1.方向と邂逅
登場人物紹介
<クロスリーパー>
主人公 ジェシカ
賞金稼ぎ グラフ
このエピソードは長いです。
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ジェシカはアンディたちと別れ、情報を得るため、最寄りの町を目指して森を飛んでいた。
だが、木々の間を抜ける途中、微かに──そして次第に重なるように、複数の声が耳に届く。
その中で、人間の女性の悲鳴が、嫌というほど鮮明に響いた。
ジェシカは一瞬だけ迷う。
(……関わらない方がいい……)
だが、アンディの言葉が脳裏をよぎる。
──規律よりも、判断に責任を持て。
「……くっ」
次の瞬間、ジェシカは声のする方へ向かっていた。
近くの木に降り立ち、枝に足をかけ、様子をうかがう。
そこにいたのは──死者ではない。薄汚れた盗賊たちだった。
「女と子供は連れて行け!男は縛って使う!殺すなよ、使い道はある!」
「オオォーー!!」
襲われた人々は、両手両足を縛られ地面に転がされている。
「頼む……やめてくれ!金なら払う!だから……!」
「ははは!命乞いか?おい、その女をこっちに連れてこい!」
女性が髪を掴まれ、地面を引きずられる。
恐怖に歪んだ表情。必死な叫びが視界に入り、ジェシカの中で何かが冷たく沈んだ。
(こういうのを見て……何も感じなくなってきてる……?)
ほんの一瞬の違和感。
だが──
「……関係ない」
ぽつりと呟くと同時に、女性の髪を掴んでいる盗賊に向け──一閃。
盗賊の首が、音もなく宙を舞った。
「……何!?」
振り返る盗賊たち。
だが、その視界からジェシカの姿は消えている。
「──ブラッディストライク」
紅い斬撃が、一閃。
続けざまに、二閃、三閃。
何が起きているのか理解する前に、盗賊たちは次々と血飛沫が舞い、倒れ、息絶えた。
森に静寂が落ちる。
女性は恐怖と衝撃で声を失い、そのまま意識を失った。
「大丈夫?」
囚われた人々へ、優しくはっきりとした声で話しかける。
そこには──
真紅の剣を携え、
灰色のセミロングの髪、
蒼い瞳をした、細身の女性。
……ジェシカの姿があった。
まだ残っていた盗賊たちは、逃げる足を止め、振り返る。
「な、なんだ……女じゃねぇか」
欲に濁った視線をジェシカに向けていたが、視界が割れる。
「──ブラッディストライク」
血の斬撃が空間を裂き、盗賊たちは跡形もなく消え去る。
残ったのは、血溜まりだけ。
ジェシカはその血を分離アルカナで圧縮し、結晶へと変えた。
かつて、それは禁忌だった。
だが今は違う。
(……必要だからやった。それだけ)
自分に言い聞かせるように、目を伏せる。
「ありがとう……本当に……妻を……助けてくれて……」
「無事でよかった。それじゃ、気をつけて」
真紅の羽を広げ、ジェシカは再び空へ飛び立った。
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だが、目的の町へ向かう途中、何度も争いに遭遇し──人助けを繰り返した。
気づけば、三度目の夜を迎えていた。
「んーもう!いい加減にしてよー!!」
焚き火の前で、ジェシカは苛立ちを爆発させる。
「ただ町に行きたいだけなのに……!」
その時。背後から足音が聞こえ、身構える。
「誰っ!?」
「ふっ……まさか、ここで同族に会うとはな……」
黒を基調とした服。帽子の奥に光る鋭い眼。
「俺はクロスリーパーのグラフだ。そして──お前を粛清しに来た」
「……粛清?」
「そうだ。この森で、“紅い天使”の噂が流れている。人を救い、人を斬る存在……お前のことだろ」
ジェシカは眉をひそめる。
「天使じゃない。ジェシカ。それが私の名前」
「ふっ……そうか、ジェシカ。それで──どうなんだ?」
「私は天使じゃない。それに……人助けして悪いの?」
その言葉に、グラフの笑みがわずかに変わる。
「……やっぱりそう来るか」
静かに、しかしはっきりとした声。
「分かるぜ、かつて俺も昔はそうだった」
「……え?」
「目の前の悪を斬る。それが正しいってな」
グラフはゆっくりと続ける。
「だが違う。俺たちの力は──強すぎる」
その言葉には、重みがあった。
「リーパーの力は死者を狩るためのものだ。人間に向けるもんじゃない」
「でも!」
「聞け」
一瞬で空気が張り詰める。
「その力で人を斬り続ければ、いずれ人間は俺たちを“怪物”として見る」
「……」
グラフの視線が鋭くなる。
「そして──討伐対象になる」
ジェシカは言葉を失う。
「それを止めるために、俺は“粛清”しなければならない」
言い切ったグラフは体勢を低くする。
「ふっ、御託はここまでだ」
グラフの右手に、血が集まる。
「──ブラッディローズ」
その言葉と同時に、赤い薔薇の花びらが宙に舞う。
右手へと血が集まる。
粘り気のある赤黒い血が渦を巻き、やがて固まり、次の瞬間、その手には巨大な赤黒い両手斧が形成された。
「これは、俺の“責任”だ」
ジェシカは静かに息を吐いた。
(……この人、本気だ)
そして──
(……でも、私は)
「分かった」
ジェシカはグラフへ身構える。
「──ブラッディローズ」
その言葉と同時に、真紅の薔薇の花びらが宙に舞い、右手へと血が集まり、真紅の大剣が現れる。
それを見た瞬間、グラフの口元が歪む。
「ふっ……ふっ……はははっ!!」
肩を震わせる。
「そうか……お前か……!」
「……?」
その目が、わずかに興奮を帯びる。
「その力……その姿……まるで──古代マリア様みたいじゃねぇか」
ジェシカの胸が、わずかにざわついた。
(……マリア……)
だが考える暇はなく、グラフが踏み込んできた。
戦いが、始まる。
グラフはジェシカへ向かって踏み込み、攻撃を仕掛けた。
斧を両手で持ち替え、勢いよくジェシカへ振りかざす。
避けると踏んでいたグラフに対し、ジェシカは正面からその一撃を受け止めた。
ギィン──!!
