5.断罪と不吉
登場人物
『ディヴァインリーパー』
ジェシカ グラフ アンディ アリス
ミネルバ王国
ミネルバ・ソフィア・ボア国王
ミネルバ・フェミル・オルグイ前国王
鍛治師、錬成師
アルス
ミネルバ城前広場──
まだ朝だというのに、
そこにはすでに大勢の民が集まっていた。
ざわめき。
期待。
不安。
怒り。
さまざまな感情が、広場に張りつめている……
その群衆の後方に、
ジェシカ、グラフ、アンディ、アリスの四人は立っていた。
「す、すごい人だね……」
小さく呟くジェシカ。
「当然だ。これから一つの時代が終わる瞬間だからな」
グラフは静かに答える。
「うふふ……でも、終わりは同時に始まりでもあるわ」
アリスの視線は、高く設けられた処刑台へ向いていた。
やがて──
城門が重々しく開く。
その瞬間、広場の空気が一変した。
現れたのは、兵に囲まれた一人の女。
前国王。
ミネルバ・フェミル・オルグイ。
かつて絶対の権力を誇った女は、今や鎖に繋がれ、
それでも尚、誇りだけは失っていない様子だった。
────。
群衆の中から…特に男達からの怒号が飛ぶ。
「暴君め!」
「よくも今まで―!」
「早く裁け!!」
だがフェミルは、見下すように嘲笑っていた。
「……愚民め…」
かすれた声……それでも、王の声音だった。
「貴様ら男達に社会を委ねた結果、女は見下され……
そんな哀れな女を救う為、我は手を差し伸べた。
全て、お前たち男が女を蔑ろにした結果な筈だ…」
ざわめきが強まる。
ジェシカは胸を押さえた。
「どうしてあんな事……」
「信じてるのよ。最後まで、自分の正義を……」
アリスは静かに言う。
そのとき──
処刑台の反対側、城のバルコニーに一人の姿が現わし、少し後ろにアルスの姿も見える。
純白の装束。
凛とした立ち姿。
ミネルバ国王──ミネルバ・ソフィア・ボア
ソフィアの姿を目にした国民。
広場が静まり返り、風の音すら止まった。
ソフィアは、ゆっくりと民を見渡す。
──そしてゆっくりと口を開いた。
「ミネルバの民の皆さん。
本日ここに、前国王ミネルバ・フェミル・オルグイの罪を裁きます」
声は澄み、揺らぎがない。
「彼女は王として、民を苦しめ、国の均衡を歪めました」
「──……」
「……しかし」
その一言に、空気が変わる。
「彼女もまた──
この国を想った一人なのです……」
ソフィアの言葉に国民がざわつく……
フェミルの目が、わずかに揺れた。
「私は、憎しみではなく!未来のために裁きを下します!!」
「…………」
「ここに宣言します」
「ミネルバ王国は、過去を断ち切り──」
ソフィアは拳を上に掲げた。
「新たな時代へ進むと!」
その瞬間。
民衆の中から、小さな拍手が生まれた。
一つ、また一つ。
やがてそれは、大きな波となって広場を包み込む。
ジェシカは目を見開いた。
「……すごい……」
アンディが小さく息を吐く。
「そうだな…あの国王なら導くだろうな」
グラフは何も言わない。
ただ静かに、処刑台を見つめていた。
やがて──刑が執行される。
抵抗することなく、
フェミルは静かに処刑台へ歩み、自ら首を木台に預けた。
ざわめいていた群衆の声が、
いつの間にか遠のいている。
誰も──息をしていないかのようだった。
処刑人が剣を掲げる。
その瞬間。
フェミルは、ゆっくりと目を開き、
ただ一人。
バルコニーに立つソフィアを見た。
かすかな笑み。
それが嘲りだったのか、
それとも──
「奪えるものなら奪ってみろッ!!
この想いだけは……
絶対に消えることなどないッ!!」
叫びが、空を裂いた。
────。
振り下ろされる刃。
音は、なかった。
次の瞬間、転がったのは──
……王の首だった。
誰も声を上げない……。
風だけが、静かに広場を吹き抜けていく。
……すべてが終わった。
そしてミネルバに、
新しい風が吹いていた。
時代の終わりを見送る風、そしてこれから始まる風。
ジェシカの頬にも風を感じた。
「……終わったんだね」
「ああ」
グラフの声は低い。
「だが──ここからが始まりだ」
その時、誰にも気づかれぬまま、広場を見下ろす屋根の上に、一つの影が立っていた。
赤黒い外套にフードを被っていた。
「……へえ」
愉しげな声。
「本当に殺したんだ。四代厄災を」
「ははっ!面白くなってきた」
その姿は、次の瞬間──
音もなく消えた。
新しい時代の幕開けを、嘲笑うかのように。




