7
『ごめん、ごめん。じゃ、こっちへおいで』
大二郎は優奈を抱きかかえた。
『ママはパパのどこが好きなの?』
沙彩は少し大二郎の顔を見て優奈の問い掛けに答えた。
『真っ直ぐで正直なところかな』
『パパ、パパはママのどこが好きなの?』
今度は大二郎が沙彩の顔を見てから答えた。
『そうだなぁ、いつまでも純粋なところかな』
優奈は二人が見つめあって照れ笑いしているので、不思議そうに眺めてはあどけなさを露出してみせた。
陽射しが三人と庭に咲く花たちを包み込む。
花壇の花たちが誇らし気に咲いている。
一際目立つのが大きなウキツリボクで、枝先から咲かせる花びらは鮮やかな色彩で満開に開いていた。
庭一面の緑と花が、様々な色を見せつけて美しくもたげている。
『パパ、さっきの話し。ママにも聞かせてあげて』
『優奈、照れるから勘弁してくれないか』
戸惑う大二郎に妻は語りかける。
『あなた、優奈にどんな話しをしてあげたの?』
『私が作家になれた理由とでも言うべきかな』
『あらっ、そうだったの』
幸せそうな二人を見て、優奈はシャベルを元の位置に戻して、大二郎に向かって囁いた。
『ねぇ、パパ』
『どうしたのだい?』
『その女の人だけど今はどうしているのかなぁ?』
大二郎は長椅子から腰を上げて、深呼吸を幾度か繰り返した。
優奈の目線にまでしゃがんで、一言一言丁寧に答えた。
『その女性はだね。パパと同じくらい世界で一番、誰よりも優奈を愛している人だよ』
この街に引っ越して七年。
家族三人、一度のけんかもなく幸せに暮らしてきた。
優奈の表情からはまだ七歳とは思えない凛とした誇らしさが溢れていた。
優奈の手にはいつの間にか、再びシャベルが握り締められていた。