第20話 恋の告白、筒抜け事件
ナオの「告白」が思いがけず佐久間さんに筒抜けだった──という衝撃展開から始まる第20話。
今回のテーマは「逃げたくなるほどの恥」と「それでもあふれる恋心」。
やっちゃんとの会話で、ついにナオが“BGMの秘密”を明かします。
それを知ったやっちゃんの反応は?
そして酔い潰れたナオが目を覚ました場所とは……!?
赤面&ニヤニヤ必至の“第2の事件”が、静かに幕を開けます。
「まじでぇぇぇ!?!?」
叫び声が店内に響く。
恥も外聞もなく、ナオは両手で頭を抱えていた。
(……ぜんぶ聞かれてた!?)
好きとか、恋とか、そういうセリフをぜんぶ……!
「ちょ、ちょっとナオ、落ち着いて!」
「落ち着けるかっての!!」
やっちゃんがナオの肩を揺さぶる。
「……でもさ、切れてたかもしれないし。途中で途切れてたとか、あるかもよ?」
「……ないって。だって、BGM流れたもん」
「……BGM?」
「うん……あのサンバのやつ……」
ナオは深呼吸を一つして、観念したようにグラスの水を一口飲む。
「俺さ、ちょっと……変な話してもいい?」
「いいよ。いまさらでしょ」
やっちゃんのその一言に、ナオは苦笑いを返すと、ぽつりぽつりと話し始めた。
「俺、なんか……人の“心のBGM”が聞こえるんだ」
「……は?」
「感情が高ぶったときとか、その人の気持ちがすごく強いときにだけ、頭の中に音楽が流れてくるの。声とか歌詞付きで」
「……マジ?」
ナオはうなずいた。
最初に意識したのは……佐久間さんにお茶を渡したときなんだ」
「お茶?」
「うん。“よかったら”って渡したら、頭の中でいきなり……
♪ナオ……ナオ……gift for me……? Thank you...
って、英語のバラードっぽいやつが流れてきて……」
「えっ、そんな感謝の歌!? ギフト扱い!? なにそれ可愛い!」
「で、そのあと飲み会で佐久間さんが倒れて、
『オーレッ! サクマ・フィーバーッ! 恋の乱舞でソイヤッ!』
ってサンバ流れて──」
「サンバ!? テンション高っ!」
「しかもその直後に、
“ミサキ、ミサキ、ミサキィィ〜〜〜♪ ナオ、ナオ、ナオ〜〜〜♪”
って連呼されて……!」
「それ完全に恋の祭りじゃん!」
「風邪のときもさ、道で会った瞬間に……
♪『会えたことが こんなにも
心を動かすなんて 知らなかった』
とか、バラードが流れて」
「待って、それめっちゃエモいやつじゃん……!」
「極めつけは、シャワーのあと着替えてるとき。
♪ソイヤッ! ソイヤッ! ナ〜〜〜オ〜〜〜! 愛してる〜〜〜!!!
って、もう叫ばれてて」
「叫ばれてたんだ!?」
なおは苦笑しながらグラスを持ち直す。
(……キスされたときのBGMの話だけは、さすがにできなかった)
「……え、ちょっと待って。それ……完全に恋してるじゃん……」
「……絶対、佐久間さん、ナオのこと……好きだよ」
そこまで言って、ナオは椅子に沈み込んだ。
「──けど、それを俺が今日、本人にまるっと告白したってことだよな……」
「あ、あはは……そういうことになるわね……」
やっちゃんがグラスを持ち上げる。
やっちゃんはあっけにとられた顔でしばらく沈黙していたが、ふと眉をひそめて言った。
「……ちょっと待って、じゃあさ。あたしといるときって、BGMどうなってんの?」
「えっ」
ナオは一瞬固まり、それから少し焦ったように言った。
「いや、えーと、やっちゃんのときは……なんか、普通にBGMないっていうか……たぶん“日常”カテゴリーって感じで……」
「えー!? なにそれ不服〜! 私にもなんか流れてよ〜!」
「いやでも逆に、それって安心できる存在ってことだから!」
「それ、フォローになってないからね?」
ナオは思わず吹き出した。
でも、その笑いは長く続かなかった。
笑ったあとに押し寄せてくる現実が、じわりと胸を締めつける。
「……もう、飲むしかない……」
ナオは自分に言い聞かせるようにグラスを手に取り、ぐいっと飲み干した。
「ちょ、ナオ、ちょっとペース早くない?」
やっちゃんが止めようとするが、ナオは聞く耳を持たない。
「月曜日、どんな顔して会社行けばいいんだよ……!」
そのあとも、何杯かワインを重ねたところで──
ナオの頭が、がくんとテーブルに落ちた。
「……ナオ?」
やっちゃんが覗き込む。
「こりゃ、完全に落ちたな……」
スマホを取り出し、ロックを解除。
「佐久間さん……っと」
発信ボタンを押す。
『はい、佐久間です』
「佐久間さん、やよいです。すみません、ナオが酔いつぶれちゃって……迎えに来てもらえませんか?」
***
──そのころナオは、夢のなか。
(……ん……なんか、いい匂い……)
柔らかい布団の感触。
そして、どこか落ち着く香りに包まれて。
(……なんか、佐久間さんの匂い、みたいな……)
意識は遠く、身体はふわふわとしていた。
***
──翌朝。
「……う……」
頭が重い。まぶたを開けると、見知らぬ天井。
(……え?)
慌てて起き上がると、ブランケットが滑り落ちる。
木目調の家具に、シンプルなインテリア。
(えっ……ここ……?もしかして)
そのとき、扉がノックされ、佐久間さんが現れた。
「……起きたか。大丈夫か?」
手には、冷えた水の入ったグラス。
「……さ、佐久間さん!?」
「昨日、やよいさんから連絡があって。迎えに行ったら、ぐっすり寝てて……」
佐久間さんは静かに笑って、グラスを差し出す。
ナオはそれを受け取りながら、全身の血が逆流するような気持ちになった。
(……まって……まって……)
思い出そうとするほどに、恥ずかしさがこみあげてくる。
「だ、大丈夫です……あの、ほんとすみませんでした!」
そう言って、ナオはブランケットを被り、もそもそと布団に潜り込む。
(……いや待って、月曜とかじゃない。今なんだよ……! 佐久間さん、目の前にいるんだよ!? 恥ずかしすぎて、顔合わせるとか無理すぎる……!!)
──つづく。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
今回の20話は、佐久間さんに「まるっと聞かれていた」という恥ずかしすぎる大事件と、ナオが“心のBGM”をやっちゃんに初告白する重要回でした。
ディズニー風BGMに共鳴している(かもしれない)やっちゃん、最高の相棒感です。
でも、油断してると次の瞬間──目の前に佐久間さん!?
ここからのナオ、どう立ち直るのか……次回もぜひお楽しみに!




