2.春樹との出逢い・結婚
11話より明るい兆しが見えます。最初の10話まで重い話が続きますが読んで頂けると嬉しいです。
春樹と七海は、友人の結婚式で知り合った。
七海が入社2年目の24歳の時でお互いに二次会の幹事を頼まれていた。
新婦の真美は大学時代の友人で、真美と知り合った頃から交際していた彼と入籍をした。
「新郎新婦に内緒でプレゼントを用意したいから協力してくれませんか?」
新郎新婦と幹事4人で結婚式前に一回飲みに行った際に、春樹ともう一人の幹事の幸雄に頼むと快く承諾してくれた。こうして連絡先を交換し結婚式までの間にみんなでやり取りをした。
結婚式や二次会の参加者や参加はしないが交流がある人たちに各自写真を撮って送ってもらい、その写真を新郎新婦のイニシャルにしてアルバムにして渡した。新婦の真美はとても喜んで、結婚式でも泣きっぱなしだったが再び大粒の涙を流していた。
無事にサプライズが成功し、日を改めて幹事の4人だけで飲みに行った帰り際に春樹から「これからも連絡をしてもいいですか?」と言われ結婚式が終わってからも連絡は続き、そのうち食事に行ったり出掛けるようになり3か月後には告白されお付き合いすることになった。
春樹は、出張に行くと七海だけでなく同居する家族の分までお土産を買ってきてくれる。
料理が得意なため、七海が仕事で春樹が休みの時は夕飯を作ってくれた。
「ありがとう、本当にうれしい。春くんなんでも出来るんだね」
「大袈裟だよ。さ、食べよう」
自分のために料理を作って待っていてくれた春樹に感激している七海を見て、春樹はやさしく微笑み頭を撫でて笑っていた。
クリスマスや誕生日。大切な日はこうして春樹が料理を作ってくれたりホテルのディナーなど少し特別感のある店に連れて行ってくれた。
また会う時は家の前まで迎えに来てくれていた。ある日、迎えに来てくれた車に乗り込もうとすると七海の両親が帰宅したところで駐車場で鉢合わせになった。
「初めまして。七海さんとお付き合いさせて頂いています坂下春樹と申します」
すぐに車から降りて挨拶をしてくれた。その姿に、真剣に娘と付き合ってくれていると両親は安心したらしい。
七海も、自分のことだけでなく両親へ挨拶してくれたことやお土産もかかさず買ってきてくれる。自分の大事な人のことも大切にしてくれる優しい春樹が好きだった。
春樹は早く結婚をしたかったようで付き合って1年でプロポーズ。両親からの印象もよかったため、すんなりと話は進み半年後の春樹が30歳、七海が26歳になった時に入籍をした。
七海も春樹との結婚を望んでいたのでプロポーズされた時は嬉しかった。
大粒の涙を流しながら、よろしくお願いしますと言うと微笑みそっと抱き寄せた。『七海は本当に涙もろいよね。悲しいときじゃなくてもこうやって泣くよね』と笑いながらハンカチで涙を拭ってくれた。
好きな人と結婚できること、涙を流した時は寄り添ってくれる優しさが嬉しかった。この時は、幸せで満たされていた。
プロポーズを受けた後に、将来のことについても聞かれた。
「将来、子どもを授かりたいと思っているけれど、僕は転勤もある。子どもたちに自分の仕事の都合で転校させてしまうのは申し訳ないと思うんだけれど、七海はどう思う?」
「子どもの年齢にもよるかな。大きくなって部活や受験があったら転校は難しいと思うし、本人たちも自分の意志を持っているだろうから、子どもたちの意見も聞いたうえで判断するのがいいと思う。小さいうちは、家庭の存在が大きいから転園を気にしすぎず一緒について行ってもいいと思うな。……でも、その状況になってみないと分からないよね」
「そうだね、その時になったらみんなで考えていけばいいよね」
最初の数年は異動の時期になるとそわそわしながら過ごしていたが、打診もなくそのうち「いつかはあるかもしれないけれど、まだ大丈夫だろう」と他人事のように思っていた。
☆
そして今、その「いつか」が来た。
「その時になったらみんなで考えていけばいいよね」と言っていたはずの夫は”みんな”の意見を聞く前に一人で行くと結論を出している。
「待って……。海斗は4歳・陽菜はまだ2歳よ。お受験や部活もないし家族みんなで動ける時期だと思うけど?」
「そうかもしれないけれど、僕だって新しいことを覚えなくてはいけないし、やることも多いんだ。新天地で家のことまで手が回るか分からない。それなら七海と子どもたちは慣れ親しんだこの地にいた方がいいんじゃないかな。いざとなったら七海のご両親や友人たちにも助けてもらえるだろう」
『新天地で家のことまで手が回るか分からない』
その言葉に、七海は耳を疑った。
春樹は新天地ではない今でも育児には非協力的だ。正確には、"人が見ていないところでは育児に非協力的"で七海が一人で家事・育児を担っていた。
七海は海斗が産まれてからのことを思い出していた。
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