8.交渉と戦略1
登場人物
主人公 賞金稼ぎ 鍛治職人 錬金術師
ジェシカ グラフ グレン アルス
ミネルバ王国 覚醒死者
ソフィア 魅惑のアリュール
ジェシカとグラフは、リーパー達の住む集落を後にし、南へと向かっていた。
足場はブラッディローズ。
花弁が宙に咲き、二人は高速で空を駆ける。
「ジェシカー! そろそろ歩くぞ!」
「え!? このまま一気に行かないの?」
「ああ。ミネルバ王国は国境警備が厳しい」
「空から侵入すれば即座に目を付けられるだろうな」
「そっか、分かった!」
高速移動のまま会話を続けていると、やがて遠くに巨大な国境線が見えてきた。
高く聳える防壁。
明らかに“国を守る”ためだけに築かれたものだ。
二人は地上へと降り、歩き出す。
「ねえグラフ」
「ミネルバ王国って、どうしてあんな大きな国境を作ってるの?」
「前にも話したな」
「ミネルバは四大厄災の一人、覚醒死者《魅惑のアリュール》との戦いの最前線だ」
「防壁は、その存在を食い止めるためのものだろう」
「……やっぱり大変な国なんだね」
「俺達の目的はアルスだ」
「お前の剣に命を吹き込む。それだけだ」
「王国の内情など関係ない、気にするな」
「う、うん」
ジェシカは小さく頷きながらも、
《魅惑のアリュール》という名だけは、胸の奥に刻んでおこうと思った。
────。
二人、国境の門をくぐろうとした、その時だった。
「待て、そこの男!」
背後から、女警備兵の声が飛ぶ。
「まさか……クロスリーパーか?」
グラフはゆっくりと振り返り、鋭い視線を向けた。
「……だったら何だ」
「俺達がミネルバに入る事に問題でもあるのか」
一瞬の沈黙。
「それに……お前、女だな」
警備兵は甲冑に身を包んだ女性だった。
「……」
互いに言葉を発さず、視線だけが交錯する。
「ねえグラフ、行こうよ」
「ああ……」
門を抜けながら、グラフは低く呟く。
「だが、何かがおかしい」
「え? 何で分かるの?」
「女が前線で甲冑を着て警備をする」
「普通じゃない」
「本来、警備のような危険な役目は男が担うものだ」
「あー……確かに」
「でも、きっと何か事情があるんじゃないかな?」
「まあ、そうだろうな」
「それが俺達の邪魔にならなければいいが」
少し重くなりかけた空気を、ジェシカがぱっと変える。
「それよりさ、グラフって人見知りでしょ!」
「なっ……何でそうなる」
「だってさっきの会話」
「初めて私と話した時と同じ感じだったし」
「でも今は、いつものグラフだもん」
「……」
「あはは、図星?」
「……悪いか」
「ううん」
「違う一面が見れたから、ちょっと嬉しかっただけ」
「……そうかよ」
「行くぞ」
「はーい!」
和やかな雰囲気のまま、二人は身体解放だけを用いて走り出す。
ミネルバ王国──その目前へと。
───────────────────────
ジェシカとグラフは、ミネルバ王国の全景を見渡せる場所に立っていた。
巨大な城壁。
湖に囲まれた国土。
その中心にそびえる王城は、まるで一つの巨大要塞のようだった。
「うわぁ……すごい……」
「王国って、ほんとにこんなに大きいんだね!」
人が行き交い、活気に満ちた街並み。
ジェシカにとって、これほど栄えた場所は初めてだった。
「そうだな」
「これが“不落”と呼ばれる理由だろうな……だが」
「? どうしたの?」
「……いや、詮索しても意味はない」
「とりあえず中に入るぞ」
「うん」
二人は正門をくぐり、場内警備兵の前を通って王国内へ足を踏み入れた。
やはり警備兵は、甲冑を身に着けた女性だった。
グラフは一瞬だけ視線を向け、そのまま歩を進める。
「まずは宿だ」
「それからアルスの情報を集める」
「うん」
街を歩き始めて、すぐに異変は確信へと変わった。
通りを行き交う兵士は多い。
だが──全員が女だった。
グラフは足を止め、周囲をゆっくりと見回す。
