2.依頼と憤怒
登場人物
主人公 死者狩り
ジェシカ グラフ
ヘレティック
エリック エルドレッド
パチパチ、と。
暗い森の中で焚き火の音だけが静かに響いていた。
その揺れる炎を見つめながら、グラフは落ち着いた口調でジェシカに声をかける。
「……お前、何故こんな西の奥深い森にいる?」
「ここ一帯はな、人間の冒険者ですら見放した場所だぞ」
「どういう事?」
「ふっ……まさか、何も知らずに足を踏み入れたわけじゃないよな」
「私は、遠くの大きな湖畔から真っ直ぐこっちへ来ただけ」
ジェシカは指で方向を示す。
「そんな事はいい」
「目的は何だ」
「ヘレティックを殲滅するため、その情報を集めようと近くの町へ向かってた」
少し間を置き、ジェシカは言葉を続ける。
「でも森に入ってから…人間の悲鳴ばかり聞こえてきた」
「行けば、死者に襲われ、無惨に殺されていた人達がいた」
声は低く、抑えられている。
「それを見て、見過ごせなかった」
「ふっ、お前は人間寄りの思考をするんだな…」
グラフは小さく笑う。
「だが、ヘレティック殲滅とは穏やかじゃない」
「何がお前をそこまで動かす?」
ジェシカは、アンディ達との経緯を語った。
「……アンディか」
グラフは炎を見つめたまま呟く。
「懐かしい名だ」
「なるほど……納得した」
しばし沈黙が流れる。
「そうか……お前が次世代の“マリア様”か」
「真紅の薔薇が舞う理由も、分かった」
ジェシカは少しだけ眉をひそめる。
「……グラフ」
「ここから一番近い町への行き方を教えてほしい」
「いや、待て」
グラフは帽子に挟んでいた依頼書を取り出した。
「先にこれを片付ける」
「それから町へ戻り、俺の話を聞け」
「……どうして私が?」
「義理はない」
「だが、内容を読め」
そこにに書かれていた内容は、死者に攫われた人間の救出と書かれていた。
「攫われた……?」
グラフは、真っ直ぐジェシカの目を見る。
「死者はな、稀に女を生かしたまま連れ去る」
「目的は一つだ」
「……」
「死者と人間の間に生まれた子は、人間にしか見えない」
「そいつらを町に潜り込ませ、人を内側から襲わせる」
「俺達は、そういう存在を“スレイヴ”と呼ぶ」
「町は内側から壊れ、人は逃げ、大きな町へ集まる」
「……そして、役目を終えた人間は、喰われる」
ジェシカの拳が、無意識に握りしめられていた。
「この先に、攫われた人間と死者の集団がいる」
「もういい……分かった、行こう」
短く、強い声で。
「ふっ、話が早くて迷いがないなお前は」
二人は立ち上がり、さらに深い森へと足を進めた。
────。
目的の場所は、グラフですら正確には掴めていなかった。
「二手に分かれる、見つかるなよ」
ジェシカは無言で頷き、反対側へ向かう。
しばらく歩いた時、遠くから馬の蹄の音が聞こえた。
(……こんな所に?)
物陰から覗くと、馬から複数の人影が乱暴に投げ捨てられる。
全身を覆う麻袋が中で必死に暴れている。
(攫われた人間?)
麻袋が外されると、怯えきった女性の姿が現れた。
口を塞がれ、声にならない叫びを上げている。
死者は、容赦なく暴力で黙らせ、引きずるように連れて行く。
その光景を見た瞬間ジェシカの肩に、静かに手が置かれた。
「……待て」
グラフの低い声。
(今は耐えろ)
(住処を突き止める)
ジェシカは歯を噛みしめ、目を逸らさずに見届ける。
やがて、死者は女を連れて森の奥へ消えていった。
「……追うぞ」
二人は気配を消し、後を追った。
しばらくして、朽ちた岩と木々に囲まれた場所に辿り着く。
「ここだな……」
死者共の住処。
「中に入り、依頼を果たす。そして攫われた人間を解放し、殲滅する」
「分かった」
ジェシカは静かに全身へ力を巡らせる。
囚われた人々を救うため、死者共を、この森から消すため。
二人は、闇の中へと踏み込んでいった。




