7.出港と期待
登場人物
『ディヴァインリーパー』
ジェシカ グラフ アンディ アリス
ミネルバ王国
ミネルバ・ソフィア・ボア国王
鍛治師、錬成師
アルス
ギルマスの息子
クロード
──次の日。
ミネルバ王国の港に、ジェシカたちは立っていた。
眼前に横たわるのは、威容を誇る一隻の大船。
陽光を受けて白く輝くその船体は、まるで新たな運命へと誘う門のようでもあった。
その甲板から、聞き覚えのある声が降りてくる。
「おーい!」
見上げれば、アルスが大きく手を振っていた。
その姿を認めた瞬間、ジェシカの瞳はぱっと光を宿す。
振り返った彼女の笑顔は、曇りひとつない朝の空のように明るかった。
「わあ……すごい……!」
無邪気な歓声。
それを見守るアンディとアリスの表情は、自然とやわらいでいる。
ただ一人、グラフだけが肩をすくめ、帽子の鍔を指で押し下げた。
「さっさと来いよ。こっちで待ってる」
「うん、今行く!」
出港までは、まだわずかな猶予があった。
四人は船へと足を踏み入れる。
内部は絢爛に彩られ、揺れる光がまるで夢の残滓のように瞬いていた。
────。
「よう、待ってたぜ。
昨日、ソフィアにいきなり言われてな。お前たちと一緒に出雲へ行けって。
驚いたが……悪い気はしなかった」
その言葉に、アンディが静かに応じる。
「当然だ。お前がいなければ、始まらない」
「……何かあるのか?」
「単純な話だ。出雲で目的の物が手に入れば──
次はアルス、俺、そしてクロード。
三人でジェシカの出雲刀を打つ」
空気が、わずかに張り詰めた。
「……クロードだと?
なぜ、お前がその名を知っている」
「話は後だ。いずれ嫌でも向き合うことになる」
「……そうか」
沈黙は短く、しかし重かった。
「もう、アルスったら……」
やわらかな声が、その緊張をほどく。
振り向けば、音もなく歩み寄るソフィアの姿。
「お話の最中、失礼いたします。
出港の支度はすでに整っております。いつでもお発ちになれますわ」
「なら、急ぐ理由は十分ね」
アリスが微笑む。
「うん!行ってくるね」
「ええ」
グラフはアリスへ歩み寄り、声を潜めた。
(血の結晶……頼む。こちらは気にするな)
無言の頷き。
そしてアリスはアンディの方へ歩き抱き寄せる。
「……気をつけて」
「ああ……」
それだけで、言葉は足りていた。
静寂を断つように、ソフィアが小さく咳払いをする。
「皆様のご無事の帰還を、心よりお祈り申し上げます」
差し出されたのは、国賓としての招待状。
ジェシカはそれを胸に受け取った。
「それでは──失礼いたします」
そんなソフィアの隣にアリスが不適に笑い近づく、そして静かに指を鳴らす。
──パチン。
瞬きの間に、二人の姿は消え、港へと姿を現した。
「……今の、なんだよ」
「まったく……魔女ってやつは」
アルスの笑いが、甲板に広がる。
その余韻に重なるように、低く長い汽笛が海を震わせた。
船はゆっくりと岸を離れ、
運命を乗せて──出雲の国へと向かう。
────。
その旅立ちを、遠くから見つめる影がある。
赤黒き法衣に身を包んだ、あの男……。
「やはり……そうか……くく……くくく……」
歪んだ嗤いが、風に溶けた。
出雲の地で待つものが、救いか、あるいは──破滅か。
潮風を受けながら、
それでもジェシカは、微笑んでいた。
まだ見ぬ未来を、まっすぐに信じるように。




