6.先と今
登場人物
『ディヴァインリーパー』
ジェシカ グラフ アンディ アリス
ミネルバ王国
ミネルバ・ソフィア・ボア国王
ミネルバ・フェミル・オルグイ前国王
鍛治師、錬成師
アルス
今後について話し合うため、
ジェシカたちはミネルバ城・謁見の間を訪れていた。
静まり返った空間。
高い天井に、柔らかな光が差し込んでいる。
玉座に腰かけるソフィアは、
四人をまっすぐ見据えていた。
「──それで、そちらの頼みとは?」
向けられた視線は、ジェシカでもアリスでもない。
アンディだった。
「ああ、その件なんだが」
アンディは一歩前へ出る。
「ジェシカの持つ武器を進化させるため、
俺たちは三人で“出雲の国”へ向かうつもりだ」
謁見の間に、わずかな緊張が走る。
「だが、あの国は鎖国状態だと聞いている
どの国とも国交を結ばない未開の地だと聞いた」
「……ただし、
正式な国の代表としてなら門は開く、ともな」
アンディは真っ直ぐに言った。
「だから頼みたい。
俺たちをミネルバ王国の代表として送り出してほしい」
「………そうね……」
すべてを聞き終えたソフィアは、
わずかに眉をひそめた。
──。
「……出雲の国」
どこか静かな声のソフィア。
「確かに、実情はほとんど知られていません──」
「ですが、そんな危険かもしれない地へ、
あなたたち三人だけを向かわせてよいのか……」
王としての迷い。
それが滲んでいた。
そんな空気を破ったのはジェシカとアリスの二人。
「『あのー』」
ジェシカとアリスの声が、
ぴたりと重なる。
二人は顔を見合わせ、アリスが微笑んで一歩退いた。
「どうぞ」と譲るように。
「あ、あのね……ソフィア」
ジェシカは胸の前で手を握る。
「私たち、どうしても
出雲の国に行かなきゃいけないんだ」
まっすぐな瞳。
「……だから、ダメかな?」
つたない……
けれど──
そこに、嘘のない言葉だ。
その想いを受け継ぐように、アリスが静かに前へ出る。
「うふふ……もうご理解されているとは思いますが」
「ここで、私から一つ提案を」
優雅に一礼。
「国王様。
私たちディヴァインリーパーは、
現在このミネルバに拠点を置いて活動しています」
「そして──」
アリスはジェシカの方を向いた。
「私たちの“顔”は、
このジェシカなのです」
謁見の間の空気が揺れた。
「え……?この子が、リーダー……?」
ソフィアの驚きは、偽りのないものだった。
「そう」
アリスは微笑む。
「だからこそ、ジェシカの力は、いずれ必ず必要になります」
「その時、彼女が今以上の力を秘めていると知れれば」
「この国へ、軽々しく手を出す者はいなくなるでしょう」
アリスの話を聞き終えた直接。
ソフィアの肩が震えた。
「……ふふ」
やがて、澄んだ笑い声が広がる。
「あはは……本当に、あなたって人は」
「最高よ、アリス」
王とは思えぬ無邪気な笑顔。
「いいわ!行ってきなさい!」
無邪気な笑顔から真剣な顔に戻り、空気が変わる。
だがソフィアは続けた。
「その代わり、私からも一つお願いしていいかしら」
「もちろん、内容を伺っても?」
「アルスを同行させてほしいの」
三人の表情が引き締まる。
「今のミネルバは、冒険者と男手によって支えられている社会に戻りつつある」
「けれど商業面、特に鍛冶師が不足しているの」
「だから、出雲の技術を学び、この国へ持ち帰ってほしい」
その言葉に、
グラフが口を開いた。
「……向こうに、
ギルドマスターの息子がいると聞いたが」
「ええ。その件ね」
ソフィアは遠くを見る。
「罪人フェミル、悪政の時代。国を去った男たち」
「そして──その時、出雲からの来訪者がミネルバにいたの」
「献上された出雲刀にクロードは魅せられ……
彼はどのような手段を使ったかまでは分からないけど……出雲の国へ渡ったと聞いているわ」
「……なるほどな」
グラフとアンディが、無言で頷き合う。
アリスが静かに尋ねる。
「それで出港は、いつになりそうかしら?」
ソフィアは迷わない。
「明日の朝には準備させるわ」
「うふふ……頼もしい国王様ね」
穏やかな空気。
その中で──
「ほんとに!?」
ジェシカが目を輝かせる。
「明日の朝には
出雲へ行けるんだね!?」
三人とソフィアが、ジェシカに向け同時に頷いた。
「やったぁ……!」
無邪気な笑顔。
「これで私の武器、進化できるね!」
その一言に、
謁見の間の緊張はほどける。
小さな笑いが広がり、やがて穏やかな静けさに包まれた。
──旅立ちは、明日。
新たな運命へ向かう朝が、すぐそこまで来ていた。




