6.純血と憑代
登場人物
主人公 賞金稼ぎ 鍛治職人
ジェシカ グラフ グレン アルス
ミネルバ王国
ソフィア
古代マリア
リーンホークマリア
「それで……私に紹介してくれる人って、どんな人なの?」
「そうだな……正直に言うと、あまり気乗りはしない」
「だが約束は約束だ。ちゃんと守るさ」
「詳しい話は宿に戻ってからだ」
「分かった。それじゃ戻ろっか」
────。
二人は宿へ戻り、ジェシカの部屋に入った。
暖炉に火を入れ、部屋がじんわりと温まるまでの間、温かい飲み物を用意する。
やがてテーブルを挟み、向かい合って腰を下ろした。
火の爆ぜる音だけが、しばらく部屋を満たしていた。
「なあ、ジェシカ」
沈黙を破ったのはグラフだった。
「お前のその力……マリア様のものか?」
「……それ、どういう意味?」
「言葉通りだ」
「いくら力を抑えているとはいえ、あの規模の力が全部お前自身のものとは、どうしても思えなくてな」
「何より……お前は、まだ幼い」
ジェシカは一瞬だけ目を伏せ、すぐに小さく笑った。
「なるほどね……確かに、グラフの言う通りかも」
「私の中に、マリアはいるよ」
「……なっ!?」
「そんな、あっさり認めていいのか……」
「グラフになら、別にいいかなって思っただけ」
「ダメだった?」
「ふっ……信頼されてると、そう受け取っておくさ」
グラフは軽く肩をすくめる。
「それで、お前“自身”の力はどうなんだ?」
「うーん……正直に言うとね」
「何が私で、何がマリアなのか……今の私には、まだ分からない」
その言葉に、グラフは目を閉じた。
短く、しかし深く考える沈黙。
「……明日だ」
静かに告げる。
「俺たち同族が暮らしている集落に、お前を連れて行く」
「だが、お前の力の事は誰にも言うな」
「うん、分かった」
「……でもさ、もしかしたらフレデリックさん、いるかもしれない」
「誰だ、それは」
「ほら、この前話したでしょ?アンディたちの事」
「ああ……その一人か」
「そう!」
「……なら話は終わりだ」
「明日は朝早い。さっさと寝ろ」
「はーい。おやすみ」
グラフは部屋を出ていき、二人はそのまま早めに休む事にした。
──────。
……まだ空は暗い。
夜明け前、というより深夜に近い時間。
それでも、ジェシカとグラフは町の外に立っていた。
「行くぞ、ジェシカ」
「……うん」
眠気の残るジェシカをよそに、二人は歩き出す。
しばらく街道を進んだ後、進路は森へと変わった。
「ねえ、なんで森に?」
周囲に人の気配がない事を確認し、グラフは足を止めてジェシカを見る。
「ここからは一気に行く」
「絶対に離れるな」
「わ、分かった」
次の瞬間──
グラフの足元に、血の薔薇が咲いた。
花弁を足場に、一瞬で距離を詰め、森の奥へと消える。
「……!」
ジェシカも迷わず、ブラッディローズを展開し、後を追った。
「ほう……やはりお前のブラッディローズは、他とは違うな」
高速移動の最中、グラフが感心したように言う。
「お前のは鮮やかな真紅だ」
「……綺麗なものだ」
「えへへ、ありがとう」
風を切りながらも、会話ができる。
それだけでも、ジェシカがどれほど成長したかが分かる。
二人は夜の森を裂くように進み、
やがて──人知れぬ場所へと向かっていった。
───────────────────────
「よし、着いたぞ。明るくなる前に来れてよかった」
「……え?」
「ふっ、いいから。ほら、行くぞ」
「う、うん。待ってよー」
集落には門も門番もなく、監視らしきものも見当たらない。
だが完全に無人というわけではなく、すでに起き出して作業を始めている者もいた。
空が白み始めた頃。
行き交う同族たちと、ちらほらと視線が交わる。
「ねえ、グラフ……私、何かやっちゃったかな……?」
「ん? 何かしたのか」
「ううん……ただ、みんなが私を見てる気がして……」
