3.打算と依頼
登場人物
『ディヴァインリーパー』
ジェシカ グラフ アンディ アリス
ミネルバ王国
ミネルバ・ソフィア・ボア国王
鍛治師、錬成師
アルス
討伐成功の報告と報酬を受け取るため、ジェシカたちは冒険者ギルドへ向かった。
扉に手をかけた、その時──
中から、男たちの騒がしい声が響いてくる。
「な、なんか……中、すごく騒がしいね……」
「うふふ。本来のギルドは、こんなものよ」
「そ、そうなんだ……よし、入るね!」
ジェシカは意を決し、扉を開いた。
──瞬間。
中にいた冒険者たち、そして国民の男たちの視線が、
一斉にジェシカたちへ突き刺さる。
「え……な、何ですか……」
思わず漏れた声。
だがジェシカはもう逃げる事なく両足にしっかり力を入れ立つ。
次の瞬間、アンディとグラフが無言で前に出て、ジェシカを背に庇った。
張り詰める空気。
だがアリスだけは気にした様子もなく、受付へ歩み寄る。
「この前の依頼の件だけど──
討伐達成の報告は、もう届いているはずよね?」
依頼書を差し出す。
「こ、これは……まさか、あなた方が……!?」
「ええ、そういう事になるわね」
「少々お待ちください!」
職員は慌てて奥へ消え、
ほどなくして一人の男が現れた。
「挨拶が遅れてすまない。
俺はこのミネルバ王国支部のギルドマスターだ」
「報酬の受け取りと、詳細を聞かせてほしい。
──奥の部屋でいいか?」
アリスは小さく頷き、
四人は無言のまま奥の部屋へ移動した。
────。
ソファに腰を下ろす四人。
出された紅茶に口をつけた、その時。
扉が開き、ギルドマスターが入ってくる。
その背後には、聞き耳を立てる気配があった。
マスターは何も言わず向かいに座り、札束を、机に置いた。
「受け取ってくれ」
「ええ。アンディ、お願い」
「あー?なんで俺なんだよ……」
「いいじゃない。うふふ」
軽口が交わされた直後、マスターの表情が鋭く変わる。
「それで、お前たちは──」
その瞬間。
アリスが指を鳴らした。
──パチン。
空気が閉じる。
外の喧騒は完全に遮断された。
「こ、これは……結界か……!?」
驚愕するマスター。
ジェシカは少し得意げに笑う。
「あー!これってアレだよね!」
「うふふ、そう。アレよ」
「……これだけで十分だ」
マスターは息を吐いた。
「それに──そこの二人。
クロスリーパー、だろ?」
ジェシカが声を上げかけるが、
グラフが静かに肩を押さえて制した。
沈黙。
やがてグラフが口を開く。
「……出雲の国へ行く方法を知りたい」
「出雲だと?」
マスターは眉をひそめる。
「あそこはどの国とも国交を持たない。
いわゆる──"鎖国状態"だ」
「つまり?」
「行く事は不可能、って意味だ」
四人の間に、重い沈黙が落ちる。
だが──
「……もっとも。
方法が無いわけじゃないがな」
「だったら最初からそう言ってよ!!オジサン!!」
「お、オジサン……だと……」
思わぬジェシカの言葉に、三人が肩を震わせ笑いを堪えている。
「……分かった分かった。教えてやる」
マスターは咳払いし、続けた。
「"国の代表として船で渡るんだ"」
「お前たちは既に、
ソフィア様直々の依頼を受ける唯一の冒険者として認知されている。
それを使えば、出雲へ入れる可能性がある」
「……なるほど」
目的は見えた。
四人は席を立ち、部屋を出ようとする。
その時──
「待ってくれ」
振り返るアンディ。
「話は?」
「……出雲へ行くなら、
俺から一つ依頼を受けてくれないか」
「内容次第だ」
マスターは静かに言った。
「出雲に──俺の息子がいる。
そいつを、呼び戻してほしい」
「名前は?」
「クロード。
奴は出雲の国にしかないと言われている"刀"に魅せられて、帰ってこない」
「今ようやく国が立ち直り、
冒険者も戻ってきた。
なのに武具を作る職人がいない──笑えないだろ」
沈黙の後。
アンディが、口角を上げた。
「……いいだろう。
その依頼、俺個人で受ける」
「本当か……!」
「ただし条件がある」
「何だ?」
「──それは、連れて帰ってから話す」
「……分かった」
「交渉成立、だな」
アンディは踵を返す。
アリスが再び指を鳴らした。
閉ざされていた空間が解け、
喧騒が一気に戻る。
──そして。
ジェシカたちは、
出雲へ向かう運命を胸に、ギルドを後にした。




