表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

第7話 なぜ脱いだらマツケンサンバなのか、説明してほしい

風邪をひいたナオのもとに、まさかの佐久間さん登場──!?

優しすぎる看病に、ナオの心も体温も急上昇。

けれど、何より熱くなったのは、あの「BGM」かもしれません……。


※今回は、ちょっぴり照れくさくて、でも笑える“ほぼお世話回”です。

ほんのりえっち(?)な気配に、BGMも大暴走!

気づけば、陽はすっかり落ちていた。


窓の外の夕焼けが、うっすらとカーテン越しに部屋を染めている。喉の痛みは少しおさまったけれど、身体のだるさは相変わらずだった。


枕元に置かれた冷えピタと、ぬるめのポカリ。

(……本当に、至れり尽くせりだな)

ひとり言のように呟くと、横でガサッと布の音がした。


「起こしたか?」

「……いえ」

佐久間さんは、俺のベットのすぐ隣に腰を下ろして、熱を測るように額に手を当ててくる。

ひんやりとした掌が、額に吸いついた。

「……まだ少し熱いな。もう少し寝とけ」

「はい……」


そのときだった。彼の指先が、俺の髪にそっと触れた。

(え……?)

汗で張り付いた前髪を払うような、ほんの一瞬のしぐさ。

けれど、なんだかくすぐったくて、妙にドキドキしてしまう。

「……髪、濡れてたから」


佐久間さんはそれだけ言って、そっぽを向いた。

(……いや、そんな自然な感じで言われても)

俺の鼓動は、さっきよりずっと速くなっていた。


「……水、もう少し飲めるか?」

「たぶん……」

佐久間さんはペットボトルのキャップを外して、俺の口元に差し出してくれる。

自分で飲むのも億劫で、受け取ろうとしたそのとき。

「ん──」

少し身体を起こした反動で、バランスを崩してしまった。

とっさに佐久間さんが支えてくれたのはいいけど──

気づけば、俺は彼の胸に軽くもたれかかっていた。

(……近い……!)

佐久間さんのスーツの香り。シャツ越しの体温。首筋にかすかに感じる鼓動。

あまりの近さに思わず息を飲んでしまう。

「……だいじょぶか?」

彼の声がすぐ耳元で響いた。

「っ、す、すみません……!」

「……焦らなくていいから。ちゃんと飲めるようになるまで、こうしてる」

「いやでも、それ、めっちゃ距離が……」

「気にすんな」

さらっと言ってのける佐久間さんが、ずるい。

しかもその直後、耳の奥で“新たなBGM”がまた、ふわっと鳴った。


「君の熱にふれたら 胸の奥がざわめくんだ」

「好きとか 恋とか まだ言えないけど──」

「そのくしゃみさえ、愛しくて」

(……やめてくれ……! こっちの体温、ほんとに上がりそうだから!)

顔が火照るのは、風邪のせいだけじゃない──そんな確信が、じわじわと広がっていく。

この人の優しさは、あったかすぎて、時々ちょっと反則だ。


「……あの、佐久間さん」

「ん?」

「なんで、そんなに……優しくしてくれるんですか?」


気づけば、ずっと気になっていたことが、ぽろりと口からこぼれていた。

熱のせいで頭がぼんやりしてるせいか、いつもなら飲み込むような言葉も、今はそのまま出てしまう。

「俺、けっこう抜けてるし、仕事もたいしてできるほうじゃないし……色々迷惑かけたり、体調崩して倒れたり、ホントにポンコツで……」


「……」


「そんな俺に、どうして……こんなに、気遣ってくれるんですか?」

自分で言ってて少し悲しくなるほど、自信のない問いだった。

でも、佐久間さんは、それを真剣に受け止めてくれた。


「……理由、要るか?」

「えっ」

「困ってるやつを助けるのに、いちいち理屈なんて考えない」

そう言って、彼はふっと小さく笑った。

(……その笑顔、ずるい)


優しくて、ちょっと照れてるみたいで──なぜか、すごくドキドキする。

(……あれ? なんで俺、こんなに動揺してんだ?)

おかしいな。佐久間さんって、たしかにすごく頼れる先輩だけど。

俺なんかに親切にする理由、ほんとに、ないよな……?


(え、もしかして……俺、好かれてる……?)

いやいやいや、それはない。それだけは絶対ない。


だって佐久間さん、あんなにクールで仕事できて、たぶん女子社員にもモテモテで……え、え、でも、BGMが爆音で「ナオ〜〜〜♪」って叫んでたし……。

(うわ、ちょっと何考えてんだ俺!!)


頭をぶんぶん振ってたら、隣からじっと見られていた。

「……大丈夫か? 熱、上がった?」

「……すみません、ちょっと汗かいたんで、着替えてもいいですか」


「ん? ああ」

ベッドの脇に用意されていた新しいTシャツとタオルを手に、俺はその場で上着を脱ごうとした。


──その瞬間。

♪ソイヤッ! ソイヤッ!

 ナ〜〜〜オ〜〜〜! 愛してる〜〜〜!!!

「……え?」

いきなり、頭の奥に飛び込んできた爆音。


ラテン調どころじゃない、今度は完全にマツケンサンバ系のド派手なパレードミュージック。煌びやかなラッパに打楽器、意味不明なほど陽気な掛け声、そして──

「ナ〜〜〜オ〜〜〜♪」

完全に名前入り。

(ちょ、ちょっと待って!?)

何もしてないよ!? ただ着替えようとしただけだよ!?

でも耳の奥ではもう、金の扇子を振り回す勢いの情熱サウンドが止まらない。

ちらっと佐久間さんを見ると──


「……っ」

視線、逸らした。

わずかに耳が赤い。

(……え、まさか……今のBGM、佐久間さんの!?)

その証拠に、俺がTシャツを頭からかぶった瞬間──

♪ナ〜〜〜オ! キミに乾杯〜〜!

勢いがさらに増した。乾杯すな。

(ちょ、BGM! 落ち着け!!)


「……えーっと……着替え終わりました……」

「……ああ」

明らかに動揺してる佐久間さんを見て、なんだかこっちまでそわそわしてくる。

(なんで……俺が脱いだだけで、あんな情熱的になるんですか?)

思わず口をついて出そうになったけど、ギリギリ飲み込んだ。


──いや、違う。あれはただの幻聴だ。発熱による幻覚だ。うん、そうだ。そうに違いない。

「……じゃ、じゃあ、そろそろおかゆ、食べます!」

「……ああ。冷める前にな」


心なしか、佐久間さんの声が1オクターブ低くなっていた。

そして耳の奥ではまだ、微かにラテンのリズムがこだましていた──


♪ソイヤッ! ナオッ! ソイヤッ!


(だから落ち着けぇぇぇ!)


──つづく。


ここまで読んでくださってありがとうございます!


佐久間さんの「優しさ」と「不器用な本音」が少しずつ溢れてくる回でしたが……

まさかのBGMがマツケンサンバ風に変化するとは思いませんでした(笑)。


ナオはまだ気づいていないけど、読者のみなさんにはもう見えてますよね。

この人、確実に“好き”なんです……!


次回は、ちょっとだけ“距離”が変わるかもしれません。お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