第27話 イケメン4人と沖縄みやげと、おまけの罠。
真鍋さん(筋肉茶髪)&彼氏(チャラ歯科医)と、
なぜか4人でおしゃれディナーすることになったナオ。
イケメン空間に圧倒されて、脳内BGMは暴走寸前!?
そしてラストには“笑えないおまけ”が待っていて──?
「ナオ〜! 今週末ヒマしてない?」
唐突に肩を抱かれて、ナオはびくりと振り返った。
「……真鍋さん?」
派手な茶髪に黒シャツ、きらっと光るネックレス。
筋肉質で華やかな男──真鍋は職場でも目立つ存在だが、今日はさらにテンションが高い。
「俺と彼氏とさ、佐久間さんも一緒に、4人で飲みに行こうって話しててさ」
「え、彼氏って……この間の……?」
「そうそう、あのチャラいやつ。桐谷って言うんだけど、あのあと付き合うことになりまして〜!」
ナオは一瞬口をぱくぱくさせた。
(付き合ったんだ……あのチャラ男と……)
「え、でも……俺、行っていいんですか?」
「いいに決まってんじゃん! 彼氏が“あの可愛い子また会いたい”って言ってたし!」
「か、可愛い子……!?」
「なに照れてんの。ほら、決まりね!」
有無を言わさず肩を叩かれ、ナオは押し流されるようにその日の約束を受け入れていた。
約束の日。
連れてこられたのは、恵比寿にあるおしゃれなビストロバー。
ウッド調の内装に、キャンドルライトの揺れるテーブル席。
すでに到着していた桐谷は、以前よりも落ち着いた雰囲気で、でも相変わらずモデルみたいに整った顔で笑っていた。
「ナオくん、久しぶり〜。会いたかったよ〜」
「え、あ、どうも……」
(あいかわらず距離感バグってる……)
遅れて佐久間さんも合流し、4人で席についた瞬間から、真鍋と桐谷のテンションは全開だった。
「ね〜透、この間の沖縄のホテル覚えてる?」
「うんうん! プール付きスイート最高だったね〜!」
「ジャグジーでお酒飲みながら写真撮ったじゃん? あれさ、めっちゃ映えててさ〜!」
ふたりの世界が完全に“沖縄再生中”。
その会話に、佐久間さんも珍しくあいづちを打っていた。
「……プール付きは珍しいですね」
「でしょ〜!? 透、泳がずに浮かんでただけだったけどな!」
淡々とした佐久間さんの声が、すっと輪の中に溶け込んでいく。
落ち着いていて、聞き上手で、どこか品があって──
ふたりの軽快な会話に、自然に馴染んでいた。
(……佐久間さんって、どこ行っても溶け込めるんだな……)
一方のナオはというと、グラスを持ったまま言葉を探してばかりで、笑うタイミングすらちょっと遅れる。
(なんか、俺だけ浮いてない……?)
イケメンと華やかさが並んでいる中で、自分だけが“脇役のモブ”みたいな感覚がしてしまう。
佐久間さんの隣にいるのに、なんとなく遠い。
そんなもどかしさが、じわじわと胸に広がっていた。
ナオはうまく口を挟めず、グラスを持ったまま小さくなっていた。
そのとき、ふと視線を感じて隣のテーブルを見ると、OL風の女性がこちらに背を向けながらも、完全に聞き耳を立てていた。
──♪ イケメンが4人で 集まってるテーブル〜
筋肉、チャラ男、クールなイケメン……
……あれ? ひとりだけ、やたら可愛くない?
ゆるふわ男子? 彼氏いるの? ねえいるの?
……ていうか、誰の彼氏なの……その子、保護対象……!
ナオはスプーンを落としそうになった。
(ちょ、まって、今のBGM……俺達のこと歌ってない!?)
ナオは視線を感じて振り返り、女性の脳内BGMに衝撃を受けて顔を赤くした。
その様子に気づいた佐久間さんが、ふと隣でつぶやいた。
「……さっきから、見られてるぞ」
「えっ……そ、それは、佐久間さんがかっこいいからじゃないですか!? あ、あと……みんながイケメンだから……」
言い訳みたいなことを口走りながら、ナオは顔を覆った。
(なんで俺まで歌われてんの!? “保護対象”って何!? てか“誰の彼氏なの”って……いや俺、誰の彼氏かって、たぶん……いや、言わせんなよ……!)
佐久間さんはナオの様子を見て、わずかに口元を緩めていた。
食事も終盤に差し掛かるころ、真鍋がカバンから小袋を取り出した。
「そうそう、これ! この間の沖縄のお土産〜! 佐久間さんとナオにも!」
「ありがとう。……これは会社では食えないな」
「会社じゃなくても食べにくいよ!?」
泡盛入りのチョコレートボンボンは、なぜかパッケージがやたらセクシーだった。
黒と金の箱に、しなやかな男性のイラスト。
(なんでこれ選んだんだ真鍋さん……)
「で、これ、ナオには“おまけ”」
真鍋がくすっと笑って、小さな黒い包み紙をナオに手渡す。
「え? なんですかこれ」
「帰ってから開けてね〜♡」
(な、なんか嫌な予感……)
帰り際、ナオがトイレに立つと、桐谷が「あ、俺も」と言ってついてきた。
手を洗っていると、ふいに名刺が差し出される。
「そういえばちゃんと名乗ってなかったよね。桐谷 透、歯科医してます」
「え、歯医者さんだったんですか!?」
「うん、恵比寿で開業してて。よかったら遊びに来てよ。歯、見てあげる」
「遊びに……歯医者さんに……?」
(治療ですか? 遊びですか?)
席に戻ると、佐久間さんがほんの少しだけ不機嫌な顔をしていた。
「……あいつとなにか話したのか」
ナオはすぐに目を合わせて、軽く首を振る。
(違います、大丈夫、何もないです!)
アイコンタクトだけで通じた気がして、胸がふっと温かくなった。
その夜、帰宅してからナオは思い出したように、真鍋からもらった“おまけの包み”を開けてみた。
中から出てきたのは──
黒のゴムベルトとメッシュだけでできた、ビキニというか……お尻が完全に丸出しになる謎のパンツだった。
「え、なにこれ……前はあるのに、後ろが……え、布どこいった!?」
しかもタグには、金文字ででかでかと “SEXY BOY” の文字が踊っている。
「いやいやいやいや!! どう見ても勝負下着じゃんこれ!!」
「なんで俺にこれ選んだの!? ていうかなんの勝負!? どこと!!」
ナオは顔を真っ赤にしながら、パンツをそっと箱に戻した。
──つづく。
まさかの“保護対象”扱い、そして“SEXY BOY”な下着まで。
ナオの脳内もツッコミもフル回転な夜でした。
次回は、あのパンツが──見つかる?渡される?穿かされる……?
どうぞお楽しみに!




