4.悪寒と前触れ
登場人物
『ディヴァインリーパー』
ジェシカ グラフ アンディ アリス
ミネルバ王国
ミネルバ・ソフィア・ボア国王
ミネルバ・フェミル・オルグイ前国王
鍛治師、錬成師
アルス
四代厄災
神速のレーヴ
悲狂のアン・フォリー
絶対死者アブソリュート
ギルドを出た四人は、
ソフィアから譲り受けた自宅──
すなわちディヴァインリーパーの拠点へと戻っていた。
扉を閉め、ようやく訪れた静寂。
その中で、グラフが口を開く。
「少しいいか。ジェシカ、アリス」
呼ばれた二人は、不思議そうに顔を向けた。
「ジェシカ。
血の結晶を一つ、俺に譲ってくれ」
「え? いいけど……どうしたの?」
普段と違う声音。
その変化に、三人はわずかな不安を覚える。
「……少し長くなる。リビングで話そう」
──────
腰を落ち着けたあと、ジェシカがまっすぐ問いかけた。
「それで、なんで必要なの?」
「ふっ、今すぐ使うわけじゃない」
グラフはテーブルの血の結晶を手に取り、
静かにアリスへ差し出した。
「……どういう意味かしら」
「この前──
ジェシカと別れた後、俺は一人の覚醒者と戦った」
三人の空気が張り詰める。
「相性は最悪だった。
だが、この結晶とアンディの助けもあって倒せた」
「だがその時、奴はこの結晶を見て──
“マナ”と言った」
「マナですって……?」
「ああ。意味は分からなかった。
……だが、瀕死の奴にこれを飲ませた」
沈黙。
「すると完全に回復し、こう言ったんだ。
“マナを取り込むと進化する”──とな」
「だが直後、正気を失い暴走した」
低く、重い声。
「この結晶は依存性が高い。
良薬にもなり、激毒にもなる」
そしてグラフは、まっすぐアリスを見た。
「アリス。
これで──
俺たちリーパーは進化ができると思うか?」
唐突な問い。
アリスはすぐには答えられない。
「……貴方の言う“進化”の定義は分からない。
でも、研究はできるわ」
「そうか。
なら俺からの依頼だ」
「出雲の国に行っている間、
この結晶について詳しく調べてほしい」
アリスは静かに結晶を受け取った。
「ええ。やれるだけやるわ」
「ああ……頼む」
その日以降。
フェミルの刑罰執行日まで、四人は束の間の自由を過ごした。
────────────────
──四日後、夜。
明日。
前国王ミネルバ・フェミル・オルグイの刑が執行される。
静かなリビングで、それぞれの報告が始まった。
「じゃあ最初はアリス!」
「うふふ……私は情報収集ね。
そこで一つ、気になる噂を聞いたわ」
「噂?」
「ええ。
魅惑のアリュール討伐の報が、世界中に一気に広まったの」
三人の表情が変わる。
「それを聞いたヘレティックが、何やら不穏な動きを始めたらしいの」
「不穏って……?」
「四代厄災の、別の一人を討伐しようとしているとか」
「え……なんで……」
「分からない。
でも、この話が出回ること自体、異常よ」
重く沈む空気。
そこへグラフが割って入る。
「……今は俺たちに直接関係ない。
だが警戒はしておく必要はあるな」
「ええ。この件も含めて調べておくわ」
「ああ、頼む」
短い沈黙。
やがてジェシカが、ぽつりと呟いた。
「ねえ……
四代厄災って、あと三人いるんだよね?」
グラフの眉がわずかに動く……
「ああ。
お前が倒したアリュールも、その一人だ」
「残る三人──」
神速のレーヴ。
悲狂のアン・フォリー。
そして──最後の一人。
絶対死者アブソリュート。
この名前を口にした。
──グラフの顔は強張った。
───
「絶対死者……アブソリュート……」
「そうだ……名前だけでも覚えておけ」
「あ、うん……」
空気が張り詰め、ジェシカは苦笑した。
……誰も、次の言葉を探せなかった。
そんな中、グラフが口を開く。
「続きは出雲へ向かう時でいい」
「うん!」
「うふふ」
「明日はソフィアのミネルバ王国を諸国へ示す大事な日よ」
「早く休みましょう」
その言葉に頷き、
四人はそれぞれの部屋へ戻った。
──────
翌朝。
朝日で目を覚ましたジェシカは、支度を整えリビングへ向かう。
そこには既に三人。
静かなモーニングティーの時間を過ごしていた。
アリスが差し出した、紅色のローズヒップを口に含むと、薔薇の香りが優しく広がった。
束の間の安らぎ。
──そして四人は立ち上がる。
ミネルバ城へ。
新たな時代の幕開けを、この目で見届けるために。




