16.大人の男
その後もポロンで恭吾と顔を合わせるようになった。
毎週土曜日の朝は、ここでモーニングを食べるらしい。七海も月に一度、4週目の土日が子どもを預ける日だったので土曜日に行くことが多く顔馴染みになった。
2回目に会った時のように隣に座り長く話すことはなく、最初は別々に座り帰り際、少しばかり会話をする程度だったが恭吾に会うこともここに来る楽しみの一つになっていた。
以前、テイクアウトが出来る店を聞かれ洋食屋のココットを紹介したらすぐに行ったようで翌月会った時にはお弁当と別日に店内で煮込みハンバーグを食べたことを教えてくれた。
その後も、この地域の店やお土産に渡すなら何がいいかなど相談されるようになった。七海が答えるとスマホですぐに調べ次に会った時はお礼と感想も言ってくる恭吾の律義さに感心していた。
カランカランーーー
恭吾が店に入ってきた。七海に気が付き控えめに手を振り微笑んでいる。七海もそっと振り返す。
「この前は割引券ありがとうございました。おかげで安く食べれました。」
「私行けそうになかったから良かった。こちらこそありがとう。」
会社で新規オープン店の割引券付きのチラシを貰ったが昼休みに行くには遠い距離にあり使えそうになかった。恭吾がランチの店を探していることを思い出し前回会った時に渡したのだ。
「お店良かったです。おしゃれな盛り付けで量は少なかったんですが、味は美味しかったです!」
「そうなんだ、いいね」
「七海さん、甘いの好きですか?ここでモーニング以外食べたことあります?」
「だいぶ前だけどあるよ。ここのプリンがThe喫茶店って感じの堅めのプリンで苦めのカラメルがコーヒーと合って美味しいよ。」
メニュー表でデザートのページを開き、プリンの写真をマジマジと見つめる恭吾。甘いものが好きなのか顔が緩んでいる。
「へーいいな、食べてみよう。すみません、プリン2つください!」
「一気に2つも食べるの?トーストもあるけど食べられる?」
「違いますよ、一個は七海さんの分です。この前、割引券貰ったお礼です」
「え?そんな悪いよ」
「気にしないで食べてください。僕、この前誕生日迎えて少し大人になったんです。」
値引額よりプリンの方が高いので申し訳なかったが、『少し大人になった』と胸を少し前に出して言う恭吾が可愛かった。
「ふふふ、ありがとう」
「あ?七海さん今、少し子ども扱いしたでしょ?僕、これでも30なんですよ?」
「えっ!!!」
七海の中で恭吾は、くしゃっと笑う”青年”だった。あどけない見た目と好奇心・探求心の塊でキラキラと笑う恭吾は20代中盤だと思っていた。
自分よりも5歳以上年下、もしかしたら10個下かもと思っていた青年は3個下の”男性”だった。
「やっぱり。いつも年下に間違われるんだよなー」
不服そうに拗ねた顔で言う恭吾は、見た目では24,5でも違和感がなかった。
「いいことだよ、見た目より年上に見られるよりは良くない?」
「そうかなー。いつも子どもっぽく見られるから、大人の男扱いされてみたいです。」
大人の男扱いがどんな扱いか分からなかったが、言う言葉も少年感、いや……青年感があり面白かった。
「お待たせ致しました。」
店員さんが頼んでいたプリンを運んできてくれた。
「そういうことで気にしないでくださいね!」
恭吾は少し離れた席に座り離れていく。
「ありがとう。ごちそうさま」
見た目や大人の男に見られたいという発言は、幼さを感じるが七海がいつも本を熱心に読んでいることを知っているため必要以上に話しかけてこない。
配慮や律義さは大人の男なのかもしれない。
『大人の男かぁ。……ふふふ、やっぱり可愛い。』
そんなことを思いながら、甘くほろ苦いカラメルと一緒にプリンを口の中に入れ余韻に浸った。
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