表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスリーパー  作者: ルーツ
第二章 新たなる旅立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/41

19.決着。

登場人物


ディヴァインリーパー

ジェシカ グラフ アンディ アリス


ミネルバ王国         

第二王女ソフィア  第一王女フェミル(現国王)


覚醒死者      

魅惑のアリュール  

 割れた地面の奥から、赤黒い気配を纏いながらアリュールが姿を現した。

 瓦礫を踏みしめ、ジェシカの前までゆっくりと歩み寄り、一定の距離で足を止める。


「ほぉ……お前達、なかなかやるな。四人とも息絶えさせるとは……」


肩を小刻みに震わせ、喉の奥で笑う。


「くっくっ……それで、次は私という訳か。実に──面白い」


アリュールは顔を上げ、ジェシカと目を合わせた。


「──っ!」


全身が強張る。


「くっ……な、何で!? 身体が……動かない……!」


「ほお……耐え凌ぐか」


愉しげに目を細めるアリュール。


「私と目を合わせれば、普通は即座に傀儡になる。だが、お前は耐えた……」

「それが何を意味するか、分かるか?」


一歩、また一歩と距離を詰める。


「……くっくっ。実に、実に面白い奴だ」


 ジェシカは必死に身体を動かそうとするが、意識とは裏腹に指一本動かない。

 アリュールはすぐ目の前まで来ると、指先でジェシカの顎に触れ、無理矢理顔を上げさせた。


(まずい……これ以上、目を見たら……!)


隠していた切り札。

だが、使わなければ──死ぬ。


「……っ!」


ジェシカは歯を食いしばり、身体解放を発動。

 拘束を強引に振りほどき、後方へ跳躍して距離を取った。


「……やはり、そうか」


アリュールは満足そうに頷く。


「お前、クロスリーパーだな。くっくっ……懐かしい」

「随分と久しぶりに見る」


次の瞬間──

アリュール自身も、身体解放を行った。


「……え?」


 赤いオーラが全身を包み込み、髪が意思を持つかのように揺れる。

 その姿を見た瞬間、ジェシカの脳裏にアンディの言葉が蘇った。


(血の使い過ぎ……身体解放を過剰に行えば、悪魔に変貌する……)


「まさか……自ら、なの……?」


「くっくく……そういう事だ」


アリュールは恍惚とした表情を浮かべる。


「お前も分かるだろう? 身体解放をすると、感情が昂る」

「“抱かれる事よりも”気持ち良く、何とも言えない感覚に包まれる……」


ジェシカの背筋に寒気が走る。


「私は、ある時気付いたのだよ」

「解放を抑える事ではない……解放し続ける事こそが、最高なのだと!!」


「……何を言っているの」


ジェシカは吐き捨てるように言った。


「理解できない。お前は……何を言っているの……!」


「くっくく……」


アリュールは首を傾げ、哀れむような視線を向ける。


「人に愛される事の意味を知る……それが憎しみへと……」

「まだ未熟なお前には、私の境地など分かるまい」

「まぁいい……」


赤いオーラが一段と濃くなる。


「お前は此処で死ぬ運命だ」


「──ブラッディローズ」


アリュールがそう口にした瞬間。

血の花弁は舞わなかった。


血が滲み、咲き、形を成すはずの過程もない。

 ただ──シュッと乾いた音と共に、右手に赤黒い剣が現れただけだった。


(……?)


ジェシカの胸に、微かな引っ掛かりが走る。


(……違う)


無意識に、言葉が零れ落ちた。


「……偽物」


その一言で、空気が凍りついた。


「……何、だと?」


アリュールの表情が、明らかに歪む。


「今……何と言った……?」


ジェシカは視線を逸らさない。

 アリュールの“目”を真正面から射抜き、はっきりと言い切った。


「お前のそれは──偽物だ」


次の瞬間。


 地面が爆ぜるように崩れ、アリュールが一気に距離を詰めてきた。

 殺意を剥き出しにした斬撃が、一直線に振り下ろされる。


……だが。


身体解放状態のジェシカの目には、すべてが“見えていた”。


 背から二振りのロングソードを引き抜き、紙一重で回避。

剣閃が空を裂く。


「──ッ!! お前ぇぇ!!」


先程までの余裕は消え失せ、

 アリュールの顔には、剥き出しの敵意が張り付いていた。


距離を取り、剣先を下げる。

円を描くように刃を回した瞬間──


虚空から、無数の剣が現れた。


「……!」


ジェシカは身構える。


次の瞬間、

 アリュールが剣を振り上げると同時に、複数の剣が一斉に襲いかかってきた。


一本、また一本。

息をつく間もなく続く連撃。


捌き、避け、凌ぐ──

だが、数が違う。圧が違う。


(……このままじゃ、捌き切れない)


