第19話 気づいたら、好きになってた
真鍋さんと飲みに行った佐久間さん。それだけなのに、なんでこんなに胸がざわつくんだろう──。
金曜の夜、幼なじみのやっちゃんとのご飯で、ナオがようやく気づいた“想い”。
でもその瞬間、まさかの通話中──!? 告白、バレてた!?
ドタバタと赤面MAXな第19話です。
──金曜の夜。
明るく賑わう街を歩きながら、ナオはスマホを握る手に、まだ少し力が入っていた。
(……佐久間さん、真鍋さんと飲みに行ったんだよな)
わかってる。べつに、恋人でもなんでもないし。
でも──なんでこんなに、胸がざわついてるんだろう。
駅前の交差点を抜けたところで、元気な声が飛んできた。
「ナオ〜っ!」
「やっちゃん……!」
待ち合わせ場所に先に着いていたのは、短めのスカートにキャップを合わせた、元気いっぱいの幼なじみ。
「よかった〜、今日もちゃんとイケメンじゃん! 行こっか!」
笑って腕を組まれそうになって、慌てて距離をとる。
「や、やめてよ……」
「はいはい、冗談。──で? 今日は何があったの?」
「え?」
「だって、顔に“もやもやしてます”って書いてあるよ」
図星を突かれて、ナオはつい顔を背ける。
***
入ったのは、こぢんまりしたイタリアンバルだった。
カウンター席に並んで腰を下ろし、前菜とドリンクを頼む。
ワインが少しだけ喉を通った頃、やっちゃんが言った。
「で、誰に嫉妬してるの?」
「……してないってば」
「ふーん? “してない”わりに、飲むペース早くない?」
「……っ」
たしかに、気づけばもう2杯目だった。
「てかさ。ナオ、もしかしてその人のこと……好きなんじゃないの?」
「えっ……」
その一言に、胸の奥がぐっと熱くなった。
好き──
そんなはず、ないと思ってた。
けど。
「……なんで、こんなに気になるんだろって思ってた」
「うん」
「だって、飲みに行っただけなのに。何があったわけでもないのに……勝手にイライラして、落ち込んで、気がついたら──」
ワインのグラスを持つ手が、少しだけ震えていた。
「──会いたくなってた」
口にした瞬間、自分で驚いた。
(……俺、今、ほんとにそう思ったんだ)
「ごめん、変なこと言ってるよね、俺……」
苦笑いを浮かべたその時、ポケットのスマホが振動した。
「……あ、佐久間さんから……!」
名前を見た瞬間、心臓が跳ねる。
「ちょっと出てくる」
ナオは席を立ち、静かな通路で通話ボタンを押す。
「もしもし、三崎です」
『ああ、今日のA社のプレゼン資料、フォルダに入れてくれてたやつ……あれ、上の承認が週明けになったから、一部だけでいい。月曜に再提出する感じで頼む』
「あ、はい! わかりました」
『それだけ。じゃあ……』
(……終わるの、早っ)
──通話を終えて、スマホの画面を下に向けたそのとき。
「すみません」
すれ違いざまに誰かと軽くぶつかり、ナオはスマホを持ち直す。
画面はロック状態に戻り、そのままポケットにしまい再び席に戻る。
「──で、さっきの話の続きなんだけどさ」
やっちゃんがワインをくるくる回しながら、ナオの顔をのぞき込む。
「……それ、たぶん、恋だよ」
「……え?」
「ナオ、なんかんだ言って佐久間さんのことずっと気にしてたし、今日だって“モヤモヤする”って……」
ナオは黙り込む。そして──
「……俺、佐久間さんのことが……好き、かもしれない」
ちいさな声で、でもはっきりと。
「……気づいたら、いつも佐久間さんのこと考えてて」
──そのときだった。
突然、どこからともなく、サンバの様な軽快なリズムが流れてきた。
♪ ラ~ララ~! 愛してる~よ~~~! オーレッ!
♪ 君の笑顔が~~眩しすぎて~~~! セイッ! アモーレッ!
「……えっ、なに!? なんか音楽流れてない!?」
慌てて周囲を見渡すナオ。やっちゃんはきょとんとしている。
「え? 音楽? なんも聞こえないけど……」
(え、じゃあ俺だけ!?)
──そして、気づく。スマホ。
ディスプレイを見ると、まだ通話中。表示されている名前は──
「……さ、佐久間さん……!? うそ……今の……!?」
まさかの“告白+恋愛発覚”を──佐久間さんにぜんぶ聞かれてた……?
「まじでぇぇぇ!?!?」
思わず、店内に響きそうな声が出た。
目を見開いたまま、ナオはスマホの画面を凝視する。
(……うそ、うそだよね? 今の、ぜんぶ聞かれてた……!?)
頭が真っ白になって、心臓がバクバクと暴れはじめる。
背筋をつたう冷や汗。手のひらからスマホが滑り落ちそうになるのを、慌てて握りしめた。
「えっ、えっ、ちょ、待って待って、えっ!? これ聞かれてた!? 全部!? 恋とか、好きとか……サンバまで!?」
パニック状態のナオの様子に、やっちゃんがキョトンとして首をかしげた。
「え、どうしたのナオ?」
「やっちゃん……俺……死んだかもしれない……」
顔がみるみる真っ赤になって、もうどこにも逃げ場がなかった。
──つづく。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
ついに……ナオが佐久間さんへの気持ちを自覚する回でした。
でもまさかの“全部聞かれてた”という、最大の羞恥プレイつき……!
サンバ、やっぱり切り札ですね(笑)
次回は、ナオと佐久間さん、どんな顔して会うんでしょう……お楽しみに!




