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第12話 ジャカジャーン、推しが笑った日。

朝の曇り空と、佐久間さんの曇り顔。

弟キャラとして癒せたらいいな、なんて思ってたけど……まさか“BGM”で気づくとは!?

ナオの小さな奮闘、第12話です。

目が覚めたとき、窓の外はうっすらと曇っていた。


(……あー、ちょっと飲みすぎたかも)


頭がほんのり重い。でも、不思議と気分は悪くない。むしろ──ちょっと、すっきりしていた。


ぼんやりと天井を見上げながら、昨夜のやっちゃんの言葉を思い返す。


「弟キャラでいいじゃん。最初はそれでもさ、いつかちゃんと“ナオ”を見てくれるようになるかもしれないし」

(……そうだよな)


俺なんかが、佐久間さんに好かれるなんて、そもそも現実味がなかったんだ。


あの人は、しっかりしてて、仕事もできて、周りの信頼も厚くて──

なんなら女子社員の間でも「憧れの上司No.1」とか言われてる人で。


そんな人が、俺に「弟を思い出す」って言ってくれた。


(……それだけで、けっこうすごいことじゃない?)


だったらもう、これからは“弟キャラ”でいいじゃん。


俺は、まくらに顔を埋めて、小さく息をついた。


(よし。今日からは、ちゃんと弟ポジで、がんばる)


そう決めて、顔を洗い、いつもよりちょっと気合い入れて出社した。



「おはようございまーす!」


少しだけ声にハリを持たせて、挨拶する。


が──


「……おはよう」


応接スペースのソファ席でノートPCを開いていた佐久間さんが、こちらをちらりと見たあと、またすぐ視線を落とした。


(……あれ?)


なんか、テンション低い。


それどころか、暗い……?


いつもなら「報告書、見た」くらいは言ってくれるのに、今日は完全に“無言モード”。


しかも。


(……BGM、流れてる)

今、佐久間さんの脳内には──重たいストリングスが、低く、ゆっくり流れてる。

まるで、くもり空みたいに。というかどん底みたいな感じ。


(どうしたんだろ……)


もしかして、体調悪い? ……それとも、なにかあった?


胸の奥が、少しだけざわついた。

でも、決めたんだ。


(俺は今日から、“弟キャラ”でがんばるって)


ぐっと背筋を伸ばして、俺は立ち上がった。

ちょうど午後からの部内ミーティングの準備で、資料の確認が必要だった。


(よし、きっかけはそこにしよう)

コピーをまとめたファイルを手に、ソファ席の佐久間さんにそっと近づく。


「さ、佐久間さん」


「……ん?」


目を上げたその表情は、やっぱりまだ少し浮かない。でも、ちゃんとこちらを見てくれている。


「午後の会議の資料、確認してもらえますか? 一応、自分なりにまとめてみたんですけど……」


「……ああ。そこ置いとけ」相変わらず暗い表情で佐久間さんが答える


俺はファイルをテーブルに置き、ふと口を開いた。


「あと……昨日はありがとうございました」


「……?」


「すごく緊張したけど、楽しかったです。ほんと、あんなちゃんとしたお店、初めてだったんで」


佐久間さんは少しだけ目を伏せたまま、小さく「……そうか」とつぶやいた。


(……うん、たぶん、ちょっとだけ気持ち届いた)


そう思ったそのとき──


ピロン♪


スマホが震えた。画面には、LINEの通知。


《やっちゃん:今日こそパン買って帰る!》


「あっ……すみません、ちょっとLINEが……」


「いいよ、見ろ」


そう言って佐久間さんが目線を落とす。


俺は画面をちらっと見て、つい口がゆるんだ。


「……あ、やっちゃんだ」


「……やっちゃん?」


「やっちゃんっていう、うざい幼なじみです。ほんと、あいつは昔から無神経で……」

「実は昨日あのあと、ばったり駅前で会って、そしたら“なお飲もう”って一方的に連れまわされて……」


佐久間さんの視線が、ピクリと動く。


「どんなやつなんだ?」


「んー、ほんっと腐れ縁なんですよ。昔から俺のこと“使いっ走り”みたいに扱ってて、近所じゃ餓鬼大将みたいなポジションで……正直、小学生の頃は泣かされてばっかでした」


「……そうか」

「幼馴染から恋に発展するとかドラマみたいな話しはないのか?」

「恋愛感情とか、マジでゼロですね。ていうかあんなやつ、異性として見れないし……」


「………………ふーん」


その瞬間──


(……あれ?)


頭の中で、佐久間さんのBGMが急変した。


それまで鈍く重たく響いていた哀愁ストリングスが、突然

「ジャカジャーン!」

と陽気なギターに切り替わるイメージが頭に流れ込んできて、思わず肩が跳ねた。

まるで暗転からスポットライト、心の舞台が一気に切り替わったように。

(わからないけど、佐久間さん元気になってくれてよかった。)

俺はそう思いながら、ファイルを指さした。

佐久間さんは、ファイルを軽くめくってから──ふっと、口元だけで小さく笑った。

その笑顔は、昨日のお店で見せてくれたものよりも、ちょっとだけくだけてて。

……たぶん、ほんの少しだけ“素”が混ざってた。


「じゃあ、午後よろしくお願いします!」


「……ああ。任せとけ」


(佐久間さん、笑った……それだけで、今日はもう勝ちじゃん)


──つづく。

佐久間さんのテンションがBGMでダダ下がりしていた理由、ナオはまだ知りません。

でも一言一言が、ちゃんと届いてる。

恋じゃないけど恋にちがいない、そんな微妙な距離感がじわじわ動いてます。

次回もぜひお楽しみに!

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