1.方向と邂逅
登場人物
主人公 死者狩り
ジェシカ グラフ
ヘレティック
エリック エルドレッド
アンディ達と別れ、ジェシカは情報を得るため最寄りの町を目指して森を飛んでいた。
だが、木々の間を抜ける途中、微かに、そして次第に重なるように、複数の声が耳に届く。
その中で、人間の女性の悲鳴が、嫌というほど鮮明に響いた。
ジェシカは一瞬迷い、声のする方へ向かって近くの木に降り立つ。
枝に足をかけ、様子をうかがった。
死者が人を襲っていると思ったが、そこにいたのは、薄汚れた盗賊達だった。
「女と子供は連れて行け!
男は縛って使う!殺すなよ、使い道はある!」
「おおっ!!」
襲われた人々は、両手両足を縛られ地面に転がされていた。
「頼む……やめてくれ……」
「金なら払う!だから……!」
「ははは!命乞いか?」
「おい、その女をこっちに連れてこい!」
抵抗する女性が引きずられる。
恐怖に歪んだ表情、必死な叫び。
それを見て、盗賊達は下卑た笑い声を上げた。
「やめて……!」
その瞬間だった。
盗賊の一人の首が、音もなく宙を舞った。
「……何?」
次の瞬間、鋭い斬撃が連続して走る。
何が起きているのか理解する前に、盗賊達は次々と地に伏していった。
血飛沫が舞い、静寂が落ちる。
女性は恐怖と衝撃で声を失い、そのまま意識を失った。
「許さない」
低く、しかしはっきりとした声。
振り返った先にいたのは、
真紅の剣を携え。
セミロングの灰色の髪。
蒼い瞳。
細身の女性。
…ジェシカの姿だった。
「な、なんだ……女じゃねぇか」
盗賊達はジェシカを囲むように動き、欲に濁った視線を向ける。
次の瞬間、ジェシカの姿は消えた。
「ブラッディストライク」
血の斬撃が一閃。
盗賊達は一瞬で跡形もなく消え、その場には血溜まりだけが残る。
ジェシカはその血を分離アルカナで圧縮し、結晶へと変えた。
人を斬ることは禁忌とされていた…だが、アンディの言葉が脳裏をよぎる。
規律よりも、判断に責任を持て。
「……ふぅ」
武器を収め、ジェシカは捕らわれていた人々の縄を切った。
「ありがとう……本当に……」
「妻を……助けてくれて……」
「無事でよかった。気をつけて」
ジェシカは真紅の羽を広げ、再び空へ飛び立った。
⸻
だがその後も、町へ向かう途中で何度も争いに遭遇し、人助けを繰り返すことになる。
気づけば、三度目の夜を迎えていた。
「んーもう!いい加減にしてよー!!」
焚き火の前で、ジェシカは一人呟く。
「ただ、町に行きたいだけなのに……」
その時、背後から足音がした。
「誰っ!?」
「ふっ……まさか、ここで同族に会うとはな…」
黒を基調とした服、帽子の奥から鋭い視線。
ジェシカは即座に身構える。
「俺はクロスリーパー、グラフだ」
「そして……お前を粛清しに来た」
「え…」
「ここ最近この森に紅い天使が居る。なんて噂が流れているがお前の事だろ…」
「お前じゃないジェシカ。それが私の名前」
「ふっ、そうかジェシカ。それでどうなんだ?」
「私は天使じゃない。それに人助けて悪いの?」
「ふっ、そう来たか、なるほどな…しかしジェシカお前、人間を殺ってるだろ」
「人間が人間を襲ってる場面には何回か遭遇した事は確かにある、けどあくまでも襲ってる側を斬っているだけで悪い事は何もしていない」
「ふっ、そうか。だがなお前は少しやり過ぎたんだ」
「お前はリーパーの力で人を襲っている」
「リーパーの力は死者狩りに使う事は許されても人間を殺める為に使っちゃいけねーのさ……」
「誰もが俺達みたいな力を持っているわけではない」
「その圧倒的な力を人間に使うと俺たちは人間にとって恐怖の対象になってしまう」
「だから俺はお前を粛清しなければならない……」
「な!?私は間違ってはいない!」
「ふっ、御託はもういい。構えろ」
「ブラッディローズ」
グラフは自分よりも大きな赤黒い両手斧を顕現させ右手に持ち肩に掛けた。
これが俺の得意とする武器だ。
ジェシカは考えた、いきなりスカーレットローズを使うのは得策じゃないと。
