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クロスリーパー  作者: ルーツ
第三章 未開の地、出雲の国

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1.密度と想い

登場人物

『ディヴァインリーパー』

ジェシカ グラフ アンディ アリス


ミネルバ王国         

ミネルバ・ソフィア・ボア国王  


鍛治師、錬成師

アルス

ソフィアとの謁見を終えたジェシカ達は、アルスの工房へと足を向けていた。


歩きながら、アンディが低い声でジェシカに言う。


「いいかジェシカ」

「先に俺がアルスに話をする。お前は、何も言うな」


「う、うん……分かった」


工房の前に辿り着き、アンディが扉を開けた。


「よー!」

「やっぱ来たか」


中から聞こえたのは、いつもの軽い調子の声だった。


「ジェシカ。ちょっとこっち来て見せてくれ」


アルスはそう言って、右手を差し出した。


「……え?」


思わずジェシカはアンディの方を見る。

アンディはアルスを見つめ、ゆっくりと目を細めた。


「……何故、分かった?」


「あー? そんなの分かるに決まってるだろ」

「俺も一応、鍛冶の端くれだぜ?」


アルスは肩をすくめる。


確かに──

アルスはかつてヴェインのダークマターを扱い、

 今ジェシカが背負っているロングソードを打った張本人だった。


 アンディは一瞬考え、ジェシカの目を見て無言で頷く。

ジェシカもまた、小さく頷き返した。


ポケットから取り出したのは、

魅惑のアリュールから抽出したダークマター。


 ジェシカはそれを、アルスの差し出した右手にそっと乗せた。


「……ん?」


アルスの眉が動く。


「何だ、これ?」


「え……?」

「だって、渡せって……」


──!!


次の瞬間、アルスの顔色が変わった。


「……っ!?」


 禍々しい気配に、思わず落としそうになり、慌てて手を引き寄せる。


「ま、待て……」

「な、何だよ……これ……」


「おい、気をつけろ」


アンディが低く声をかける。


「それを見失ったりしたら、洒落にならんぞ」


「……お前ら……」

「これ見て、何も感じないのかよ……」


 アルスは信じられないものを見る目でジェシカ以外の三人を見回した。


 その様子を見て、アリスが口元を押さえ、不敵に笑いながら一歩前に出る。


「うふふ……」

「私達も最初は、同じ反応だったわよ?」


そう言って、アンディとグラフを見る。

二人は無言のまま、静かに頷いた。


「……っ」


 アルスは完全に腰が抜けたように、その場に座り込んだ。


「そ、それで……」

「なんでまた、ダークマターなんて持ってるんだよ……」

「しかも……前のとは比べ物にならねぇ……」


するとアンディが、怪訝そうにアルスへ問いかけた。


「何を言っている?」

「さっき、お前から手を出したじゃないか」


「……あのな」


アルスは深く溜め息をついた。


「俺が言ったのは“それ”じゃねぇ」

「ジェシカが背負ってる、そのロングソードの事だ」


「多分、かなりの数の死者を葬ってきてるだろ?」

「だから、様子を見てやろうと思っただけだ」


その言葉に、アンディは目を丸くした。


「……そういう事か」


近くでそのやり取りを見ていたグラフが、肩を震わせて笑う。


「くっくっ……」

「お前たちのやり取りは、もういいだろ」


そして、ジェシカを見る。


「……ジェシカ」


「ん?」


「アルスに、見てもらえ」


「あ、うん」


ジェシカは背中から二本のロングソードを抜き、

アルスの近くにあった作業台の上にそっと置いた。


その後、アルスの手から血の結晶──ダークマターを受け取り、再びポケットへしまう。


アルスは無言で、

二振りの剣を見つめていた。


────。


アルスは、作業台に置かれた二本の剣を、じっと真剣な眼差しで見つめていた。


「……ジェシカ」


低く、慎重な声。


「この剣な」

「憑代が“血”に耐え続けるのは、このままだと難しいかもしれない」


「……え?」


ジェシカの声がかすれる。


「だって……」

「アルスの錬成と、アンディの鍛治で……大丈夫だって……」


「ああ、確かに俺はそう言った」


アルスは一度、深く息を吐いた。


「だがな。これはあくまで俺の推測だが──」

「問題は、この憑代に使っている“鉄の密度”だと思う」


「……密度?」


「ああ」


アルスは剣の側面を指でなぞる。


「一見、同じように見える武器でもな」

「鉄の密度次第で、強度も耐久もまるで違ってくる」


「この剣は、かなりの高密度だ」

「それは、俺が見てもはっきり分かる」


一瞬、間を置いて。


「……だが、それでも」

「お前がやろうとしている“先”には、耐えきれない」


「……そんな……」


ジェシカは思わずグラフの方を向いた。

 だがグラフも、帽子の鍔に指をかけたまま、どうする事もできない様子だった。


重苦しい沈黙が落ちる。


──その空気を、唐突に打ち破ったのはアルスだった。


「……ははっ!」


「な、なんだよその空気!」

「重すぎだろ!」


「だって……これからって時に……」


「確かにな!」


アルスは豪快に笑う。


「だがな!」

「諦めるのは、まだ早ぇぞ?」


含みのあるその言葉に、四人の視線が一斉に集まる。


アルスは窓際へ歩き、壁に掛けられている、

 見るからに細く、今にも折れそうな武器を手に取った。


そして、それを持ったままジェシカの前へ戻り、鞘ごと差し出す。


「……なに、これ……?」


アルスはニヤリと笑った。


「これが答えだ」


彼はゆっくりと鞘を外し、刃を見せる。


「極東の海に囲まれた国──"出雲の国”」

「そこで打たれている、“出雲刀いずもとう”だ」


テーブルの上に置かれた出雲刀。

薄く、しなやかで、ロングソードとは正反対の姿だった。


「一見すると、すぐ折れそうに見えるだろ?」


「……うん」

「これで、死者を斬れるのかなって……」


「へへっ」


アルスは、どこか誇らしげに笑う。


「確かに、下手な奴が扱えば一瞬で折れる」

「だがな──」


彼は、刀の刃を軽く叩いた。


「逆に言えばだ」

「“扱い方さえ分かれば”、何でも斬れる」


自信に満ちた表情。


テーブルの上には、

ひと振りの出雲刀。

二本のロングソード。


相反する思想を持つ武器が並んでいた。


そして──

これらをどう融合させるか、

アルスとジェシカ達の、本当の話し合いが始まろうとしていた。











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