ジェシカは一瞬で判断した。


 背のロングソードを納め、静かに──しかし確かに、口を開く。


「……ブラッディローズ」


次の瞬間。


血の薔薇が、ふわりと舞った。


甘美で、残酷で、圧倒的な存在感。

 血の花弁が空間を支配し、ジェシカの手には──真紅の剣が握られていた。


迫り来る剣を、たった一閃。


すべてが斬り払われ、灰と化して消える。


「──これが」


ジェシカは剣を構え、静かに告げる。


「ブラッディローズだよ」


血の花弁が舞い、

真紅の剣を携えたジェシカが、そこに立っていた。


美しく──そして、圧倒的に“本物”。


それを見た瞬間、

 アリュールの顔は、敵意と嫉妬が混ざり合った醜い表情へと歪んだ。


言葉にならない叫びを上げ、獣のように突進する。


さすがは、四代厄災の一人。

一撃一撃の威力は、これまでとは桁が違う。


──だが。


ジェシカは、すべてを受け止め、押し返していた。


力でも、技でも、意志でも。完全に──圧倒していた。


「クソ虫がぁぁぁぁあああ!!」


血走った目。

裂けた口。

逆立つ髪。


 怒髪天を突くアリュールは、咆哮と共に空高く跳び上がり──

夜空に、浮かび上がった。


────。


「はぁ……はぁ……これで……終わりだ……!」


雲一つない星空。

凍るように澄んだ夜気。

三日月を背負い、アリュールは両腕を天へ掲げる。


次の瞬間。


両手から、赤黒い血が滝のように溢れ出し、

空中でうねり、絡まり、圧縮され──


巨大な血の大剣へと姿を変えた。


常識外れの質量。

禍々しい圧。


──だが。


その瞬間こそが、最大の隙だった。


ジェシカの瞳が鋭く光る。

アリスから教わった“融合アルカナ”。


「ブラッディストライク!!」


血の斬撃が、空を裂いた。


飛翔する血の刃。

見たこともない軌道、理解不能な威力。


アリュールは一瞬、怯んだ。

その一瞬で、十分だった。


ズン、と鈍い音。


左腕が、宙を舞った。


「──ッ!?」


切断された腕から、血が噴き上がる。

だが、既に遅い。


アリュールの右手には、完成した血の大剣。

この一撃で、すべてを終わらせる覚悟。


「くっ……くっくっ……」


理性は消え失せ、残っているのは歪んだ執念だけ。


「これで……お前は終わりだよ……」

「死ねぇぇぇぇ!!」


絶叫と共に、血の大剣を振り下ろそうとする──


その時。


ジェシカは、剣を構えなかった。


ただ、静かに── 目を、閉じた。


「スカーレットローズ」


───


音が消え、世界が、止まった。


次の瞬間。


アリュールの身体は──真っ二つに裂けた。


右腕は粉砕され、

血の大剣は形を保てず、ただの血液へと崩れ落ちる。


引き裂かれた二つの身体は、

夜空から──無力に、地へ落下していった。


その瞬間──


アリュールの瞳に映ったのは……


黄金に輝く鎌を手に。

青白く揺れる髪。

紅く輝く瞳。

背に広がる、真紅の羽根。


あまりにも美しく、

あまりにも残酷で、

あまりにも──神に近い存在。


初代マリアを彷彿とさせる、

“死を司る者”の姿をしたジェシカだった。


「……そ、そう言う……事だったのか……」


その言葉を最後に。


魅惑のアリュールは──

        静かに、息絶えた。


夜風だけが、静かに吹いていた。

戦いの痕跡は、もうどこにもない。

ただ一人、三日月を背にジェシカは空を舞っていた……。



「……ふぅ」


静かに息を吐き、ジェシカは肩の力を抜いた。


「久しぶりのスカーレットローズに、全力解放……」

「ちょっと、無茶しすぎたかな……でも」


足元には、完全に息絶えた

魅惑のアリュールの亡骸。


 その禍々しさはもう失われ、ただの屍として横たわっていた。


「……グラフのおかげ、だよね」


 そう呟きながら、ジェシカは膝をつき、アリュールの血に手をかざす。


分解アルカナ。


血はその場で形を失い、

濁った闇を孕んだ雫へと変質していく。


"四代厄災のダークマター"(悪魔の雫)。


強大な存在が完全に滅びた証。


「……よし」


掌の中で揺れるそれを見つめ、ジェシカは小さく笑った。


「これをアルスさんに渡せば……」

「また、進化してくれるんだよね」


剣の未来。

そして、自分自身の未来。


それらを静かに思い描きながら、ジェシカは立ち上がった。


こうして──


ミネルバ王国より下された討伐依頼

    **『魅惑のアリュール討伐』**は、


完全勝利という形で、幕を閉した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