10.奇縁と清算
登場人物
主人公 賞金稼ぎ 鍛治職人
ジェシカ グラフ グレン アンディ
錬金術師 アストロロジー
アルス アリス
ミネルバ王国
第二王女ソフィア 第一王女フェミル(現国王)
覚醒死者
魅惑のアリュール
グラフはジェシカに教えてもらった場所を地図で確認しながら、ブラッディローズを使って移動していた。
移動中、グラフは少し躊躇していた。
「ああ……どうやってアンディと顔を合わせればいい……」
あれからかなりの時間が経過している。
あんな些細な過去の話を蒸し返すのも野暮だ──自分にそう言い聞かせた。
湖畔が視界に入る。グラフは周囲を見回すが、ジェシカが言っていた白い城のような建物は見当たらない。
「ったく、ジェシカめ……何も見当たらないじゃないか……」
しかし、その時、わずかに空間の歪みを感じたグラフは、咄嗟に身構える。
「ふふ、そんな身構えなくてもいいわよ?」
女の声と共に、空間が歪み、白い石で作られた建物が現れた。
そこには美しい女性と、少し後ろに立つアンディの姿がある。
思わずグラフは、女性より先にアンディに視線を向けてしまった。
「ふふ、私よりも貴方の方に興味があるのかしら?」
「アリス……ああ、わかる。あいつは俺と同じリーパーだ」
「ええ、そうでしょうね。それで貴方はここに何の用事があるの?」
グラフはアンディに向けて声を上げる。
「ジェシカの武器をお前に作ってほしい。できるか?」
「何!? ジェシカだと?お前、なんでジェシカを知っている」
「詳しく話すと長くなるが……ジェシカはここ2年以上、俺と共にいる」
「そしてこれから、あいつはとんでもない相手に挑むことになる」
「お前の力なしでは不可能なんだ。だから、アンディ……力を貸してほしい」
アンディはアリスの肩にそっと手を置いた。
「アリス、少し奴と話してくる。いいか?」
「ええ。でも私の占いでは吉報とは出ていないわ」
「分かった。少し離れる」
「グラフ、少しあっちで話そう」
グラフは無言で、指差された方へ歩いた。
────────。
微妙な空気の中、先に口を開いたのはアンディだった。
「なぜお前がジェシカと一緒にいる?まず、それを聞かせてくれ」
「……分かった」
グラフはジェシカとの出会いから、力を抑える修行、そして四大厄災の一角と戦う決意までを話した。
「な、なんだと!?お前はそれをジェシカに受けさせたのか?」
「ああ。しかしこれはジェシカの意思だ。俺は補助程度にしかならないが、手は貸す」
「次は錬金術師を見つけ、そして鍛治師も必要になる」
「たかが武器に命を注ぎ進化させるためだけに、ジェシカは魅惑のアリュールと戦わなければならない」
「だが無事に依頼が達成されれば、剣は更なる進化を遂げる」
「ハイリスク、ハイリターンだ……分かるか? ジェシカは本来の目的──ヘレティック殲滅のために動いているんだ」
「なるほど……お前の言い分はわかった」
「で、俺はどうすればいい?」
「ふっ、アンディ。お前は俺と一緒にミネルバ王国に行き、アルスの錬成したダークマターを使い、兄貴グレンが作った憑代に命を吹き込む」
「その後、どんな武器になるかは誰にも分からない。進化していくことだけは確かだ」
「何!? ダークマターだと……」
「そうだ。ジェシカは先代マリア様の忌子と呼ばれ、あの時お前たちは古代マリア様の生まれ変わりだと信じ引き取った」
「その時、お前が言った言葉に俺たちは何も返せなかった……だが今なら言える」
アンディはグラフの目をじっと見つめる。
「……そうか。だがジェシカもまた、身籠り子を産むと死ぬ運命だ。それだけは伝えられん」
アンディもまた、ジェシカを思う気持ちから後悔や伝えるべきことを話した。
二人の視線は、これからのジェシカの未来だけに向けられていた。
その時、後ろからアリスが静かに声をかけた。
「ふふ、二人は似た者同士ね。それにジェシカの運命はジェシカ自身が決めることでしょ」
