表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/41

第15話 一緒に寝ても、いいですか?

佐久間さんに「泊まっていけ」と言われて、素直に「お言葉に甘えて」と答えた僕。


でも──その一言のあと、胸の奥がずっとざわついてる。


シャワー上がりのバスローブ姿。隣で聞こえるグラスの音。

そして、静かな寝息の夜に、そっと触れたキスのぬくもり。

「──泊まっていけよ」

その言葉が落ちたとき、世界が一瞬、静止した気がした。

「……はい、じゃあ……お言葉に甘えて」


──あの瞬間の自分の声は、今思い返しても少し震えていた気がする。


けど、あれからまだ数十分しか経っていないのに、俺の心はずっと落ち着かないまま、ずっと──佐久間さんの側にいる実感を、繰り返し噛みしめていた。


(俺……佐久間さんの家に、泊まるんだ)


「じゃあ、俺もシャワー浴びてくる」

なんとなく会話がひと段落した頃、佐久間さんがふっと立ち上がった。


「はい……」


ナオは借りたTシャツとジャージ姿。ほっと息をつくと、リビングのソファに体を沈めた。ふとテレビをつけて、Netflixを開く。お気に入りのアニメの続きが目になって、つい手が止まった。


(……なんか、ふつうにくつろいでるな、俺)


緊張していたはずなのに、画面を見てるうちにいつの間にか表情がゆるんでいた。だが、数分後──


「……え」


バスルームのドアが開いて、ふわりと温かな蒸気がリビングまで届いた。


現れたのは、バスローブ姿の佐久間さん。


肌に馴染む深いグレー。鎖骨から覗く濡れた素肌。前髪の滴が首筋を伝って落ちる。その姿は、まるで雑誌の1ページみたいで──


「……え、バスローブ……家で着てる人、初めて見ました……!」


ナオは思わず口にしてしまい、すぐに自分の声のトーンに恥ずかしくなる。


「悪いか?」


「い、いえ!似合ってます。すごく……!」


佐久間さんはクスッと笑いながら、手にしたグラスを持ってソファの横のカウンターに立った。


「ウォッカ、飲むか?」


「えっ……いや、僕は……先に寝ます!」


そう答えるのが精一杯だった。さっきのバスローブの破壊力で、これ以上目を合わせていたら危ない。


「そうか。じゃあ、寝室、あっち」


案内されたのは、シンプルだけど落ち着いた雰囲気の部屋。クイーンサイズのベッドが一台、中央にどんと構えていた。


「お前がベッド使え。俺はソファで寝るから」


「え、いや、そんなの申し訳ないです!僕がソファで……」


「いい。客だし」


佐久間さんの言葉は、いつもどおり落ち着いていて、でもどこか優しさがにじんでいる。


それでも、ナオは視線を落として、ぽつりと口にした。


「……じゃあ、大きなベッドだし、一緒に寝ましょうか?」


──時が、止まった。


佐久間さんの動きがわずかに止まる。その横顔に、微かな困惑が浮かぶ。


ナオは、自分で言ったくせに、急に顔が熱くなっていた。


「……おやすみなさいっ」


そう言って、ベッドに逃げ込むように背を向ける。布団の中で、心臓の音が耳元ではっきり聞こえた。


(……なんであんなこと言っちゃったんだろ)


まぶたを閉じても、思考だけは落ち着かない。そんな中、リビングからグラスの音がかすかに聞こえた。


(佐久間さん、飲んでる……)


そう思ったところで、眠気が一気にやってきた。


ナオは、そのまま静かに意識を手放していった──



しばらくして、佐久間はベッドルームのドアをそっと開けた。


暗がりの中、ナオは静かに寝息を立てている。


佐久間は何も言わず、ベッドの縁に腰を下ろした。


その顔を、ゆっくりと見つめる。


──前髪に、指を添える。


さらりと髪を撫で、頬をなぞる。そのぬくもりが、何よりも安らぎを与えてくれるようで。


佐久間は一度、手を止めた。


その寝顔に、ふと目を落とす。静かに上下する胸、落ち着いた寝息──何の警戒もなく眠るなおの姿

顔を近づけかけては、また止まり──視線が迷い、ほんのわずかに距離を取る。


けれど──


なおの唇が、すぐそこにある。


佐久間はほんのわずかに身をかがめ──


その唇に、そっと口づけた。


触れるだけの、静かな、キス。


「……おやすみ」


そう囁いた声は、誰にも届かないくらいに優しかった。


──つづく

15話では、ナオの“天然な一言”が、ふたりの距離をそっと縮めていきます。

緊張と緩み、そして静けさの中での口づけ──


次回、16話では「ナオは本当に寝ていたのか?」という視点から物語が再び動き始めます。

佐久間の“キスのBGM”がどうなるのか、ぜひご期待ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