向けて船内へ戻っていった。
やがて、それぞれが束の間の時間を過ごす。
────────────
「見えてきたぞー!!」
船長の声が船内に響いた。
アンディ、アルス、グラフ、そしてジェシカ。
四人はそろって甲板へ出る。
視界の先には、遠目にも分かる巨大な山がそびえていた。
「うわ……なにあれ! すっごく大きい!」
身を乗り出し、ジェシカは目を輝かせる。
隣のグラフは、潮風に飛ばされないよう帽子を押さえながら、まだ小さく見える出雲の国を見据えていた。
そこへ、アルスとアンディも歩み寄ってくる。
「なあ、ジェシカ」
呼ばれ、ジェシカは身を引き戻して振り向いた。
アルスの右手には、以前見せられた出雲刀が握られている。
「この刀……もしお前が扱えるなら、使ってほしい。
できるか?」
「え……いきなり言われても……」
真剣な眼差しに押され、ジェシカは差し出された刀を受け取る。
静かに鞘から刃を抜き、両手で柄を握り──構え、振り下ろす。
だが、鈍い音とともに切っ先は大きくぶれた。
「……これでいいの?」
「いや、違うな。
あの時見た動きとは全然違う。
やっぱりこの出雲刀……何かあるようだ」
沈黙が落ちる。
「そっか……なら、私には扱えないよ」
ジェシカは刀をアルスへ返した。
「ああ……変に期待させて悪かった」
「ううん」
重たい空気──
その瞬間、遠くからいくつもの悲鳴がジェシカ達の耳に響いた。
「えっ、なに!?
グラフ! アンディ!」
「ああ……これは……」
アンディの視線を追い、ジェシカも遠くを見る。
さきほどより、はるかに近づいた出雲の国。
そこから上がる叫び声、黒煙、そしてかすかな炎。
──!!
ジェシカは身を乗り出し、飛び出そうとする。
「待て!」
アルスが腕を掴んだ。
「何!? あれを放っておけって言うの!?」
「違う!
状況も分からないまま動いたら、余計に混乱するだろ!」
「──っ……でも!」
そのやり取りを断ち切るように、グラフが低く告げた。
「ジェシカ。俺の近くから離れるな。
アンディ……今回はお前が力を振るえ。
俺とジェシカは人命優先だ」
「ああ、任せとけ」
「分かった! 行こう!」
「アルスは船に残れ。
停泊できる場所へ誘導しろ。
それまでこの付近で待機だ」
「了解だ。頼む、グラフ」
「ジェシカ、行くぞ」
「うん!」
「ブラッディローズ」
グラフはジェシカを抱え、叫びの聞こえる出雲の国へと飛び立った。
続くように、アンディも後を追う。
────────
上から二人の目に映ったのは──惨劇だった。
死者のような存在が、一方的に逃げ惑う人間を襲っている。
だが、何かが違う。
ジェシカの知る“死者”とは。
──心音がない。
「グラフ……あの死者、心音が……」
「ああ……俺にも分からねえ。
だが、襲ってるのは間違いねえ!」
次の瞬間、グラフは上空から急降下し、赤黒い両手斧を振り下ろして一体を叩き潰した。
グラフは出雲の地へ着地し、周囲を見渡す。
内臓を喰らうわけでも、血を吸うわけでもない。
ただ──
クチャクチャと音を立て"脳"を、喰っていた。
「や……やめてくれ……」
男が数体に意識があるまま掴まれ、引きずられ、
顔の皮膚を裂かれ、露出した頭蓋へ──噛みつかれる。
そして………。
そこへ、ジェシカも出雲の地へ降り立つ。
「ブラッディローズ」
残酷な場に相応しくない、美しい紅い血の薔薇の花弁が舞った。
だが、その光景を見たジェシカの怒りは収まらない。
「身体解放―!!」
青白いオーラを纏い、真紅のロングソードを握り、
ジェシカは凄まじい速さで敵を切り裂いていく。
グラフもまた身体解放し、反対側へ。
ただひたすら、人命を優先するために。
その一方で──
アンディは血の薔薇で空中に足場を作り、
冷静に戦場全体を見渡していた。
「何だ……あの集団は……」
海側──別方向から、同じ“何か”が歩いてきていることに。
アンディは不安を抱えつつ、その方角へと動き出した。




