20.王政と覚悟
登場人物
ディヴァインリーパー
ジェシカ グラフ アンディ アリス
ミネルバ王国
第二王女ソフィア 第一王女フェミル(現国王)
アリュールの討伐を終えたジェシカは、身体解放したまま上空へと舞い上がり、周囲を見渡した。
夜風を裂くように視線を走らせると、少し離れた場所で三人の姿を捉える。
──グラフ、アンディ、アリス。
残党となった死者達を相手に、息の合った連携で次々と斬り伏せていた。
「グラフ!アンディ!アリス!」
ジェシカの声に、三人が一斉に顔を上げる。
その瞬間──
雲一つない夜空と三日月を背に、ジェシカは金色に輝く大鎌を天に掲げ、満面の笑みを見せた。
「……ふっ、やりやがったのか」
「そうみたいだな」
「うふふ……さすがジェシカだわ」
三人は短く言葉を交わすと、再び死者達へと向き直り、武器を構えた。
そこへ地上へ降り立ったジェシカは、身体解放を解き、背からロングソードを抜く。
「私もやるよ!!」
だが、その前にグラフが一歩踏み出した。
「……お前は十分だ」
「え……グラフ?」
深く被った帽子の奥から、ジェシカを見据え、口元をニヤリと歪める。
「ここは“俺”がやる」
「……えへへ、分かった!後はグラフに任せた!」
するとアンディとアリスも構えを解き、ジェシカの傍らに腰を落とした。
「お、おい……お前たちまで」
「うふふ。だって、ジェシカがグラフに任せたんですもの」
「ああ。後は頼むぞ、グラフ」
「くっくっくっ……仕方ねぇな!三人とも、そこで大人しく見てろ」
そう言うとグラフは、両手斧を振り回しながら死者の群れへと突っ込んで行った。
──まるで嵐のように。
その様子を眺めながら、アンディがジェシカの方へ視線を向ける。
「……それで、大丈夫だったのか?ジェシカ」
「え? あ、うん。強かったけど……スカーレットローズと全力解放で、何とかなった感じかな」
アンディは何も言わず立ち上がり、ジェシカの頭にそっと手を置いた。
「……よくやった」
「うふふ。もう誰よりも強くて、立派なクロスリーパーね」
「ありがとう、アンディ。アリス」
三人は自然と笑みを交わし、その場には穏やかな空気が流れていた。
────。
「おいおい……俺の事、忘れてねぇか?」
返り血を浴び、肩で息をしながらグラフが戻って来る。
「あはは!グラフこわーい」
その一言に、アンディとアリスも思わず笑った。
「……良い気なもんだぜ。とりあえず、片っ端から片付けてきた」
グラフは帽子を被り直す。
「後は……ミネルバ王国がどうなったか、だな」
「ああ。アルス達の事だ、上手くやっているだろう」
「夜明けも近いわ。明るくなれば、ここにも探索隊が来るでしょうね」
三人は並んで立ち、ミネルバ王国の方角を見据えた。
その背中へ──
ジェシカはアンディに頬を寄せ、グラフとアリスを挟むように、ぎゅっと抱きついた。
「えへへ……みんなで帰ろう!!」
夜明け前の静けさの中、
四人は確かに“生きて帰る”未来を見ていた。
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ジェシカ達が魅惑のアリュール討伐へと向かうその裏で──
ソフィアとアルスは、夜明けと共に動き出していた。
二人はフェミル国王の元へ向かうべく、城内の長い廊下を進んでいた。
その少し後ろには、ソフィアの声に呼応し、この機を逃すまいと集結した大勢の男達が続いている。
行く手を阻むように、女の警備兵達が立ちはだかる。
だが、数と力の差は明らかだった。
必死に抵抗するも、次々と取り押さえられ、床に押さえつけられていく。
その光景に、ソフィアは足を止め、拘束された女兵士へと静かに振り返った。
「私達は、貴女達の敵ではありません」
「どうかここは大人しく降伏してください」
そして、周囲の男達へと視線を向ける。
「──彼女達に、怪我を負わせないでくださいね」
その言葉に、男達は無言で頷いた。
やがてソフィアとアルスは、国王の寝室の前へ辿り着く。
扉の前で足を止め、アルスが静かに手をかけ、ゆっくりと開いた。
そこには、現国王ミネルバ・フェミル・オルグイが、化粧台の前に座っていた。
ソフィアは一人、フェミルの前へと歩み出る。
アルスと男達は扉付近で控え、事の成り行きを見守っていた。
ソフィアは微笑を浮かべ、静かに口を開く。
「こんな朝早くから失礼いたしますわ、国王様」
「……」
フェミルは無言のまま、鋭い視線でソフィアを睨み返す。
「ふふ……そうですわね。これは反逆行為」
「ならば、遠慮はいりませんわね」
ソフィアは一歩踏み込み、声を張り上げた。