二人は無言で頷く。
「そこで私から提案よ。アンディと一緒に、私もミネルバ王国に行く」
「そこで拠点を作りましょう」
アンディは驚いた。
「何!? お前まで行く必要はないだろ」
「いいえ、私の知識は今後の助けになる。ジェシカに話していないこともあるし、研究も進められるわ」
グラフは帽子を深く被り、笑った。
「ふっ、ふはは! まあ、それはそれで困らない。むしろ助かる」
アンディは覚悟を決めたように、微笑む。
「ああ……これからもジェシカの力になれるなら、俺も鍛えていかなくてはな」
「グラフ、俺たちも一緒に行く」
「ふっ、頼むぜ」
「ふふ、私のことも忘れないでよね」
アンディはアリスをそっと引き寄せ、肩に手を回す。
「俺たちのことに巻き込んでしまい悪いなアリス」
「ふふ、貴方とならどこにいても変わらないわ」
「ああ…」
こうして三人の覚悟が固まった。
必要な準備を終え、四日が経過した。
「待たせたな、グラフ。行こう」
「ふっ、いつまで待たせるつもりかと思ったぜ。だが、一気に行くぞ。平気か?」
「ああ、アリスは俺が背負う。しっかり掴まっておけ」
「ええ、大丈夫」
二人のやり取りを横目に、グラフはブラッディローズを使いミネルバ王国へ移動した。
アンディとアリスも後を追い、ミネルバ王国へと向かうのだった。
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ジェシカはアルスに掌や身体の筋肉を一日かけて触診され、これまでの経歴なども聞きながら錬成の準備を進めていた。
「よし、とりあえず今の状態のジェシカは記憶した」
「その大剣を、今の状態で持ってみてくれ」
ジェシカは憑代となる大剣を背中から手前に持ち上げようとしたが、思った以上に重く、腕が震える。
「アルスさん……ごめん。この状態じゃ持ち上げるのも難しいよ…」
アルスは少し考え込む。
「なるほどね。だとしたら、襲撃用の武器も必要になるし……今のジェシカにはこの大剣はちょっと無理もあるか」
「うん、やっぱりね。今の大剣は、ただの重い鉄にしかならないね」
「身体解放を使えば大剣でも問題なく扱えるだろうけど、普段から背負うのはやっぱり困る」
ジェシカは、アルスが自分を分析しながら試行錯誤してくれることに驚き、少し感心した様子で言う。
「アルスってすごいんだね!私のこと色々調べてくれてさ」
「はは、そりゃ当然だろ。依頼を受けてくれた以上、全力を出さないと割に合わないからな」
「確かに!あはは!」
その時、工房のドアを叩く音が聞こえ、勢いよくグラフが入ってきた。
さらにその後ろからアンディとアリスも入室する。
ジェシカは思わずアンディに駆け寄り、抱きついた。
「アンディー!!」
「ああ、ジェシカ。会いたかったぞ」
「うん!私もだよ!嬉しい!」
喜ぶ二人を見て、アリスも微笑みかける。
「ふふ、ジェシカ、久しぶりね」
「うん!アリスも会えて嬉しい!」
その様子を横目に、グラフはアルスに声をかける。
「これで全ての用意は整ったな」
「分かってる。方向性もある程度決まった」
「あとは鍛治師と話を詰めて、作成に取り掛かるだけだ」
「ふっ、そうか」
「ああ!任せとけ!」
「おい、すまんが、来て早々で悪い。だが俺の構想で作れるか意見を聞きたい」
アンディはジェシカを見つめ、真剣な眼差しで告げる。
「これから俺は、お前の憑代に命を吹き込む作業に入る。完成するまでは二人とも部屋で待機してくれ」
ジェシカは頷き、アンディの覚悟を理解したようだった。
「分かった、お願い、アンディ」
「ああ」
三人は工房を後にし、ドアを閉める。
こうして、アンディとアルスによる、ジェシカのための武器作りが始まろうとしていた。
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