「……」
「ねえ、さっきから何がそんなに気になるの?」
「……いないんだ」
「え?」
「男がだ」
「俺の周りに……一人もいない」
ジェシカは息を呑み、改めて周囲を見渡した。
露店商も、通行人も、遊んでいる子どもですら──
確かに、全員が女だった。
「え……ほんとだ……」
「じゃあ……グラフ以外、全員女って事!?」
「なんでグラフだけ……?」
その瞬間だった。
気づけば二人の周囲を、多数の兵士が取り囲んでいた。
「……ちっ」
「グラフ、どうする?」
「ここで暴れる訳にはいかない」
「人は斬るなよ」
ジェシカは無言で頷いた。
すると、兵士達の中から一際位の高そうな者が一歩前に出た。
「お二人にお願いがあります」
「我々について来ていただきたい」
「悪いようにはしません」
グラフとジェシカは顔を見合わせ、緊張を解いた。
それを察したのか、兵士は背を向けて歩き出す。
二人は無言のまま、その後を追った。
────。
案内された先は、ミネルバ王城。
手入れの行き届いた庭園には、美しい花が咲き誇っていた。
ジェシカとグラフは椅子に座らされ、背後には兵士達が控えている。
「グラフ……何が起こるの……?」
「分からん」
「だが、良い事ではなさそうだな……」
「えぇ……」
不安そうに肩を落とすジェシカの耳に、柔らかな笑い声が届いた。
「うふふ……突然お呼び立てしてしまい、申し訳ありません」
二人は同時に振り返る。
「……っ!?」
「……気配を感じなかったな」
「あら、失礼いたしました」
水色を基調としたドレスを纏った女性が、優雅に一礼する。
「ソ、ソフィア様!」
「そのように頭を下げられては……!」
「なに……ソフィア、だと……?」
グラフは思わず声を漏らした。
「改めまして」
「私はミネルバ王国第二王女、ミネルバ・ソフィア・マニフィック」
「どうぞ“ソフィア”とお呼びください」
グラフは帽子を深く被り直す。
「……分かった」
ジェシカはくすっと笑い、明るく答える。
「うん、分かったよ。ソフィア!」
「ふふ、ありがとうございます」
「では、お二人のお名前を」
「私はジェシカ!」
「こっちがグラフ!」
「ちょっと人見知りだけど、気にしなくていいよ!」
「あら、そうでしたか」
帽子の奥から、グラフの鋭い視線がジェシカに突き刺さる。
ジェシカは慌てて姿勢を正した。
「……それで」
「なぜ俺達は、ここに呼ばれた」
「お気づきかとは思いますが……」
「今のミネルバ王国には、男がいません」
「理由は……ご存知でしょうか?」
「俺達は今日来たばかりだ、知る訳がない」
「それに……事情など、知りたくもない」
護衛の一人が声を荒げる。
「無礼だぞ!」
だがソフィアは静かに手を上げた。
「構いません」
「グラフ様のお言葉はもっともです」
「ですが……私達は“依頼”をしたいのです」
グラフは腕を組み、黙したまま。
ジェシカは一歩踏み出した。
「依頼って、何?」
「この依頼は……」
「クロスリーパーである、グラフ様に」
その瞬間、ジェシカが立ち上がろうとした肩を、グラフが掴む。
「しゃしゃり出るな、ジェシカ」
「でも……」
「ここは俺がやる」
「……うん」
「それで、依頼とは何だ?」
「詳しい話は、別室で」
「少々お待ちください」
ソフィアは微笑み、護衛と共に去って行った。
─────。
「ねえグラフ!」
「なんで私の事、言わなかったの!」
「……それでいい」
「意味分かんないよ」
「今のお前は、ただの一人の女として見られていた」
「それでいいんだ」
「あ……」
「これからは俺が話す」
「お前は隣で、対策を考えろ」
「うん! 任せて!」
「よし」
こうして二人は、
ミネルバ王国の“依頼”に向けて、静かに身構えるのだった。
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