重い衝突音が響く。
ジェシカは歯を食いしばり、そのまま力で押し返す。
グラフの体勢がわずかに崩れ、距離が開いた。
「ふっ、避けずに受けて立つとはな……行くぞ」
グラフの気配が変わる。
「──身体解放」
帽子の奥に見える瞳が、赤く染まる。
次の瞬間。
グラフの姿が、視界から消えた。
ジェシカは気配を探るように周りを探るが、直後頭上から強烈な圧。
斧が振り下ろされ、地面に叩きつけられる。
轟音が響く。
地面が裂け、衝撃が周囲に走ったが、ジェシカは間一髪で回避した。
だが──
(速い……!)
間髪入れず、二撃目、三撃目。
重く、速く、容赦のない連撃がジェシカを襲う。
ジェシカは避け続けるが、その負荷は確実に蓄積していく。
「くっく……どうした、避けるだけか!?」
余裕の笑みを浮かべ、グラフが嘲る。
そんなグラフにジェシカは静かに口を開いた。
「……一つ、聞かせて」
「……粛清中に話しかけるなんて余裕だな!!」
赤黒い両手斧と真紅の両手剣が交わる。
「……私が貴方を倒したら、どうなる?」
一瞬の間。
そして──
「ふっ、倒したら分かるだろーよ!!」
グラフが力を込め、斧を振り上げる。
だが──ジェシカは動かずそのまま、グラフを真っ直ぐ見据える。
「はっ!諦めたか!?これで粛清完了だな!!」
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「スカーレットローズ」
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「なに……!?」
血の匂いが、空気を満たし二人の周囲を真紅の血の花弁が舞い、囲む。
静かに。だが確実に、空間そのものが変質していく。
真紅の血の花びらがジェシカの右手に集まり、形を成して行く。
そこには金色に輝く両手剣。だが、すぐに存在を消した。
「なっ……!?何だこれは……!」
ジェシカは振り下ろされる斧に、片手で触れた。
そして──握る。
(……分解アルカナ)
ギチッ、と音を立てると斧はボタボタと赤黒い血液へと変わり、グラフの手から溶けるように消えていく。
「は……?何が……」
理解が追いつかない。
その隙を、ジェシカは逃さず一気に踏み込み最低限の身体解放。
拳が、グラフの腹にめり込む。
「──っ!!」
グラフの体が、空へと吹き飛ばされる。
「んだと……!!」
たった一撃。
それだけで、動きが止まる。
ジェシカは背から羽を展開し、一気に距離を詰める。
空中で──連打。
拳、蹴り、肘。
容赦のない連撃が叩き込み、グラフは一切反撃できず、すべてを受ける。
吐血し、体勢が崩れる。
「ぐっ……!!」
さらにジェシカは空中に散った血を足場にし、加速。
グラフの髪を掴みそのまま──急降下。
途中で手を離し、地面に叩きつけ轟音と共に、地面が砕け、砂塵が舞い上がる。
「くっ……な……んだ……よ……今のは……」
煙の中。
ジェシカは金色に輝く大鎌を構え、砂塵を払いゆっくりと歩み寄り、グラフの肩を踏みつけた。
動けず、完全に制圧されている。
「さあ、どうする?」
ジェシカの静かな声。
「粛清するなら──私は応えるつもりはないよ」
「……ちっ」
グラフは力を抜き、地面に倒れた。
「……俺の、完敗だ……」
ジェシカの足から力が抜けたのを感じ取り、身体解放を解除する。
そして、念のために結晶を一つ取り出し、飲み込み、
呼吸が整う。
グラフが口を開く。
「……お前、やはりマリア様なのか?」
「え?違う。私はジェシカ」
「……そうか。さっきの姿……古代マリア様に似ていたからな」
ジェシカの胸が、わずかにざわつく。
「グラフだっけ。もう敵意はない?」
「ふっ……この状態見て、敵意あるように見えるか?」
「……確かに」
ジェシカは手を差し出しグラフはその手を取り、起き上がった。
「血……使いすぎちまったな。渇きを覚える……」
「グラフだっけ?」
「そうだ。俺はグラフ」
「これ、飲んでみて」
ジェシカは結晶化した血を一つ渡す。
「なんだこれは……」
「いいから、飲み込んでみて」
「……分かった」
グラフはそれを口に含み、飲み込む。
「……っ!!」
目を見開く。
「何だこれは……渇きどころか……怪我まで治ってるぞ!?」
「グラフに聞きたいことあるから、とりあえず焚き火のところに行こう」
「あ、ああ……分かった。行こう」
これから何を聞かれるのか。
そして、自分も何を知ることになるのか。
──今夜は、長くなりそうだ。




