7.未練と覚悟
登場人物
主人公 賞金稼ぎ 鍛治職人 錬金術師
ジェシカ グラフ グレン アルス
ミネルバ王国
ソフィア
ジェシカのためだけの武器を作るには、“憑代”となる基礎武器が必要だった。
その制作を、グラフの兄グレンが引き受けてくれている。
完成までの二、三日。
ジェシカとグラフは集落に滞在しながら、探し人であるアルスの行方や、ミネルバ王国の情勢について同族たちに聞いて回っていた。
「ねえ、グラフ。ミネルバ王国のこと、何か知ってる?」
「そうだな……詳しいわけじゃないが」
「あの国は覚醒死者との争いが絶えず、今も戦火の中にある」
「それと──先代の大王が三年ほど前に崩御してから、第一王女と第二王女の間で権力争いがあったらしい」
「うーん……」
「何だ、浮かない顔だな」
「いやさ、それ聞いたらさ……」
「もう情勢とか調べなくてもよくない? って思っちゃって」
「話聞いただけで頭痛くなってきたし、争い事に巻き込まれたくないじゃない?」
「……まあ、確かにな」
「でしょ!」
「だったらアルスさんの住んでた場所とか、見た目とか、そういう情報を聞いたほうが早いよ!」
「ああ。分かった」
────。
二人は集落の同族たちに声をかけ、アルスの情報を集めて回っていた。
だが……。
「……ねえ、グラフ」
「なんだ?」
「グラフって、この集落で何したの?」
「なんかさ……みんな、グラフのこと睨んでる気がするんだけど……」
「……そうだな」
「別に話す必要はないが、知りたいなら話す」
ジェシカの目が、好奇心でわずかに輝いたのを見て、グラフは帽子を深く被り直した。
「……ふっ」
「俺はな、リーパーとしてじゃなく、賞金稼ぎとしてこの集落を黙って出て行った」
「……」
「当時、俺には共に生きようとしていた同族がいた」
「だが俺は、そいつの想いよりも自分の鍛錬を優先した」
言葉を選ぶように、グラフは一度息を吐いた。
「ある日、死者共との戦いで限界以上の血を使い、俺は倒れた」
「指一本動かせず、渇きに支配され……」
「このまま死者として生きるしかないと、覚悟した」
「……」
「そんな俺を、そいつは探しに来た」
「深手を負いながら、死者の追手をかいくぐってな」
ジェシカは、何も言えなかった。
「……だが、見つけた時にはもう満身創痍だった」
「それでもあいつは、自分の命より俺を優先し、血を分けた」
「……」
「同族殺しは罪だ」
「俺は、その罪を背負って生きてる」
沈黙が落ちた。
「……ごめん、グラフ」
「気にするな」
「俺の話なんて、これくらいしかない」
そう言って、彼は話を切り替えた。
「それより、アルスの情報だ」
「……うん」
──────。
聞き込みの結果、いくつかの情報が集まった。
二人はそれを整理するため、グレンの家へ向かった。
「そういえば……」
「アンディたちと一緒にいた時、アリスさんから言われたことがあったけど……」
「まさかアルスさんが錬金術師だったなんてね」
「俺も詳しくは知らない」
「だが、アルスのアルカナが錬金術であること」
「そして、ソフィアがミネルバ王国第二王女だってことは確かだ」
「……やっぱり、厄介ごとだね」
「ああ」
「多分だが、グレンは最初から考えていたんだろう」
「自分が鍛冶を、アルスが錬金術を担う」
「この二人が揃わなきゃ、お前の武器は完成しない」
「……うん」
「つまり俺たちの目的は一つ」
「アルスを見つけ、ここへ連れてくる」
「それ以外のことは、どうでもいい」
「分かってるよ」
「よし」
「憑代の完成は明後日だ。それまで、少し休め」
そう言って、グラフは部屋を出て行った。
────。
グラフはそのまま集落を後にした。
ブラッディローズを足場に、一気に夜明け前の丘へと移動する。
そこには、石を積み上げただけの簡素な墓標がひとつ――
風に晒され、名も刻まれていない。
グラフは帽子を取り、墓前に立った。
誰もいない。
だからこそ、胸の奥にしまい込んでいた言葉が自然と溢れ出る。
「……ふっ」
「ここには、もう来るつもりはなかったんだがな」
丘を渡る風が、草を揺らす。
「お前を思い出すたび、胸が締め付けられる」
「だが……ようやく分かったぜ」
静かに、しかし確かな声音で続ける。
「お前が最後に言った言葉の意味がな」
一瞬、視線を落とし――再び前を向く。
「ああ。俺は決めた」
「この命は、マリア様のために使う」
「……それがお前に託された、俺の役目なんだろ」
風が強まる。
「もう迷わねぇ」
「次に会う時は――俺はお前の隣にいる」
帽子を胸に当て、短く息を吐いた。
「それまで、さらばだ……ルミ」
グラフは墓に背を向け、帽子を深く被り直す。
その背中には、もはや揺らぎはなかった。
*********
それから二日後。
朝食の卓を囲み、ジェシカとグラフは静かに食事をしていた。
その時、階下の工房から慌ただしい足音が響く。
ドンッ、と勢いよく扉が開く。
「待たせたな!」
煤にまみれたグレンが、満面の笑みで立っていた。
「憑代、完成だ!工房に来な!」
二人はすぐに席を立ち、工房へ向かう。
中にはフレデリックもおり、同じく煤だらけの顔で笑っていた。
「受け取れ、ジェシカ」
グレンがそう言って示した先──
テーブルの上には、ジェシカの背丈とほぼ同じ両手剣が置かれていた。
「いいか」
「こいつはお前の“全力解放”には耐えられねぇ」
だが、すぐにニヤリと笑う。
「だがな、ある程度の解放までなら余裕で持つ」
「最高級の仕上げだ。文句は言わせねぇぞ」
ジェシカはそっと柄を握り、剣を持ち上げる。
「……え、軽い」
「だろ?」
「見た目よりずっと軽量化してある」
「今のお前なら、問題なく振り回せる」
グレンは剣を見つめ、続けた。
「ただし、こいつはまだ“生まれたて”だ」
「本来の力は、これからだぜ」
「アルスを見つけ、鍛冶と錬金術を合わせて初めて完成する」
「へぇ……なんか、すごいね」
「ありがとう、グレン!」
「おう」
「それとな、抜き身の方が扱いやすいだろうと思ってな」
「背負えるようにも工夫してある」
「うん!」
「兄貴、助かったぜ」
「気にすんな」
「アルスの件、頼むぞ」
「ああ」
「行くぞ、ジェシカ」
「ミネルバ王国へ向かう」
「うん!」
ジェシカは新たな剣を背負い、グラフの隣に並ぶ。
二人は並んで歩き出した。
錬金術師アルスを探す旅──
そして、さらなる運命へと踏み出すために。
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