16.知力と慢心
登場人物
ディヴァインリーパー
ジェシカ グラフ アンディ アリス
ミネルバ王国
第二王女ソフィア 第一王女フェミル(現国王)
覚醒死者
魅惑のアリュール
奥の闇から、一人の女が現れた。
上半身は裸同然。
腰には、引き裂かれたようなボロボロのスカート。
素足のまま、血の海となった床を──ピチャ、ピチャと音を立てて歩いてくる。
右手にはロングソード。
顔は、長い黒髪に覆われ、その表情は見えない。
女は、ジェシカ、グラフ、アンディ、アリスの方を向き、低く問いかけた。
「……お前達が、クロスリーパーか……?」
外見とは裏腹に、芯の通った落ち着いた声だった。
アンディが一歩、前に出る。
「ここは俺が殺る。
お前達は、作戦通りに動け」
その背中を見て、アリスも前へ出た。
「ダメよ。
“アレ”は覚醒してから、長い年月を生きているわ」
「ああ……だが今の俺なら、無茶ができる」
「ふふ……そうだったわね──」
アリスはアンディの隣に並び、ちらりとジェシカを見て微笑んだ。
「二人は先に行きなさい。
ここは、私達で何とかするわ」
その言葉に、グラフは何も言わず帽子を深く被る。
ジェシカの腕を掴み、次の瞬間──二人の姿は、その場から消えていた。
「悪いな、アリス。
だが……こいつだけは放っておけない」
「うふふ……そんなに肩に力を入れなくていいわ。
これから、私達の“恐ろしさ”を教えてあげるのだから」
自信に満ちた微笑みを浮かべるアリスを、アンディは横目で見る。
「……何か策があるのか?」
問いかけに、アリスは答えず、静かに天球儀を取り出した。
それは彼女の手元でふわりと浮かび、淡く光を放つ。
「私にできるのは、貴方の支援と……相手の力を阻害することよ」
「なるほどな……なら、こっちから行くぜ!」
アンディは身体解放。
血を媒介に“ブラッディローズ”を発動し、槍を作り出す。
一気に距離を詰めた。
だが覚醒者は、避けようともしない。
ロングソードを正面に構え、真正面からアンディの突きを受け止めた。
互いの顔が至近距離で睨み合う。
力と力の拮抗。
次の瞬間──
覚醒者が、ふっと力を抜いた。
アンディの槍が空を切り、
覚醒者の身体は地面から浮くように後方へ飛ばされ、瓦礫に激突する。
砂埃が舞い上がる。
──だが、アンディは追わなかった。
何かが来る。
そう読んで、その場で構えを保つ。
目を凝らし、瓦礫の山を見る。
……姿が、ない。
だが、一瞬だけ、砂埃が左へ揺れた。
嫌な予感が走る……
アンディの目が追いついた、その時。
覚醒者はすでに、アリスの背後に立っていた。
ロングソードを大きく振りかざしている。
「アリス、後ろだ!!」
──距離がある。
今からでは、間に合わない。
アンディの脳裏に、最悪の結末がよぎる。
──万事休す。
だが。
アリスは、振り返らない。恐怖も、焦りもない。
ただ、アンディを見つめて、静かに、微笑んでいた。
「アリス!!」
次の瞬間。
──!?
「うふふ……私は大丈夫よ」
アンディは、何が起きたのか理解できず、ただ目を見開いていた。
それは覚醒者も同じだった。
いつの間にか、アリスはアンディと背中合わせの位置に立っている。
「だ……大丈夫なのか……?」
「ええ。
さっき斬られた“私”は、私が作り出した幻影よ」
アリスは穏やかに微笑む。
「そして最初から……
私は、あの場所には居なかったわ」
「な、何だと……!?」
覚醒者は一瞬動きを止め、ロングソードを地面に突き刺したまま、伏せていた顔をゆっくりと上げる。
その視線が、真っ直ぐ二人を捉えた。
「あははは……!
面白い……実に面白い!」
歪んだ笑みを浮かべ、名乗る。
「私は、アリュール様の次席──
アリシア」
アンディとアリスは一瞬だけ視線を交わした。
「……まさか、ここまでの相手とはな」
「そうね。でも、
ある意味、良かったのかもしれないわ」
「どういう意味だ?」
アリスは一歩、前に出る。
「私の名前はアリス。
そして私達の目的は、“魅惑のアリュール”の討伐よ」
「“次席”とは、どういう立場なのかしら?」
「よかったら……教えてもらえない?」
アリシアは答えず、地面に刺さったロングソードを引き抜き、切先をアリスへ向けた。
「……私に勝てたら、教えてやる」
「うふふ……
それでは、何も聞けないのじゃなくて?」
「……あはははは!!」
その笑いと同時に、アリシアの姿が消えた。
次の瞬間、アリスの喉元に、冷たい切先が突きつけられていた。
アリスは、動かない。
いや──動けない。
「アリスだったか……
お前に、私を止める術があるのか?」
「…………」
アリスは無言のまま、アリシアを睨み返す。
「……惜しいな。
面白い女だとは思ったが」
アリシアは、迷いなく切先をアリスの喉へ突き刺し、引き抜いた。
血が噴き出し、
涙が零れ、
口から血を吐きながら、アリスは崩れ落ちる……
その血を全身に浴びたアリシアは、どこか残念そうな表情でアンディを見た。
そして同じように、切先をアンディに向けた。
だが、その時だった。
──!!
「……な、何だ……これは……」
ロングソードが、腐食していく。
錆びるのではない。
溶けている。
同時に、アリシア自身の身体も──
浴びた返り血の部分から、皮膚と髪が溶け始めていた。
「な……何をした!!
くそっ……このままだと……」
「うふふ……
私の血は、如何かしら?」
声と共に、アリスが、アンディの隣に立っていた。
「お……まえ……
これは……何だ……」
アリシアの左脚はすでに消え、
剣を握っていた右腕も、皮一枚で垂れ下がっている。
顔は赤く腫れ、熱を持ち、白い煙が立ち昇っていた。
「これは私の魔術の一つ──
《サルファリック・アシッド》で作った擬似血液よ」
「貴女……自分から名前を教えてくれたでしょう?」
「その瞬間に、分かったの。
相当、自分の力に自信があるってね」
「だから……
力で倒すのは難しいって、すぐ判断できたわ」
アリスはゆっくりと歩み寄り、
溶けかけたアリシアの顎に手を添え、顔を持ち上げる。
「ねえ……今、どんな気持ち?」
「クロスリーパーじゃなくて……
“サキュバス”の私に殺される、あ・な・たの気持ち──」
「教えて?」
「……ク、クソが!!」
アリシアは残る力を振り絞り、口を大きく開けて噛みつこうとした。
だがアンディの槍が、その口を貫き、壁へ突き立てた。
「あばよ」
「……ぐ……」
言葉を発する前に、
アンディの突きが、何度も、何度も叩き込まれる。
やがて、
アリシアは原型を失い、その場に崩れ落ち──完全に、息絶えた。
アンディは大きく息を吐き、アリスの方を向く。
緊張が切れたのか、身体がふらついていた。
血の海に、彼女を倒すわけにはいかない。
アンディはすぐに駆け寄り、アリスを抱きしめる。
「……助かった、アリス」
「うふふ……
今回は、作戦勝ちってところかしらね」
「ああ……」
アンディはアリスを抱きかかえ、崖の上へ移動し、しばしの休息を取った。
──だが。
覚醒者は、まだ二人残っている。
そして、本命──魅惑のアリュール。
夜は、まだ終わらない。
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