第25話 ふたりきり出張、BGMはまさかのラテン調
スマホケース、実は……おそろいでした(無意識に)。
そしてナオが、ちょっとだけ“みんなのために動けた日”。
でも最後はやっぱり、佐久間さんとのふたり旅で頭がいっぱい──
今回もどうぞお楽しみください!
朝のオフィス。
ナオが席に着いてバッグからスマホを取り出すと、近くにいた同僚の藤井さんがふと目を留めた。
「……あれ? ナオくん、そのスマホケース……」
ナオがぎょっとして顔を上げると、藤井さんは隣の島に目を向けながら、目を細めて言った。
「ねえ、それ……佐久間さんのと、似てない?」
ナオは飲みかけのアイスコーヒーを吹き出しそうになった。
「え、あ、え? いや、あの、たまたまっていうか……!」
「ほんとに偶然? なんか、ちょっとペアっぽくない?」
「……あれ? まさか、おそろいだったりして〜?」
ナオは机に突っ伏したくなるほど顔が熱くなる。
(うそ……まさか見つかるなんて……!)
藤井さんはくすくす笑いながら、パソコンに向かう佐久間に声をかけた。
「佐久間さんも、新しいスマホケース、昨日から使ってますよね?」
佐久間は手を止めずに、ちらっとだけ目線を上げる。
「……似てるだけだろ」
(少しだけ目をそらしながら)
「でもさー、ふたり並ぶとほんと、ペア感あるよ? なんか、いいね〜」
ナオは俯いたまま、机の木目を見つめながら、心のなかで叫んだ。
(やばい……無意識におそろい提案しちゃってた……!)
「……まあ、偶然ってことで」
佐久間のひとことが、妙に優しく響く。
(否定……しないの……!?)
それがなんだか、嬉しくて、恥ずかしくて、朝から感情が忙しかった。
***
午後、企画チームとマーケティングチームの合同ミーティングが会議室で始まっていた。
新商品のプロモーションについての打ち合わせ。
しかし意見が割れ、空気は少し重くなっていた。
「このままじゃ間に合わないよ」
「でも現行案じゃ弱いって声もあってさ……」
沈黙。
その中で、ナオはふと、若手社員・三浦の方に意識を向けた。
──♪ 一発逆転、奇跡の一手! 切り札は、まだポケットの中──
(……ん? 三浦くん、何か考えてる?)
三浦は伏し目がちで、発言の機会をうかがっているようだった。
(このBGM……たぶん、彼は言いたいことがある)
ナオは小さく手を挙げた。
「すみません。三浦くん、さっき何か言いかけてませんでした?」
三浦がぱちくりと目を瞬かせた。
「えっ、あ……はい。ちょっとだけ、思いついたことがあって……」
「聞かせてくれ」
佐久間の一声に、三浦は小さくうなずいて説明を始めた。
SNSとの連動を軸にした体験型プロモーション案。
予想以上に新鮮な発想で、次第に場の空気が変わっていく。
「それ、すごく面白いじゃん!」「ターゲット層に刺さりそう!」
一気に拍手と笑いが広がり、場が明るくなった。
ナオは隅の席で、ほっと息を吐く。
(三浦くんの案が陽の目を見て、よかった……)
そのとき、背後から低くてやわらかな声が聞こえた。
「……ナイスアシストだな」
振り向くと、佐久間が、目元をほんの少し緩めて立っていた。
「俺は、お前のそういうとこ、いいと思う」
ナオは顔がぱっと赤くなり、小さくうなずいた。
「……ありがとうございます」
心のなかが、ふわりとあたたかくなっていた。
***
会社のエレベーターに戻ると、スマホに新着通知が入っていた。
ナオが画面をのぞくと、出張の調整メールだった。
『地方支社との打ち合わせ出張:担当者 佐久間・三崎』
「……え?」
思わず佐久間の方を見ると、彼もスマホを見ながら一言。
「……ふたりで出張、か」
「……ふ、ふたりですか?」
鼓動が一気に跳ね上がった。
(そんな……急に……ふたりきりの……出張!?)
目の前が急に白くなるナオ。
一方で、佐久間はポケットにスマホをしまいながら、ごく自然にこう言う。
「なにかうまいもんでも食べようか。 俺も探すけど 三崎もどこか探しといて?」
「……この人、どこまでも普通のテンションで爆弾落とすのやめてほしい……!」
そしてナオの脳内には、なぜか新しいBGMが流れはじめていた──
♪ ふたりでGo! ビジネスチャンスも恋の旅路も今が旬〜!
ア〜レ〜! 仕事で出張、でも気分は祝祭〜!
オ〜レ! 駅弁、スーツ、そして隣はナオ〜〜〜!
♪ しゅっぱーつ進行〜!恋も業務も〜スケジュール調整次第〜♪
キラキラのラテン風ファンファーレ、舞い上がる紙吹雪、まばゆいスポットライト──
(……うそでしょ、佐久間さん……頭の中、完全に前のマツケンサンバじゃん……!)
ナオは顔を赤くしてうつむいた。
──つづく。
ナオのナイスアシスト、さりげなく褒める佐久間さん、
そしてふたりきりの出張……!?
次回は、旅×出張×恋のスパイスが入り乱れる予感です。
佐久間さんの“脳内BGMマツケン問題”も、続報あり?(笑)
引き続きお楽しみに!