あえてジェシカはブラッディローズを使う事でグラフとか言う奴の様子を伺う事にした。
「ブラッディローズ」
ジェシカの手には同じ背丈の真紅の大剣を顕現させ、
真紅の大剣を見たグラフは肩を震わせている。
「ふっ、ふっ、ふはははっ!!そうかお前か!実に良いぞ、楽しめそうだ」
グラフからジェシカに向かって攻撃を仕掛けた。
斧を両手に持ち変え思いっきりジェシカに向け振りかざした。
避けると思っていたグラフに対して、ジェシカは正面から斧の攻撃を受け止めていた。
ジェシカは歯を食い縛り、そのまま力でグラフを押しのけ距離を取る。
「ふっ、避けずに受けて立つとはな」
「行くぞ」
グラフは身体解放を行い帽子の奥に見える目の色が赤色に変わる…
グラフの姿が視界から消えた!その瞬間、上から斧を振りかざし地面に叩きつけるように攻撃をしかけてきた。
ジェシカはそれを避けると斧が触れた地面は小さく地割れをした。
それ程、強力な攻撃をジェシカに仕掛ける。
だか避けたジェシカへ更に手を緩める事なく重い一撃の追撃をする。
しかし決定打は無くともジェシカへの負荷は蓄積して行く。
防戦一方なジェシカを見たグラフは余裕の笑を浮かべ喋り出す。
「どうした避けるだけか!?」
そんなグラフにジェシカは、はっきりとした口調で問いかける。
「1つ聞かせて」
「…何だ」
「私が貴方を倒したらどうなるの?」
「ふっ、倒したら分かるだろーよ!!」
グラフは振り回している両手斧に力を込めてジェシカに向け振りかざした!
そしてその場から動かずジェシカはグラフの目を睨む。
「はっ!諦めたか!?これで粛清完了だな!!」
「スカーレットローズ」
──っ!
血の匂いと共に二人の周りに綺麗な真紅の薔薇の花弁が包む
「なっ!?何だこれは」
ジェシカは斧を片手で触れ、そのままブラッディローズで作られた斧を力いっぱい握りそして潰した。
ボタボタと血液に変わりグラフの手から斧は溶けるように消え去っていた。
「は?一体何が起こったんだ!」
ジェシカは僅かな身体解放のみでグラフの腹を殴り勢いよく空高く飛ばした。
「なっ!!」
たった一発だがグラフにとってはかなり重い一撃となり身動きが取れない。
勢いよく高く飛ばされてる最中、ジェシカは羽を出しすぐさまグラフと距離を詰め身体の至る所を打撃の連打を叩き込んだ。
手も足も出す事ができなかったグラフは、全ての打撃をモロに喰らい吐血した。
更にその血を足場にしてグラフの髪を掴み、一気に急降下し途中で掴んでいた髪を離し地面に勢いよくグラフだけを叩きつけ、もの凄い音と共に砂塵が舞った。
「くっ…な…んだ……よ。今の…は…」
ジェシカは金色に輝く大鎌で砂塵を払い、グラフの肩を足で踏みつけ動けない状態にし、上から目線で口にした。
「さあどうする?粛清するなら私は応えるつもりはない」
「ちっ、分かったよ俺の完敗だ……」
グラフは全身の力を抜き地べたに倒れた。
それがジェシカの足からも伺え身体解放を止め普段の姿に戻った。
そして念の為に結晶を1つ取り出し飲み込んだ。
「おまえ、やはりマリア様なのか?」
「え?違う、私はジェシカ」
「そうか、さっきの姿が古代マリア様に似ていたからな」
「グラフだっけ、もう敵意はない?」
「ふっ、これ見て俺に敵意あるように見えるか?」
「……」
倒れてるグラフにジェシカは手を差し出しグラフは手握り起こされた。
「血、使いすぎちまったな渇きを覚える」
「グラフだっけ?」
「そうだ。俺はグラフ」
「これ飲んで」
そう言うとジェシカはグラフに結晶化した血を1つ渡した。
「なんだこりゃ…?」
「いいから飲み込んでみて」
「……わかった」
グラフは結晶化した血を口に咥え飲み込んだ。
「は?何だよこれ渇きどころか怪我まで治ってるぞ!?」
「グラフに聞きたい事あるから、とりあえず焚き火の所に行こうよ」
「あ、ああ。分かった、行こう」
これから聞きたい事や色々聞かれるとは思う、今日の夜は長くなりそうな予感がする。