「くっくっ、それはお前じゃなくて俺だ」
「へ? なんで?」
「俺がこの集落に戻るの、軽く五十年は超えてるからな」
「……え」
「何だ」
「ううん……別に……」
驚きを飲み込み、ジェシカは歩き続けた。
やがて、金属を打つ乾いた音が聞こえてくる。
「ふっ、見えてきたぞ。あそこだ」
グラフの指差す先──
鍛冶場らしき建物の前に立つと、彼はノックもせず扉を開け放った。
「兄貴、いるかー!」
突然の乱入に、工房内の者たちが一斉に振り向く。
「お、おお!? ジェシカちゃんかい!?」
「あ! やっぱりいた! 久しぶり、フレデリックさん!」
「いやあ、一瞬分からなかったよ」
「それにしても……ずいぶん綺麗になったね」
「えへへ、ありがとう」
「そういやアンディの奴は? 一緒じゃないのかい?」
そう言って、フレデリックはグラフに目を向ける。
「爺さん、グレンはどこだ」
「理由もなく案内はできんぞ。訳を話してもらわないとな」
グラフが言葉を探している、その時──
「よう、グラフ。元気してたか?」
「あ……ああ。急で悪いな、兄貴。用事があってな」
「だろうな。お前が戻ってくるなんて、よっぽどだ」
「それで、急用ってのは?」
「ここじゃまずい。静かに話せる場所を頼む」
「分かった。奥の工房に来い」
────。
「それで、用件は何だ」
「単刀直入に言う」
「こいつの“身体解放”に耐えられる武器を作ってほしい」
グレンはジェシカを下から上までじっと見つめた。
「……この子、リーパーか?」
「ああ。アレだ……アンディたちが連れて行った、あの子供だ」
「なに……!? 本当か……」
「信じられねえ顔だな」
「当然だろ……」
グレンは息を吐き、視線を鋭くした。
「それに、リーパーなら武器なんて必要ないだろ」
「それが問題だ」
「ジェシカ、見せてやれ」
「……いいの?」
「ああ」
ジェシカは一度頷き、呟いた。
「──ブラッディローズ」
真紅の花弁が舞い、真紅のロングソードが形を成す。
「身体解放してみろ」
「……分かった」
解放の瞬間、真紅の羽と青白いオーラが広がり──
工房が激しく軋み、壁が悲鳴を上げる。
「わ、分かった!! 抑えろ!!」
ジェシカはすぐに力を収め、崩壊は免れた。
「……とんでもねえな」
「本当に……古代マリア様の神子か」
「アンディの言葉は本当だったってことだ」
険しい顔をするグレン。
「……難しいか?」
「正直に言う。普通の武器じゃ無理だ」
「短期的に耐えられても、長くはもたないはずだ」
ジェシカが一歩前に出た。
「ねえ、グラフのお兄さん」
「どんな素材が必要なの?」
「……古い文献の話だがな」
「金属を鍛える際、命あるものを混ぜる技法がある」
「ジェシカの力に耐えるには──“死者の純血”が必要だ」
「ダークマター……か」
「存在はすると言われてるが、おとぎ話みたいな代物だ」
ジェシカはグラフを見る。
グラフはニヤリと笑い、顎で合図した。
ジェシカは理解し、赤黒い血の結晶を差し出す。
「……なんだ、これは……!」
「覚醒死者の血の結晶だ」
「これがあれば、作れるか?」
「無茶言うな!!」
「……だが、アルスが戻れば話は別だ」
「そのアルスはどこにいる?」
「数年前に姿を消した。ミネルバ王国に向かったって噂はある」
「じゃあ行こうよ! ミネルバ王国!」
「……はあ。仕方ねえな」
「待て」
「憑代は俺が作る。二、三日待て」
「その間、情報収集でもしてろ」
「本当!? ありがとう!」
「ああ。最高のダマスカス鉱を使ってやる」
「お前らの武器がどうなるか……俺も見届けたい」
「ありがとう、グラフのお兄さん!」
「待て、俺はグラフの兄だがグレンだ」
「……ありがとうグレン!」
こうしてジェシカとグラフは、
次なる旅への準備期間に入るのだった。
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