「ミネルバ・フェミル・オルグイ!」
「貴女を王座から引き摺り下ろし、この悪政を──今日で終わらせます!」
その宣言を合図に、アルスが腰の剣を抜き、天へと掲げた。
「行け!!フェミルを捕らえろ!!」
男達が一斉に動き出す。
しかしフェミルは、怒号を上げてそれを制した。
「無礼者め!我を誰と心得て、この部屋に踏み入ったか!!」
その威圧に、一瞬男達の足が止まる。
フェミルは近くに立つ近衛兵へと顔を向け、声を荒げた。
「何をしている!!」
「早く、この気味の悪い男共を排除しろ!!」
だが、その言葉に応じる者はいなかった……
ソフィアは静かに、しかしはっきりと近衛兵達へ語りかける。
「もう大丈夫です」
「この悪政は終わります」
「貴女達を“道具”ではなく、“女性”として扱う王政を、私が必ず築きます」
その一言は、彼女達の心の奥深くを突いた。
女兵士の一人が、武器を取り落とし、膝から崩れ落ちる。
それを皮切りに、誰一人としてフェミルに従おうとする者はいなくなった。
「な、何をしている!!」
「私を護れ!それがお前達の役目だろう!!」
もはや、その叫びに応える者はない。
ソフィアは、哀れむような眼差しでフェミルを見つめた。
「もう、貴女の言葉に従う者はいません」
「せめてもの情けとして、離れにある塔へ移送いたします」
元警備兵だった男達がフェミルに近づき、両腕を掴み、後ろへと回して拘束する。
「さ、触るな!!」
「汚らわしい男共が!高貴な女に触れるなど許されるとでも思っているのか!!」
叫びながら、フェミルは寝室から連れ出されていく。
その姿を、ソフィアは冷ややかな目で見送った。
そして、城内に響き渡る声で宣言する。
「これよりミネルバ王国は」
「このミネルバ・ソフィア・ヴォアの元、王政を正し、国民の為の政を行います!」
その場にいた者達は一斉に片膝を着き、頭を垂れた。
「フェミルの悪政を白日の下に晒し、刑の執行まで監禁を命じます」
ソフィアは一度、深く息を吸い、続ける。
「この事を、王国の民全てに伝えなさい」
「本日をもって“男女均等化”は廃止」
「互いを思いやり、調和を愛し、平和を尊ぶ──」
「先王が望んだ国を、今度こそ築き上げます」
その言葉に、人々は涙を浮かべ、拳を掲げた。
少し離れた場所で、その光景を見守っていたアルスへ、ソフィアは静かに顔を向け、優しく微笑んだ。
──こうして、ミネルバ王国に新たな夜明けが訪れた。
────。
ミネルバ王国で何が起きていたのかを知る由もなく、
ジェシカ達は別宅へ向けて歩いていた。
やがて視界の先に王国が見え始めると、遠くから──
まるで空気を震わせるような、歓喜の声が届いてきた。
「ねえ!みんな!」
「街の方から、声が聞こえてくるよ!」
ジェシカの声に、アンディは王国の方を向いて笑う。
その隣で、アンディの腕にそっと腕を絡め、同じく微笑むアリス。
そして少し後ろを、グラフが静かに歩いていた。
──その時。
「……少しいいか」
グラフは足を止め、三人に声をかけた。
「ん?どうしたの、グラフ」
ジェシカが振り返ると、
グラフはジェシカの前に立ち、帽子を脱ぎ──片膝を着いた。
「え……? な、なに……?」
戸惑うジェシカの前で、グラフは真っ直ぐに頭を下げる。
「この命を、お前に捧げる」
「これは忠誠ではない。俺自身の“覚悟”だ」
「……受け取ってくれ」
その姿を見たアンディとアリスも、無言で前に出て、ジェシカの前に片膝を着いた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「三人とも、急にどうしたの……!」
慌てるジェシカに、アリスが柔らかく微笑みかける。
「もう、ジェシカは私達──ディヴァインリーパーの“顔”なの」
「だから私達は、あなたの元に集った者として、誓いを立てるのよ」
「で、でも……どうして、こんな改まって……」
「大切なことだからよ」
アリスは静かに言葉を続ける。
「私達の覚悟を、受け止めてもらえないかしら?」
朝日が昇り始めた丘の上で、
三人は頭を垂れ、ただ静かに待っていた。
少しの沈黙の後──
ジェシカは三人の肩にそっと手を置き、丘の先へ数歩進む。
そして、振り返った。
「……うん、分かった」
朝日に照らされながら、ジェシカは満面の笑みを浮かべる。
「三人の覚悟、ちゃんと受け止める」
「これからもよろしくね!」
その言葉に、三人は顔を上げ、同じように笑った。
こうして──
ジェシカ、グラフ、アンディ、アリス。
四人のディヴァインリーパーは、
朝日に包まれたミネルバ王国へと、笑顔で帰路についた。




