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ザクザクと地面を掘り起こす音が窓越しに聞こえる。
静観な佇まい。じんわりとした風情ある街並みや建ち並ぶ家屋はおしとやかに佇んでいる。
穏やかな春の陽光がカーテンを通過して、眠っている朝倉大二郎の頬を照らす。
大二郎が家族と共にこの街に越してきてから七年の月日が経過する。
一人娘の優奈が生まれて間もない頃だ。
優奈が自然豊かな環境でのびのびと健全に育ってほしいと願う両親の想いからだった。
ぼんやりとした意識のなか、大二郎の耳に少しずつザクザクという響きが増してくる。
すっきり覚めやらぬ状態のまま、大二郎は優奈が庭先でいつものように遊んでいるのだろうと一人、その場面を思い描いていた。
『パパ、パパ』
優奈が声をあらげた。土足のまま部屋にあがりこみ、両手で大二郎の腕を引っ張った。
『パパ、起きる時間だよ。昼寝の時間は終わりだよ』
娘に少しだけ眠るからしばらくしたら起こしてほしいと頼んでいたことなど、すっかり忘れていたようで、土足のまま部屋にあがりこんだ優奈を叱ってしまった。
優奈は妻の教育がいいのか、ほんの少しだけ膨れて口を風船玉のように広げたものの、すぐさま笑ってみせた。
大二郎もせっかく起こしてくれたのにごめんねと呟いて優奈の頭を数回、優しく撫でた。
抱えている連載の締め切り間際に完成させた原稿が、妻のお気に入りの漆喰の桐箪笥の上からバサバサと落ちてきた。
二階の書斎から持っておりて居間で目を通していたことすら覚えていなかった。
『優奈、ママはどこに行ったんだい』
『パパが寝てしばらくしたら出掛けたよ』
大二郎はその場から立ち上がり、冷水で顔を洗った。
『パパ、庭で遊ぼう』
『天気もいいし、そうだな。そうするか』
二人は居間から縁側に出て、スリッパに履き替え、庭先の片隅にある木造ベニヤ板の長椅子に腰を降ろした。
ちょうど家の真ん中に円形をした庭がある。
建設の際、大二郎が設計の段階で妻と相談して決めたことだった。
夫婦ともにいずれも母親が大の花好きだった。
このことが大きく影響していたのだろう。
妻はその血を受け継いだのか、庭には色様々な
花を咲かせた種類の名花でいっぱいだった。
強まる陽射し、まだ春最中にも関わらず、夏日のようにうだる暑さだった。
優奈がシャベルを手に取って地面を掘り起こした。
『優奈、ママに叱られるよ』