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第17話 今日の僕は、佐久間さんが選んだ僕です

今日は、なんでもない休日──のはずだった。


けれど、並んで歩く朝の街も、知らなかった味も、

「似合う」と言ってくれるその声も、全部が特別に思えてくる。


“ふたりきりの一日”が、少しずつ、僕の心を変えていった──


第17話、はじまります。

──朝。


窓の向こうは、昨夜の嵐が嘘みたいな快晴だった。

差し込む陽光に目を細めながら、俺と佐久間さんは並んでマンションのエントランスを出た。


「晴れてよかったですね」


「……ああ」


なんでもない一言に、いつもどおりの低い声が返ってくる。

でも、それだけでなんだか嬉しい。


カフェに着くと、案の定──店内は女性客が多かった。

でも、入ってしまえば気にならない。


ナチュラルウッド調のテーブルに、彩り豊かな朝食プレート。

サラダ、スクランブルエッグ、自家製パンに、スムージーまで付いてきた。


「……めっちゃ美味しい……!」


思わず声が漏れてしまう。佐久間さんも、少しだけ目を細めて頷いた。


「うまいな」


それだけの一言なのに、なぜかちょっと誇らしそうに見えた。


けれど、ふと自分の服装に目を落とすと、少しだけ居心地が悪くなる。


「……俺、ジャージとTシャツでこの店は、ちょっと場違いですよね……」


「気にするな。俺の服だし」


「いや、そうなんですけど……普段、服ってあんまり買わなくて。センスも自信ないし……」


パンをちぎりながら、自然とそんな話題になっていく。


「じゃあ、あとで見に行くか。似合いそうなの、いくつか思い浮かんだ」


「えっ……佐久間さんが、選んでくれるんですか?」


「ああ」


シンプルな言葉に、内心で飛び跳ねる。



ショッピングモールでは、佐久間さんの案内で、こじんまりしたセレクトショップに入った。


淡い色合いのシャツや、きれいめのパンツ。

試着室から出ると、佐久間さんが一歩近づいて、袖の長さを整えてくれた。


「……こんなの、着たことなかったです」


鏡の中の自分は、少しだけ“他人みたい”で──でも、どこか誇らしかった。


「……なんか、俺が佐久間さんにしてあげようって思ってたのに……逆に、してもらってばっかりです」


そう言うと、佐久間さんはふっと笑った。


「そんなことない。……こんなふうに、一緒にいて楽しいって思えるの、久しぶりだ」


その一言が、胸の奥に温かく染み込んでいく。


会計は佐久間さんがすべて済ませてしまった。

ナオは小さく「ありがとうございます」と頭を下げた。



モールを歩いていると、ふと、さっきの朝食から少し時間が空いていることに気づく。


「……なんか、またお腹すきませんか?」


「……そうかもな」


「じゃあ、次は僕の番です! ごちそうさせてください」


少し歩いたところにもんじゃ焼き屋を見つけ、ふたりで入った。


「もんじゃ、初めてなんですよね?」


「ああ。正直、勝手がわからない」


「じゃあ、僕に任せてください!」


ナオは張り切って、具材を鉄板に広げていく。

出汁を流し、ヘラで練っていく姿を、佐久間さんは黙って見守っていた。


「……器用だな」


「へへ、たまに友だちと来てたんです」


焼き上がったもんじゃをふたりでつつきながら、自然と話が弾んでいく。


職場では寡黙で、必要以上のことは話さない人──そんなイメージだった佐久間さんが、こんなに笑ってくれるなんて。


「……なんか、佐久間さんって、職場と普段で結構ちがうんですね」


「……そうかもしれない」


夜の喧騒にはまだ早い時間帯。

店を出る頃には、外の風がすこしだけ涼しくなっていた。


「今日は、ありがとうございました」


「こっちこそ」


自然な言葉と、自然な笑顔。


帰り道が、いつもよりずっと短く感じた。


──つづく。

お読みいただきありがとうございました!


佐久間さんとナオ、初めて“ふたりで過ごす休日”の様子を描いた回でした。

一緒に食べるごはん、服を選んでもらう時間、何気ない会話──

そんな日常のなかに、恋のはじまりはちゃんとあるんだと感じながら書きました。


次回も、ふたりの距離がもう少し近づきます。どうぞお楽しみに!

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